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【宿題帳(自習用)】情報の力を獲得するために心と情報との付き合い方を再考してみる(その3)

【関連記事①】
前の記事は↓を参照。

さて、ここから生命情報について考えてみると、同情報は、生物が環境から読み取る情報で、その受け取り方、伝え方は、個体によってゆらぐ恣意的なものです。

また、情報は、生物が環境からあるパターンとして獲得し、蓄積し、そして新たに獲得した情報と合成され、さらに蓄積されます。

頭の中にある情報然り、遺伝情報然り、歴史的・時間的に累積していきます。

生命にとって情報とは、生物がパターンを作り出すパターンなのです。

これは、文化人類学者ベイトソンの有名なフレーズ「情報とは、違いを作り出す違いのことである」という定義にも通じていると考えられます。

但し、ベイトソンは、生物・非生物を区別しておらず、それが弱点だと言われています。

ところで社会動物は、日常生活においてコミュニケーションを取らなくてはなりません。

それが最も生き延びる戦略上正しいからです。

よって、社会動物は、お互いに何らかの外部シンボルである言語、身振り、声、といったもので自分の得た生命情報を伝達することになります。

言語は、その最たるもので、それ自体は、単なる記号にしか過ぎません。

しかし、その記号の指す意味内容が不安定だとコミュニケーションは取れません。

社会的に合意し、意味内容を安定しておく必要があります。

そこには、社会参画者全員に通用するような規範化権力(※7)が作用しなければなりません。

※7:
規格化の権力とは、人々を正常=通常にすることを旨とする権力である。
規格化する権力における規範となる正常性や異常性は権力の行使に伴う人間に関する知識の蓄積によって可能となった学問から産まれた。

具体的な手段は、教育や辞書編纂、といった活動を通して行われ、それらが歴史的、時間的に累積する中、記号の意味は安定していくことになります。

大雑把に言って、これが社会情報です。

そして機械情報が、私たちが一般に情報と言うものだろうと考えられます。

すなわちコンピュータに蓄積されている記号の山のことです。

心を情報という視点で眺めつつ、既存の学問を再編纂する私たちの旅路は、機械、動物、ヒト、そして情報化社会からデジタル社会へと変貌を遂げる状況のもとでのヒト、という様々な存在に対し、下記のように、

①それは心を持つのか?

②それが心を持つなら、その心は情報をどう取り扱うのか?

等の問いや課題(問題点)と、それに対する自分なりの答えを、必ずセットにして考え続ける事が重要です。

誰かに話すことと、自分なりに答えを出してみること。

私たちの身の回りの環境を良好な状態に変えて行くためにも、このふたつを意識して思考停止状態を脱し、解決(もしくは前進)するための第一歩として、とるべき行動を決め、実行に移すことが大切です。

では、機械が心を持つとはどういうことだろうか?

物事の本質を解明しようとする哲学の世界では、思考法のひとつとして論理学が研究されてきましたが、19世紀には、ひとつの学問として独立し、新しい論理学も登場しました。

現在では、数学的性格がより強い記号論理学と、記号論理学でない論理学とに分化しています。

記号論理学(Symbolic Logic)は、言葉を記号化して推論を研究する学問であり、数理論理学(Mathematical Logic)とも呼ばれます。

記号論理学は、数学の一分野である「数学基礎論」の土台であり、論理学者と同時に多くの数学者も記号論理学を研究しています。

記号論理学が対象とする論理には、「命題論理(※8)」「述語論理(※9)」「様相論理(※10)」「直観主義論理(※11)」「量子論理(※12)」等がありますが、西洋的な知的伝統の中で世界は、厳密な記述論理で表現され、そしてそれらの組み合わせで演繹的に推論できるという夢が現実味を帯びていた時代がありました。

※8:
命題論理とは、命題の内容ではなくその真偽のみに注目し、真偽に関する法則を研究する分野である。
命題論理の目標は、与えられた命題の真偽の判定方法を提供することである。
そのために、命題を複数の要素命題に分割し、「かつ」「または」などの接続詞で結合されたものと見なす。

※9:
述語論理は、所在=場所=述語から出発し、その場所において包み込まれる主体や客体(存在者)について論じる論理である。
例えば、「輝く」という所在=場所から出発 し、輝くものが包摂するものを同一のものとして論じるのである。

※10:
様相論理は、いわゆる古典論理の対象でない、様相(modal)と呼ばれる「~は必然的に真」や「~は可能である」といった必然性や可能性などを扱う論理である。
様相論理は、部分の真理値からは全体の真理値が決定されない内包論理の一種と見ることができる。
その歴史は古くアリストテレスまで遡ることができるが、形式的な扱いは数理論理学以降、非古典論理としてである。
様相論理では一般に、標準的な論理体系に「~は必然的である」ことを意味する必然性演算子□と、「~は可能である」ことを意味する可能性演算子◇のふたつの演算子が追加される。

