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【抒情文芸】ライフハックス的な短歌集

柴崎まどかさん撮影

「ライフハックスと短歌の営み」シリーズで紹介させて頂いた

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■短歌(658首)

■歌人・歌集他(577冊)

についてリスト化してみました(^^)

ライフハックの内容は異なるのに、同じ短歌を選ぶことも多くあって・・・

その時々で、感じ方違えど、目に留まった言葉や文章、そして出来事等の印象で、読みも変わるんだって気づきを得られたことが収穫でしたね(^^♪

■短歌

「三角定規で平行の線を引くときの力加減で本音を話す」
(竹中優子『輪をつくる』より)

「雨ゆゑにブルドーザーが休む日の地表いまだけ本音のにほひ」
(今野寿美『雪占』より)

「菜の花にからし和えればしみじみと本音を聞きたい飛雄馬の姉さん」
(飯田有子『林檎貫通式』より)

「肉体にすこし遅れてたましひは飛込台からいま宙にあり」
(喜多昭夫『銀桃』より)

「多摩川のながれのかみにそへる路麦藁帽のおもき曇り日」
(若山牧水『死か芸術か』より)

「むなもとに天道虫がとまりたりいつも通りをぼやぼやゆけば」
(相原かろ『浜竹』より)

「生活に仕事がやがて混ざりゆく鉄芯入りの靴で外へと」
(廣野翔一「泥、そして花びら」より)

「おたまじやくし小さき手足生えそめて天地に梅雨のけはひただよふ」
(出口王仁三郎『王仁三郎歌集』より)

「「ネット銀行レモン支店」にタッチする葉つぱのお金を送る心地に」
(春日いづみ『塩の行進』より)

「夕焼けて小さき鳥の帰りゆくあれは妹に貸した一万円」
(北山あさひ『崖にて』より)

「人のために使ふことなしひと月を流れていきしお金を思ふ」
(澤村斉美『夏鴉』より)

「亡き人のSuicaで買ひしコンビニのおでんの卵を分けあひて食ふ」
(内藤明『虚空の橋』より)

「ともかくも家の明かりを全部消す今日のつじつま合はなくてよし」
(永井陽子『小さなヴァイオリンが欲しくて』より)

「千万のまなこの前に倒れゆく力士の妻は哀しかるべし」
(稲葉京子『秋の琴』より)

「勤勉な時計と手帳は仕舞いましょう静かにそそぐカモミールティー」
(岸原さや『声、あるいは音のような』より)

「抜けてきたすべての道は露に消え連続わたし殺人事件」
(吉岡太朗『ひだりききの機械』より)

「一年に一度の排水管掃除の日 やはりあの無愛想なサルトルがきた」
(西村美佐子『猫の舌』より)

「空席を探すあなたを淡い陽はジョルジュスーラの絵にしてしまう」
(道券はな『too late 2』より)

「わが童話聞くべく集まり来し児らに氷菓買うべく銭をかぞうる」
(浜田康敬『望郷篇』より)

「生徒らと読みすすめゆく『夏の花』題名はさう平凡がいい」
(本田一弘『眉月集』より)

「これがハイスピードカメラで記録した好きだと思い込む瞬間です」
(鯨井可菜子『タンジブル』より)

「網戸にはときおり欅の影ゆれて目詰まりしやすい光があった」
(永田紅『いま二センチ』より)

「最上川逆白波さかしらなみのたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」
(斎藤茂吉『白き山』より)

「やむをえず私は春の質問としてみずうみへ素足をひたす」
(笹井宏之『えーえんとくちから』より)

「シラバスの重さなつかし学生が春のベンチで履修に悩む」
(永田紅『春の顕微鏡』より)

「三次元、峠なゆたはまだいない 父娘(おやこ)ふたりでプリンを食らう」
(榛葉純「F」/「将棋短歌アンソロジー 3一詠」より)

「ミュージカルについてあまり悪く言わなかったことが結果的にプラスに働いた」
(佐クマサトシ「ゲームみたいで楽しい」/Website「TOM」より)

