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【読書メモ】「おらんだ正月 江戸時代の科学者達」森銑三(著)(富山房百科文庫)

江戸期の和時計技術の最高峰「万年時計」

「おらんだ正月 江戸時代の科学者達」森銑三(著)(富山房百科文庫)

「新編・おらんだ正月」(岩波文庫)森銑三(著)小出昌洋(編)

[ 問題提起 ]
この本は、森先生が雑誌『子供の科学』に連載された、江戸時代の科学者たちの伝記を一冊にまとめられたもので、初版が出版されたのは、昭和13年のことです。

「子供の科学」は、株式会社誠文堂新光社様の発行する小中学生向けの月刊科学雑誌です。

創刊は関東大震災の翌年1924年(大正13年)とふるく、世代をまたいで読み継がれています。

子供の科学増刊 模型製作読本 昭和13年6月5日号

子供の科学 2024年1月号 [特大号 別冊付録付き]

【参考記事】

江戸の科学技術は世界水準!ものづくり日本の原点を見直そう

https://s-park.wao.ne.jp/archives/1426

【参考図書】
「江戸時代の科学技術―国友一貫斎から広がる世界」市立長浜城歴史博物館(編)

子供向けの伝記ですから、語り口もやさしく、古い本ですが非常に読みやすいのが特徴です。

いまでも絶版になることなく、冨山房で在庫僅少ながらも読み継がれているは、驚くべきことだと思います。

この本を一読した方は、かならずや先人たちが学問に寄せた情熱に感動し、それら先人たちへの尊敬の念がわいてくるはずです。

それとともに、江戸時代の学問が漢学ばかりではなく、いろいろな方面に広がっていたことにも驚きを禁じえないと思います。

著者(1895-1985)は、伝記作家として、卓越した仕事をした人です。

晩年は、西鶴研究に打ち込みました。

学歴は、小学校を終えただけでしたが、刈谷町図書館の嘱託として、古文書整理をしたことをきっかけとして、古文書について深い学識を持つようになり、東大史料編纂所に入って、『大日本史料』編纂にも携わりました。

史料編纂所を辞したあとは、著述に専心し、この『おらんだ正月』をはじめ好著が多くありましたが、50歳のとき東京大空襲で多年蒐集の資料が一夜にして灰燼となり、近世人物研究が十分にできなくなったことはまことに惜しいことです。

森銑三の著作は、中央公論社の『森銑三著作集』(正篇12巻別巻1、続編16巻)に収められています。

[ 結論 ]
この本にとりあげられた先人たちは、いずれも有名な人ばかりです。

著名な漢学者たちもこれら科学者たちと交流をもっていたので、漢学史を研究する人びともこれらの科学者たちについて知っておく必要があります。

たとえば、帆足万里や佐久間象山などは、本人自身が漢学者でもありますし、漢学者・大槻盤渓は大蘭学者・大槻盤水(玄沢)の子です。

また、高野長英ら蛮社の人人は、漢学者の安積艮斎(あさか・ごんさい)や松崎慊堂(まつざき・こうどう)とも交流がありました。

また、漢学者・塩谷宕陰(しおのや・とういん)は、兵法家・鈴木春山の墓碑の文章を書いています。

また、植物学者・化学者として名高い宇田川榕庵(うたがわ・ようあん)は、「酸素」などの訳語を数多く作っていますが、これは漢学の学力の裏打ちがあったから可能だったことです。榕庵はシーボルトとも交流があり、幅広い知識人でした。

このように、江戸時代の学問は多岐にわたり、学者たちも自由に交流していました。

森銑三の評伝はいろいろありますが、最近出たものでは、森田誠吾氏の『明治人ものがたり』(岩波新書)所収の『学歴のない学歴』が、晩年の西鶴研究にも触れていてよいと思います。

「明治人ものがたり」(岩波新書)森田誠吾(著)

副題は江戸時代の科学者達です。

その科学者も多士済々、医者から、発明家、探検家、思想家などが取り上げられています。

例えば、伊能忠敬・平賀源内・高野長英などの人々。

この本は、そうした江戸時代の科学者たちの伝記を簡潔平易にまとめられ、今読んでもたいへんわかりやすい内容になっています。

当時『子供の科学』に掲載され好評を博していました。

その記事がまとめられ、出版されたのが昭和13年です。

この本には、教科書に知っている人たち以外にも、江戸時代はこういう人がいたのかというほど、いろいろな分野の人たちが50名以上載っています。

人に人生あり。

江戸の科学者は、様々な分野の知識を身に付けていました。

江戸時代は、理系・文系問わず、自由闊達に交流が行われ、知のレベルも向上していた時代ではないかと思います。

量は質に転化する。

こうした本から「江戸時代の想像力」を推測するしかないのですが、この本は、その力の凄さを教えてくれます。

[ コメント ]
もう一冊、江戸時代の人を取り上げた本で印象に残っているのが、『諸國畸人傳』(石川淳著 中公文庫)です。

「諸国畸人伝」(中公文庫)石川淳(著)

これもまた江戸末期から明治にかけて生きた畸人たちの生き方取り上げています。

『オランダ正月』が江戸時代の理系の人たちの生き方を、『諸國畸人傳』が同時代の文系の人たちの生き方を描いているといってもいいでしょう。

この本を読んで、江戸時代の科学史の研究に志した人びとも多いと聞きます。

子供達にも、是非、読んで欲しい本のひとつです。

「森銑三入門」としても最適の一冊です。

因みに、おらんだ正月とは、江戸時代の蘭学者たちが寛政6年11月11日が太陽暦では1794年1月1日にあたるというので、その正月を祝ったそうです。

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