【秋ピリカ応募作品】玉手箱(空の中道)
“解析中・・”
[活きたがる形があるので生きている。
長雨が明けて叭々鳥が、その命を余さず秋空を高く飛び行き交っている。
ただそれだけのなんとこの素敵な日和に、不幸せと背中合わせの瑞風も辺りを行き交っていたからか。
待つことを忘れたい立秋の午後だというのに、何を思ったのか、ふと指を合わせて角型窓を作っていた。
その小窓の間隙を覗き見ると、過る旻天に泳ぐ白長須鯨が一頭。
それを、しれっと狙う窓辺の子猫が一匹。
子猫のために開けた小窓から、一緒に色無き風も入ってきた。
屋内は現在へ。
屋外は未来へ。
その小窓は過去へと繋がり。
世界の黄昏れに思いを馳せつつ。
照らす形の淵にランプを置いてみた。
緩やかに彩り変わるはずだった心相。
いつの間にか、その遠近の小窓から放たれた赫い風船が、天つ御空と溶け合い。
庭先の木陰と彼の影とが小窓を通じて混じり合うと。
色紙が夕陽に照らされた広き部屋を、一筆書きの緘黙な轍跡が貫いた。
そこに、活きるために不可欠な形が、俤として残されていたからか。
ふいに思い出したかの様に、愛想笑いが、ひとつ。
その部屋で哄笑と共に、内に飼い慣らす鵺鳥を宥めている。
いつも剥き出しの心を、その眉と背中を濡らしている。
もう二度と行くこと叶わぬ時を形に抱えて眠ってしまわぬうちに。
一枚の赫く風船が、閃電の如く空けの言葉を放ち。
直下に彼の形を打つ筈だった。
デジタルな世界がアナログな大自然の姿へと到達した近未来。
川の記憶が運んだ豊沃な土の記憶から。
木の記憶へと枝分かれし形となり。
折り込まれるデータで認めた杜の記憶が物を成す事で。
公・私・個が自己組織化された重層的世界。
その世界で彼は・
崩れゆく形みな灰白となり。
諦めゆく型みな焦がし影を伴い。
面白かった地図を汚していく。
堪らず彼の名を叫ぶとき、喉はもう燃えていた。
よく笑い泣くことのない日々でさえ。
時は仰ぎ見る蒼天の数量を剥がし続け。
風に溶け込ませる現実世界の夢の分量を増やしていく。
あの世界で、ぽつんと置き去りにされた記憶達は、まるで乱れる飛行機雲の様に風によって清められ。
どちらか選べなかった記憶だけ生かし、継承されぬ愛しき短編を終わらせていく。
もうこの世界で彼は、薄れゆき透明になるまで紙一重。
だが赫々たるバロンを掴めば、一枚の紙として元に戻れる。]
裏をかきに・
いけない・
〈かかざれば わがかたちきえ やぶれくろ きえんくうこわ せしろきこくう〉
“予測確信度59%∵書我憶消紙破黒円空壊白虚空”
“折形了知症検査用言詞理解試験/適否結果/不可”
“紙から顔上げる/こころが下向く確率/有意差/是認∴精確分析移行要求”
(∃折紙付;手書文字≪匿名文字が溢れる時代∴信受?)
(紙⇒〈書く⊃消す≈心と頭を整える〉時間∝朧気✖)
「それじゃ楮山さん討究任せていい」
(挙りて
来る
紙
に
文字
が
書
かれ
わかつ
瞬間
空覚
が
形
となり
機能
する
憂懼)
「あ、はい。レベ、いえCTXシミュの改良進めます」
<1,200 文字>
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