「キッチンへ近づかないで うつくしいものの怖さはもう教へたよ」
(山木礼子『太陽の横』より)

「われをめがけ降る雪のあれ たれのたれの脚注でもなき道をゆくとき」
(松本典子『いびつな果実』より)

「アラームの鳴る一分前に目覚めればその六十秒を抱きて眠る」
(和嶋勝利『天文航法』より)

「時の流れにさからうための筋力よ鉄棒の鉄の匂いをつけて」
(花山周子「現代短歌」2022 №88より)

「守るべきはヤマか雇用かと自問しつつ金貸して来し矛盾も終はる」
(神山卓也「閉山」/「短歌現代」2002年8月号より)

「春の日のななめ懸垂ここからはひとりでいけと顔に降る花」
(盛田志保子『木曜日』より)

「看護師の手の甲のメモ三桁の数字見ながら血を採られおり」
(馬淵のり子「短歌人」2019年3月号より)

「女(一六歳)金色の / 女(二四歳)木の実ころがる / 女(三二歳)山のうらへ / 女(四〇歳)あなたはとうに / 女(九六歳)行ってしまった」
(奥田亡羊『亡羊』より)

「色彩のかぎりを尽す夕ぐれや今日愛されしコメディアンの死」
(山田富士郎『アビー・ロードを夢みて』より)

「掌に取れば脳やわらかし遠き森に幾筋の束なして光は落つる」
(永田和宏『やぐるま』より)

「指一本ゆびいつぽんとてのひらをひろげてやれば ふふ、何もなし」
(光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』より)

「かみくだくこと解釈はゆっくりと唾液まみれにされていくんだ」
(中澤系『uta0001.txt』より)

「わたしたち夏から冬がすぐ来ても曇天を今日の服で飾って」
(柳原恵津子『水張田の季節』より)

「ルリカケス、ルリカケスつてつぶやいた すこし気持ちがあかるくなつた」
(秋月祐一『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』より)

「死神は手のひらに赤き球置きて人間と人間のあひを走れり」
(葛原妙子『原牛』より)

「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)」
(栗木京子『水惑星』より)

「木漏れ日を浴び続ければ白樺の木になりそうなほどひとりなり」
(藤田千鶴『白へ』より)

「人生という長き悪夢の覚める朝ああよく寝たと欠伸などして」
(谷岡亜紀『臨界』より)

「何(なに)となく、/案外に多き気もせらる、/自分と同じこと思ふ人。」
(石川啄木『悲しき玩具』より)

「すべてを選択します別名で保存します膝で立ってKの頭を抱えました」
(飯田有子『林檎貫通式』より)

「さよならをあなたの声で聞きたくてあなたと出会う必要がある」
(枡野浩一『歌 ロングロングショートソングロング』より)

「もの嫉(ねた)む心おこりもなくて我が歩みゆく道の泥(どろ)も氷りぬ」
(斎藤茂吉『白桃』より)

「生と死のうづうづまきてをりにけむ丸縁眼鏡の志功のなかに」
(花鳥佰『逃げる!』より)

「雲梯のうえから見ていた校庭にわたしがいないことの正しさ」
(久野はすみ『シネマ・ルナティック』より)

「白き紙いちまいの上(へ)の花の種子げにひえびえと古代文字ならむ」
(小中英之『わがからんどりえ』より)

「おきまりのなんとかなるよがききたくて豆が煮えるまでのペシミスト」
(北川草子『シチュー鍋の天使』より)

「トリニダード・トバコって国にはたぶん行かない 裏窓に咲く花を見ている」
(岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』より)

「わが心深き底あり喜(よろこび)も憂(うれひ)の波もとどかじと思ふ」
(『西田幾多郎歌集』より)

「欲しきもの問はれて歌のほかなにも望みたまはず 忘れずあらむ」
(古谷智子『ベイビーズ・ブレス』より)