※11:
直観主義論理とは、オランダの数学者ブラウワーが提唱した直観主義数学に由来する論理であり、直観主義数学で認められる推論の様式を弟子のハイティングが形式化したものである。
直観主義は構成的な証明のみを 証明と認める立場であり、「存在しないと仮定すると矛盾する」という形の存在証明を認めない。
そのため、直観主義論理では古典論理よりも証明できることは少なくなる。

※12:
量子論理とは、量子力学の世界において、通常の論理とは異なる論理が成り立つことに基づいて作られた論理の体系である。
この分野が成熟すれば、古典的なコンピュータで古典論理が重要だったように、量子論理が量子コンピュータの発展に大きく貢献すると期待されている。
しかし、現時点では、量子論理の理論を量子コンピュータへ応用することは困難である。

それは、アリストテレスの命題論理、フレーゲの述語論理から始まります。

3段論法で、大前提―小前提―結論という論理は、隙の無い厳密に正しい論理です。

命題が厳密に設定されれば、そこから森羅万象が演繹できます。

この前提のもとで、あらゆる情報が機械的に記述されれば、世界は、計算によって把握できるかのように思えます。

これがコンピュータのパワーと出会ったとき、所謂、AIという発想が生まれ、実際、AIには、現在でも膨大な努力が注ぎ込まれてきました。

しかし、ここで私たちに必要な問いとしては、結局、そのようなアプローチ自体が誤っているのではないか?と考えられるかどうかです。

例えば、この様な問いが考えられます。

問1:AIが、自分で自分自身の知性や機能を向上させていくとされているが、自分の能力や問題点を理解できないのでは、自分の弱点を補強したり、能力を向上させたりすることはできないのではないか。

問2:AIは、蓄積された知識から対応策を導き出すことはできても、それによってどのような影響が及ぶかというところまでは考えることができないのではないか。

前述以外の反証として、数学の世界から、ヒルベルトの形式的記号論理体系、適切な公理からあらゆる推論ができるというヒルベルトの夢が、ゲーデルの不完全性定理で否定された例(※13)が上げられます。

※13:
数学をどのように捉えるかによって、
①論理主義(論理を記号化して記号論理の形で数学を再構築しようとした:ラッセルなど)
②直感主義(論理形式に囚われず、実際に具体的(形式的)に確かめられるものだけが正しいとみなす排中律は認めない:クロネッカー、ポアンカレ―、ブラウアーなど)
③形式主義(記号論理の方法を徹底して公理論的な方法を採る:ヒルベルト、ベルナイス、アッカーマンなど)
等に分類することもある。
その後、1930年代になり、ゲーデルの不完全性定理により、ヒルベルトの抱いていた夢「すべての数学の公理化」は挫折するが、数理論理学は「論理の数学的構造」と「数学の論理的構造」を研究する分野として今日も重要な地位を占めている。

また、AI が目指す知的ロボットのフレーム問題、オートポイエーシスが示唆する認知の閉鎖性からも、そのアプローチを否定することも可能ですが、AIについての正しい知識を身につけて、AIを正しく使いこなせる人間になることの方が大事だと考えられます。

機械には心は無い。

人にはある。

心は、生物として重ねてきた歴史の上に成り立つオートポイエティックな認知システムであると言われています。

では、生物としての進化の歴史を、ヒトと同じく持つ動物は、心を持つのだろうか?

心は、意識を包括するシステムです。

意識は何故あるのか?

進化論的に言うならば、それは生存上有利だからだそうです。

環境変化という前提がある以上、生命は、その変化に耐えなくてはなりません。

変化し続ける環境に対応し続けるために、心的システムは、神経情報をもとに認知し、代謝情報(ホルモンなど)により体内の各器官に環境への対応を促します。

とするならば、ヒトと同じく進化の途上を歩んできた動物に心があっても不思議ではありません。

結論から言えば、動物にも心はあるとの主張も存在しています。

無論、ヒトに比べれば貧弱な心的システムではあると思われますが、実際の状況にひたすら対応する中で、動物もまた状況を一瞬のうちに選択的に認知し、行動を選択します。

コウモリは、あらゆる角度から射してくる超音波反射から有効なパターンを一瞬で選び取り、適切に障害物を避けていきます。

知的ロボットが何の行動選択もできず固まってしまうのと対照的です。

【関連記事②】
以下に↓つづく。

【参考図書】
「基礎情報学―生命から社会へ」西垣通(著)

「続 基礎情報学―「生命的組織」のために」西垣通(著)

「新 基礎情報学―機械をこえる生命」西垣通(著)

「生命と機械をつなぐ知―基礎情報学入門」西垣通(著)

「デザインマネジメント戦略―情報消費社会を勝ち抜く」佐藤典司(著)

「情報デザイン入門―インターネット時代の表現術」(平凡社新書)渡辺保史(著)

「サクセス・バリュー・ワークショップ 情報構想設計 好き!から始めるコミュニケーション・デザイン」七瀬至映(著)

「情報編集力―ネット社会を生き抜くチカラ」藤原和博(著)

「サイバード・スペースデザイン論」渡邊朗子(著)

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