【読書メモ】「世界はシステムで動く―いま起きていることの本質をつかむ考え方」ドネラ・H・メドウズ(著)枝廣淳子/小田理一郎(訳)
「世界のあらゆる事象はシステムでできていて、問題が発生するような仕組み自体に不具合があるから表層的な問題に対処しても永遠に仕組みは改善されず、問題が起き続ける。じゃあどうやって仕組みの不具合を特定して仕組みを良い方向へ持っていくことができるのか?」
人は、なぜすぐに手を出せる対処療法に走ってしまうのか?
その原因は、楽に現実の認識を歪めることができるからだと言及しています。
システム全体の目的を理解していない状態で施策を打ってしまうと、想定とは逆の反応が返ってくることがあります。
「システムで発生する問題を直視せず、直ぐに手を打つ解決策は、長期的にシステムの自己維持力を下げていく可能性が高い。」とも指摘しています。
その点を考慮した上で、「システム思考」で問題を認識して良い方向へ向かうためには、以下に記載の4つの思考過程を実行する必要があります。
つまり、システム全体の目的を理解して、問題を良い方向に進めていくために必要なことだとされていました。
①部分を理解する力を鍛える
②相互のつながりを見る
③将来的に可能性のある挙動について「もし〜なら、どうなるか?」という問いを発する
④創造的に勇敢にシステムを再設計する
特に、②項の手順は、骨が折れる作業になり、問題を生んでいるシステムの関係者それぞれの状況を洗い出して、相互の関係性を明らかにしていかなければなりません。
それを怠ってしまうと対処療法的な問題解決策になってしまって、より深刻な問題が生じてしまう危険性もあります。
各関係者の目的と状況を洗い出すことができたら、今後、どのような問題が生じうるか?
それぞれの状況がどのように変われば、その当事者・他の関係者状況になるか?
それらの仮説を立てていくことになります。
なお、現在、明らかになっている問題に対処するだけでは、将来発生する問題に後手な対応となってしまい、いつまでも問題を解決することができません。
ここまでで、問題が発生したシステム全体と個々と相互の問題が明らかになり、且つ、今後、どのような問題が起きうるかが解ります。
但し、ここで解っただけで、問題に言及するだけでは、何も事態は好転しません。
手順としては、
①各関係者の抱えている状況を理解した上で、
②彼らの目的と全体の目的が適うように共通認識を持ち、
③優先度の高い問題から順次取り組んでいって、
問題のある状況を少しずつ改善していくことになります。
長期的な解決先に取り組む際、最初は、結果がそぐわないことが多いため、関係者相互の目的を揃えておくことが何よりも重要になります。
すぐに効果が出ないことを継続して、長期的な変化を目指して、じっくりコツコツ取り組むことができるかどうかは、関係者が目的に対して納得しているかどうかにかかっています。
これは、料理でも同じです。
・簡単に美味しさを味わいたくて甘いフルーツにかぶりつくか?
・じっくりコトコト手間暇かけて旨味を引き出して料理するか?
によって、
・短期的に幸福感を得てすぐに渇望感に満たされるか?
・じんわりと幸せな気持ちが持続するか?
の違いが生まれます。
私たちの世界に種々存在する複雑なシステムを根本から解決するためには、関係者の抱えている問題を明らかにし、その問題の絡み合いを理解した上で、関係者すべての利益となるように目的を探し続ける必要があり、一筋縄ではいかないことが多いのも事実です。
もちろん、考え方を急に切り替えるのは簡単なことではありません。
また、年齢を重ねるにつれて、私たちには、何かを失う心の痛みが蓄積され続けるのだから当然だと思います。
しかしながら、システムをより良いものに変えていくためには、専門性を追究するよりも、情報を繋ぐことが効果的な介入策であることがわかっています。
【補足事項(同書前書きの要約)】
自然や社会のシステムは、さまざまなものが複雑に繋がり合っています。
そのため、その一部だけを取り出して考えると、期待した効果が生まれないばかりか、新たな問題を生み出すこともあります。
そうならないように、あらゆるものをシステムとして考え、分析するのが「システム思考」です。
さらに、さまざまなシステムを分析することで、システム独自の特徴や性格、注意すべき点などを理解し、氷山の一角でしかない出来事レベルではなく、システムの構造やその奥底にあるメンタル・モデル(意識・無意識の前提、思い込み)に働きかけることで、必要な変化をより効果的に作りだしていくことができます。
世界も、日本社会も、私たちの暮らしも、これまでどおりが通用しない時代に入っています。
・温暖化問題
・エネルギー問題
・紛争問題
・人口減少
・高齢化問題
・非正規社員や貧困層の急増問題
・年金をはじめとする社会保障制度の行き詰まり問題
・社会のつながりの弱化問題
・政府への信頼の低下問題
今日も、明日も、これからもずっと、私たちが所属する世界では、毎日、さまざまな出来事が起こります。
そういった大小さまざまな出来事に一喜一憂、右往左往し、後手に回って対応するのではなく、
・目の前の出来事がどのような大きな趨勢の一角なのか?
・その趨勢を作りだしているのはどのような構造なのか?
を考え、見抜くことができるとしたら、毎日がどれほどラクになることか。
自分自身や、私たちが所属する世界がシステムとして持っている特徴や落とし穴をあらかじめ知っていれば、より上手につきあうことができるようになる筈。
時代や社会の変化に蹂躙されるのではなく、その変化を望ましい方向に向けていくこともできると考えられます。
不確実で不安定な時代になればなるほど、システム的な考え方やものの見方、変化の創り方が必要になります。
システムとは本来的に複雑なものですが、
・そのシステムをどのようにとらえればよいのか?
・どのような特徴があるのか?
・どのようなことに気をつけるべきなのか?
各自が所属する世界と対峙し、より適切な判断が下せる様に、「システム思考」を、あなたを守る盾のひとつに加えてみては如何でしょうか?
【参考記事】
「勇気」を獲得することと、その重要性を教えることについて。
https://blog.tinect.jp/?p=82626
リスクをとっている人だけが、見える世界がある。
https://blog.tinect.jp/?p=64276