「砂たちに行動の自由与えたら湘南海岸どうなるだろう」
(奥村晃作『スキーは板に乗ってるだけで』より)

「汗たれて散兵線に伏す兵を朝飯前の吾は見て居り」
(土屋文明『山谷集』より)

「(帰るつてどこにだらうか)コントでは手首をひねつたら部屋の中」
(石川美南『体内飛行』より)

「春浅き付箋だらけの子の辞書がことばこぼさぬように立ちおり」
(鶴田伊津『夜のボート』より)

「秋の字の書き順ちがふちがひつつ同じ字となる秋をふたりは」
(荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』より)

「体操服のままのこどもが弾いている音楽教室すずしいのかな」
(阿波野巧也『ビギナーズラック』より)

「コンビニまでペンだこのある者同士へん●●とつくり●●●になって歩いた」
(千葉聡『微熱体』より)

「しばらくはだあれも飛び込まないプール揺れつつ光受けいれていて」
(山内頌子『うさぎの鼻のようで抱きたい』より)

「革靴にさくらはなびら踏みしだく生のあはひに桜はそびゆ」
(門脇篤史『微風域』より)

「くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる」
(正岡子規)

「雪が降る のを喜んでいるコマのチャーリーブラウンの短い手」
(左沢森「目から星」より)

「まだ人のかたちをせるよ夜の駅の大き鏡の前よぎりゆく」
(安田純生『でで虫の歌』より)

「からつぽのからだいくつもころがりをり「本番」の声までのつかのま」
(花鳥佰『しづかに逆立ちをする』より)

「変人と思われながら生きてゆく自転車ギヤは一番軽く」
(雪舟えま『たんぽるぽる』より)

「わたくしはわたくしの王さいはての校舎でペンの選別をする」
(山川藍『いらっしゃい』より)

「口角を上げて笑へと書かれゐる接客マニュアルのさびしき笑ひ」
(佐藤モニカ『夏の領域』より)

「休日のわたしがガラス戸に映りふつうの女の人のようなり」
(田宮智美『にず』より)

「遠き日の水平、リーベ、ぼくの船、沈めて青し秋の内海」
(山下洋『オリオンの横顔』より)

「われを綺麗だとか綺麗ぢやないだとか全員そこへなほれ さちあれ」
(伊豆みつ『鍵盤のことば』より)

「湿り気を空が含んでくる時に言葉は少し曲げやすくなる」
(中津昌子『記憶の椅子』より)

「ひとりから始めるわれの都市論のフランスパンと水を購う」
(田村元『北二十二条西七丁目』より)

「空の海にさらはれたりや飛行船 五月の空は底なしの青」
(竹内由枝『桃の坂』より)

「ぴんと張る布をシャーッと切り裂いた 感情のこない先の先まで」
(王生令子『夕暮れの瞼』より)

「裏庭に金管楽器さびてゆく海はひかりを招きつづける」
(東直子『青卵』より)

「今日一日身を鎧いいしジャケットの型くずれたり椅子の背が着る」
(永田淳『湖をさがす』より)

「スイミングスクール通わされていた夏の道路の明るさのこと」
(鈴木ちはね『予言』より)

「念校は人生のためあるのだろう想い出広がる冬の草はら」
(中川佐和子『春の野に鏡を置けば』より)

「永遠に生きるみたいな耳鳴りがきこえる それは熱心に聴く」

「草原よりも草原をゆく雲の影 僕は言葉を用意している」
(橋爪志保『地上絵』より)

「みづからの闇に手折りし水仙の苦きことはた甘きことなど言ふなたやすく」
(鎌倉千和『ゆふぐれの背にまたがりて』より)

「体調が悪くて休むと言った人がふつうに働いている午後の時間」
(竹中優子『輪をつくる』より)

「箔かろく圧したるごとき雲はゆき風明かりする午後となりたり」
(大辻隆弘『汀暮抄』より)

「時鳥そのかみやまの旅枕ほの語らひし空ぞ忘れぬ」
(式子内親王『新古今和歌集』より)

