【「嗜む」のすすめ】楽しく明るい玩具としての本に焦がれ本を嗜む
私達が密かに大切にしているものたち。
確かにあるのに。
指差すことができない。
それらは、目に見えるものばかりではなくて。
それらを、ひとつずつ読み解き。
それらを、丁寧に表わしていく。
そうして出来た言葉の集積を嗜む。
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■テキスト
「かたちの日本美 和のデザイン学」(NHKブックス)三井秀樹(著)
[ 内容 ]
今や世界的な評価を受ける日本のデザイン感覚。
その背景にある日本人独自の造形原理とは何だろうか。
リアリズムにとらわれず自然を抽象化する日本の造形原理は、ジャポニスムとして西欧に衝撃を与え、デザインという考え方そのものの出発点ともなった。
浮世絵やキモノ、陶器、大和絵といった日本の伝統美術を、「斜線」「余白」「ぼかし」「にじみ」「紋」などデザイン学の視点から多角的に分析することで、現代のデザインにまで通底する「かたちの日本美」に迫る。
[ 目次 ]
序章 和の美と日本人
第1章 日本人の美意識と造形原理
第2章 和の美と日本文化
第3章 ジャポニスムと西洋文化
第4章 現代デザインの中の日本美
終章 未来への伝統美
[ 問題提起 ]
日本と西洋の文化の違いの根幹は、「木の文化」と「石の文化」の違いにある。
石は半永久的だが、木はやがて朽ちる。
日本人はそこに「もののあわれ」を感じ、自然への審美眼を培ってきた。
21世紀はこうした「ソフトパワー」が、経済・軍事力などの「ハードパワー」を資源としてしのぐ時代になると説く論者もいる。
平面的描写の絵画、大胆な余白のある構図、ぼかしやにじみの表現方法、シンボル化された家紋のデザイン。
日本人の私にとって、これらの伝統的な日本の様式美は、なじみのあるものである。
だから、今まで格別、不思議には思わなかった。
けれど、本書を読み、日本と西洋の美意識の違いを考えさせられた。
日本と西洋の文化の根幹が分かる一冊でもある。
[ 結論 ]
日本人はむかしから木と付き合いながら生活をしてきた。
木の家に住み、木の家具や食器を使い、下駄を履き、木から作った紙で文書を書いた。
一方で、西洋は、ギリシャ文明以降、石積みや煉瓦の家に住み、テラコッタの瓦やタイルで壁や床を飾った。
木の文化と石の文化の違いである。
そして、木はやがて朽ちる。
石のように、半永久的ではない。
そのような生活環境から、日本人は、脆弱で危なげなものに対する「もののあわれ」や自然に対する審美眼が生まれた。
日本のデザインのルーツはそこにあるのだと著者は断言している。
そんな日本と西洋の違いでいちばん、わかりやすかったのは「いけばな」と「フラワーアレンジメント」の例えであった。
フラワーアレンジメントは、花そのものを愛で、その美しさを飾り立ててデコレーションする装飾様式である。
左右対称のシンメトリー型に配置したり、円錐形や二等辺三角形、円形(リース)のような幾何学的なかたちに終始している。
西洋は対称、定型、黄金比を重視した。
一方、日本のいけばなは、自然のままのかたちの美しさを器に再現しようとした。
自然界に完全なシンメトリーは見られないのと同じで、基本的にシンメトリーの形状や挿し方はしない。
非対称に挿した花枝をバランスよくまとめ、装飾の域を超えた深い精神性を見出そうとした。
これが自然の美を始原としてきた日本人の感性である。
かつて、世界を魅了し、影響を与えた「ジャポニズム」という日本ブームがあった。
現在も「ジャパンクール」と呼ばれるサブカルチャーをはじめとした日本文化がもてはやされている。
この「ジャパンクール」と呼ばれるサブカルチャーも、脈々と受け継がれてきた日本独自の和のデザインが形を変えたものだと著者は言う。
ハーバード大学のジョセフ・ナイ氏は、他国を制する経済・軍事力のことを「ハードパワー」と言い、文化やサブカルチャーのことを「ソフトパワー」という概念で位置づけた。
そして、21世紀は、ソフトパワーによって、国の政策として普遍的な価値観を作り上げることの重要性を説いている。
著者は「資源貧国である日本にとって、文化力はハードパワーに勝る永続の力をもった資源」と語っている。
今後の「ジャパンクール」の展開に期待したい。
[ コメント ]
日本にいると、自国の文化を客観視することは難しい。
けれど、この本を読むことで、花鳥風月から生まれた先人たちのデザインが、今なお、色あせない魅力を持っていることに気づくことができる。
<参考図書>
「抽象の力」(近代芸術の解析)岡崎乾二郎(著)
「感覚のエデン」(岡崎乾二郎批評選集 vol.1)岡崎乾二郎(著)
「点と線から面へ」(ちくま学芸文庫)ヴァシリー・カンディンスキー(著)宮島久雄(訳)
「造形思考(上)」(ちくま学芸文庫)パウル・クレー(著)土方定一/菊盛英夫/坂崎乙郎(訳)
「造形思考(下)」(ちくま学芸文庫)パウル・クレー(著)土方定一/菊盛英夫/坂崎乙郎(訳)
「デザインの言語化 〈クライアントの要望にこたえる4つのステップ〉」こげちゃ丸(著)Workship MAGAZINE(編)
「いとをかしき20世紀美術」筧菜奈子(イラスト, 著)
■30夜300冊目
2024年4月18日から、適宜、1夜10冊の本を選別して、その本達に肖り、倣うことで、知文(考えや事柄を他に知らせるための書面)を実践するための参考図書として、紹介させて頂きますね(^^)
みなさんにとっても、それぞれが恋い焦がれ、貪り、血肉とした夜があると思います。
どんな夜を持ち込んで、その中から、どんな夜を選んだのか。
そして、私達は、何に、肖り、倣おうととしているのか。
その様な稽古の稽古たる所以となり得る本に出会うことは、とても面白い夜を体験させてくれると、そう考えています。
さてと、今日は、どれを読もうかなんて。
武道や茶道の稽古のように装いを整えて。
振る舞いを変え。
居ずまいから見直して。
好きなことに没入する「読書の稽古」。
稽古の字義は、古に稽えること。
古典に還れという意味ではなくて、「古」そのものに学び、そのプロセスを習熟することを指す。
西平直著「世阿弥の稽古哲学」
自分と向き合う時間に浸る「ヒタ活」(^^)
さて、今宵のお稽古で、嗜む本のお品書きは・・・
【「嗜む」のすすめ】楽しく明るい玩具としての本に焦がれ本を嗜む
D-ZONE エディトリアルデザイン 1975-1999
戸田ツトム
円と四角
向井周太郎、松田行正
線の冒険 デザインの事件簿
松田行正
ZERRO
松田行正
はじまりの物語 デザインの視線
松田行正
Alexey Brodovitch
Kerry William Purcell
原弘 デザインの世紀
原弘
のの字ものがたり
田村義也
われらデザインの時代
田中一光
デザイン快想録
福田繁雄
■(参考記事)
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