「遠く來しもみぢの山にみづからの修羅見てめぐる 旅とはなに」
(畑和子『白磁かへらず』より)

「お酒呑みません煙草吸いません運動しません すみません」
(青沼ひろ子『石笛』より)

「ダンカンのように思わぬ死のもしやわれにあるやも 夜の水飲む」
(三井修『海泡石』より)

「刻んでる音がしてゐるやがて潰れて青いどろどろの現実が来る」
(岡井隆『銀色の馬の鬣(たてがみ)』より)

「星と臍を繋いで歩く曲がるべき角を曲がれば星と別れる」
(涌田悠「こわくなかった」ねむらない樹vol.8より)

「今という狭間に揺れる水面のひかりに隠れている暗がりは」
(近江瞬『飛び散れ、水たち』より)

「過去形がかくもさびしきものなるを分かちあふためにやは別れは」
(田口綾子『かざぐるま』より)

「教室の鍵を投げれば非常灯の光を浴びて鱗に変はる」
(楠誓英『青昏抄』より)

「2月5日の夜のコンビニ 暴力を含めてバランスを取る世界」
(永井祐『日本の中でたのしく暮らす』より)

「後ろから抱きしめるとき数一〇〇〇(かずいっせん)の君のまわりの鳥が飛び立つ」
(白瀧まゆみ『自然体流行』より)

「だれからも疎まれながら深々と孤独でゐたい 月曜のやうに」
(山木礼子『太陽の横』より)

「くぼみには白き卵をのせるべしああやはらかき秋の身体」
(日高堯子『樹雨』より)

「ふるさとはハッピーアイランドよどみなくイエルダろうか アカイナ マリデ」
(鈴木博太「ハッピーアイランド」より)

「列島を春の潮(うしほ)のめぐるあさ木木はちからを引き合ひて立つ」
(雨宮雅子『熱月』より)

「放つとくと記憶は徐々に膨らみて四コマ漫画に五コマ目がある」
(石川美南『架空線』より)

「ある朝を思いつめたり足りなくて足りなさを過ぎて咽喉を鳴らして」
(なみの亜子『角川短歌年鑑』より)

「もっとやさしく言えばよかった猫のためあける窓より秋雨が入る」
(河野小百合『雲のにおい』より)

「いままで 日本語をつかっていたのに今日からは雨と話せるようになりたい」
(谷川由里子「シー・ユー・レイター・また明日」『ねむらない樹』vol.2より)

「広辞苑になくて大辞林にある「草生くさふ」よき名の草生さんに会ふ」
(今野寿美『さくらのゆゑ』より)

「ゆるやかにピアノの中にさし入れる千年前の雨の手紙を」
(鳴海宥『BARCAROLLE 舟唄』より)

「栗を剝く人のうつむきあるときは知らずの奈落覗きつつ剝く」
(内山晶太『窓、その他』より)

「よる深くふと握飯(にぎりめし)食ひたくなり握(にぎり)めし食ひぬ寒がりにつつ」
(斎藤茂吉『赤光』より)

「鳴けや鳴け蓬(よもぎ)が杣(よもぎ)のきりぎりす過ぎゆく秋はげにぞ悲しき」
(曾根好忠『後拾遺和歌集』秋上・273より)

「言い訳はしないましてやきみのせいにしないわたしが行く場所のこと」
(谷村はるか『ドームの骨の隙間の空に』より)

「ギャラリーへ続く階段くだるときしんと寡黙になる貌を見き」
(菅原百合絵『たましひの薄衣』より)

「黙ることは騙すことではないのだと短い自分の影踏みながら」
(山本夏子「スモックの袖」/「現代短歌」2018年7月号より)

「冷や飯を湯漬けにさらっと立ち食いす午後は氷雨になるやもしれず」
(浜名理香『流流(りゆうる)』より)

「ぼくの窓をかるくすりぬけ日本語のてざはりのない女の子たち」
(荻原裕幸『デジタル・ビスケット』より)

「砂糖衣のくだけるおとの響きたるここが私の頭蓋の空き地」
(富田睦子『声は霧雨』より)

「茶碗と急須の間に水溜りしづかにありて夜ぞふけにたる」
(森岡貞香『黛樹』より)

「ぐずーぐずと鳴く鳩を聞く仮眠室使い捨ての身二つが並ぶ」
(梅本武義『仮眠室の鳩』より)

「野獣派のマチスの「ダンス」手を繋ぐときあらはれる人間の檻」
(尾崎まゆみ『明媚な闇』より)

「君を択び続けし歳月、水の中に水の芯見えて秋の水走る」
(河野裕子『紅』より)

「泡立てて体擦(す)りつつほとほとに飽けりからだは鍋より大き」
(酒井佑子『矩形の空』より)

「歩きつつ本を読む癖 電柱にやさしく避けられながら街ゆく」
(柳澤美晴『一匙の海』より)

「ああさうだこの声だつたと思ふためそのためだけに君と会話す」
(水上芙季『静かの海』より)

「友人と撃ち合うようにお互いの写真を撮りて旅を終えたり」
(北辻一展『無限遠点』より)

「くれなゐのつつじをまたぐ歩道橋いま天界の風ながれゐる」
(篠弘『東京人』より)

「能面の内より見る世はせまく細くただ真つ直ぐに歩めよといふ」
(梅内美華子『真珠層』より)

「ただ一度かさね合わせた身体から青い卵がこぼれそうです」
(東直子『青卵』より)

「ハートには尖るところと凹むところひとつずつあり今凹むところ」
(遠藤由季『アシンメトリー』より)

「歪形(わいけい)歯車の かんまんなきざみの意志たちの冷静なかみあいの、──この地球のこのおもいおもい午後」
(加藤克巳『球体』より)

「あと何を買ったら僕の人生は面白くなり始めるのかな」
(辻井竜一『遊泳前夜の歌』より)

「たて笛に遠すぎる穴があつたでせう さういふ感じに何かがとほい」
(木下こう『体温と雨』より)

「秋の夜はもの冷えやすし爪切りも鋏もひとをおもふ心も」
(桑原正紀『秋夜吟』より)

「すでにして海の匂いをなつかしむ仕事へ向かう雨の朝(あした)は」
(和嶋勝利『雛罌粟(コクリコ)の気圏』より)

「問はれればくちごもりながらも言ふだらう はじまりは土、土と草むら」
(日高堯子『水衣集』より)

「日のほてり残りしドアを制服のわが肩は越ゆわれに先だち」
(小野茂樹『羊雲離散』より)

「だいもーん、だいもにおーん。アスファルトぬくきがうへのこころは念ず」
(阿木津英『宇宙舞踏』より)

「生きたがるいのちがあるので生きているただそれだけのおあいそ笑い」
(早坂類『風の吹く日にベランダにいる』より)

「自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず」
(富小路禎子『白暁』より)

「いびつなる三叉路に立つ風の夜いづれの道もわたくしを呼ぶ」
(小川真理子『母音梯形(トゥラペーズ)』より)

「単純でいて単純でいてそばにいて単純でいてそばにいて」
(嵯峨直樹『神の翼』より)

「わが額にかそか触るるはわが髪にあらねはるけき岬(さき)に潮(しお)鳴る」
(中野照子『しかれども藍』より)

「憧れのなくなりしことが微かなるあこがれとなり生かされてゐる」
(安田靑風『季節』より)

「たてがみに触れつつ待った青空がわたしのことを思い出すのを」
(大森静佳『カミーユ』より)

「どこまでもつづく野の道あゆみゆく継ぎ目といふのがないのが不思議」
(宮本永子『青つばき』より)

「寝てきけば春夜(しゆんや)のむせび泣くごとしスレート屋根に月の光れる」
(北原白秋『桐の花』より)

「激情の匂いするみず掌にためてわたしはすこし海にちかづく」
(江戸雪『椿夜』より)

「ふかづめの手をポケットにづんといれ みづのしたたるやうなゆふぐれ」
(村木道彦『天唇』より)

「黄の蝶の林に住むは幽けかり落葉松(らくえふしょう)も芽ぶきそめにし」
(北原白秋『海阪』より)

「男女とは一対にしてはるかなる時間差で置く白き歯ブラシ」
(大野道夫『秋階段』より)

「おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く」

「鶏頭のやや立ち乱れ今朝や露のつめたきまでに園さびにけり」

「秋草のしどろが端にものものしく生きを栄ゆるつはぶきの花」

「鶏頭の紅(べに)ふりて来し秋の末やわれ四十九の年ゆかんとす」

「今朝の朝の露ひやびやと秋草やすべて幽けき寂滅の光」
(伊藤左千夫『左千夫歌集』より)

「山みれば山海みれば海をのみおもふごとくに君をのみ思ふ」
(前田夕暮『収穫』より)

「海を見るような眼をわれに向け語れる言葉なべて詩となる」
(今井恵子『分散和音』より)

「「好きだつた」と聞きし小説を夜半に読むひとつまなざしをわが内に置き」
(横山未来子『水をひらく手』より)

「晩年のあなたの冬に巻くようにあなたの首にマフラーを巻く」
(大森静佳『てのひらを燃やす』より)

「浴槽は海に繋がっていません だけどいちばん夜明けに近い」
(馬場めぐみ「見つけだしたい」『短歌研究』2011.9より)

「ケータイで君と話せばくっきりと雨上がりのマンホールの蓋が」
(斉藤斎藤『渡辺のわたし』より)

「生業(なりはひ)はのどぼとけかも声に打ち人を打ち赤くなるのどぼとけ」
(坂井修一『縄文の森、弥生の花』より)

「敗戦処理投手のやうに引き継いでデスクのうへの灯をともしをり」
(真中朋久『雨裂』より)

「日の字型の庁舎の廊を持ちまわる未決裁文書の重きゆうぐれ」
(内田いく子『廻廊』より)

「一太郎は少数派なりそれでいいさうしていつも片隅にゐる」
(今野寿美『雪占』より)

「本を焚き詩人を焼いてしまつたら、爽やかだらう。(都市の)明日も」
(石井辰彦「率」6号より)

「円周に(指は潰れてしまったが)穴あけ回転木馬を降りる」
(吉岡太朗「町」創刊号より)

「朝戸出に鞄を重く感じたり「鎧が、けふは」の木曾殿おもふ」
(沢田英史『さんさしおん』より)

「感謝され逆に元気をもらったと言われ西日が焦げ付いていく」
(寺井奈緒美『アーのようなカー』より)

「買い被られているようであり馬鹿にされているようでもある真冬の西瓜」
(東洋『青葉昏睡』より)

「『「いい人」をやめると楽になる』…本を戻して書店を出づる」
(平林静代『雨水の橋』より)

「木の周辺部は白太(しらた)と云うが中心部は赤身(あかみ)と云える 魚のごとし」
(花山周子『林立』より)

「わたしはあなたにならない意思のなかにある淋しさに火という火をくべる」
(山崎聡子『青い舌』より)

「呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる」
(穂村弘『シンジケート』より)

「反り深き橋のゆうぐれ風景は使い込まれて美しくなる」
(松村正直『やさしい鮫』より)

「いづくより生れ降る雪運河ゆきわれらに薄きたましひの鞘」
(山中智恵子『紡錘』より)

「うぬぼれていいよ わたしが踵までやわらかいのはあなたのためと」
(佐藤真由美『恋する歌音』より)

「公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す」
(工藤吉生「この人を追う」『短歌研究』2018年9月号より)

「歩き出さなくてはならぬかなしみを犬をからかつてごまかしてるね」
(山田航『さよならバグ・チルドレン』より)

「産めやしない、産めはしないがアメジスト耀け五月なる疾風に」
(黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』より)

「死ではない終はりを待つてゐるひとがありの実を剝く皮をたらして」
(魚村晋太郎『銀耳』より)

「働くは自己実現といいさして/否、生きていく技術とおもう」
(奥田亡羊『花』より)

「「悪の華」と「実践理性批判」とがせせら笑へり肩をならべて」
(九鬼周造「巴里心景」『九鬼周造全集 第一巻』より)

「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」
(藤原道長『小右記』より)

「バス停に忘れしカバン取りに行けばわれを忘れて静けきカバン」
(伊藤一彦『月の夜声』より)

「あるところ辛辣(しんらつ)に匂(にほひ)ただよへる盛場を今日稀によぎりき」
(佐藤佐太郎『冬木』より)

「三月はいつ目覚めても風が吹き原罪という言葉浮かび来」
(さいとうなおこ『逆光』より)

「駅で見た猫の写真がこの町のすべての猫の始祖だと思う」
(佐々木朔「到達」/「羽根と根」五号より)

「A god has a “life file”, which is about the collapse of my cool core. (罪色の合わせ鏡のその奥の君と名付けた僕を抱き取る)」
(中島裕介『Starving Stargazer』より)

「途切れがちな会話を続けるために飲む真冬の銀河高原ビール」
(齋藤芳生『花の渦』より)

「さびしいを知らない人よ「さむいの」と膝をのぼってきてしがみつく」
(樋口智子『幾つかは星』より)

「女生徒ら語らひ行くに包帯の小指の一人遅れつつ行く」
(小池光『廃駅』より)

「姫神山は花崗岩ゆえ噴火せぬと朝日に光る山を指差す」
(森尻理恵『S坂』より)

「見えぬものを遠くのぞみて歩むとき人の両腕しづかなるかな」
(横山未来子『花の線画』より)

「いれものが似ているだけでなぜだろうわかりあえるとおもってしまう」
(ほしみゆえ「ひかりさす」より)

「きいんとひきしまつた空へしたたらすしづくは硝酸でなければならぬ」
(加藤克己『宇宙塵』より)

「おおぜいの人に交って立つときも寂しかったよこの交差点」
(山中もとひ/同人誌『鱧と水仙』第55号より)

「脱ぎ捨てた服のかたちに疲れても俺が求めるお前にはなるな」
(奥田亡羊『亡羊』より)

「採血車春の車道に横向きに驟雨のなかのわれをいざなふ」
(荻原裕幸『青年霊歌-アドレッセンス・スピリッツ』より)

「「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて」
(山川藍『いらっしゃい』より)

「齒の痛みにさらすぶざまはうつしみに恥多くとも生きて在るゆゑ」
(一ノ関忠人『べしみ』より)

「疲れると小銭が増えるお財布が奥底にある通勤かばん」
(橋場悦子『静電気』より)

「「自由を謳歌」ってひとりぐらしのトイレにも鍵かけているわたくしが、か」
(イソカツミ『カツミズリズム』より)

「われ死して三世紀後の獣園に象はくれなゐ蠍はみどり」
(塚本邦雄『黄金律』より)

「みずいろの螺旋階段を降りてくるあなたは冬を燃やす火になる」
(田口綾子『かざぐるま』より)

「人類は「パンツをはいたサル」であり「マスクをつけたサル」ともなった」
(香川ヒサ『The quiet light on my journey』より)

「伸びた分だけしか切らず変わらないわたしが初冬の街に出てゆく」
(鈴木陽美『スピーチ・バルーン』より)

「流れないのなら僕はもう帰るよカシオペアを空に残して」
(永田淳『竜骨(キール)もて』より)

「食べてゐる途中で耳がとほくなる辛すぎた自家製タイカレー」
(片岡絢『カノープス燃ゆ』より)

「てのひらに稚きトマトはにほひつつ一切のものわれに距離もつ」
(滝沢亘『断腸歌集』より)

「『わが告白』なる自著の上(へ)に降りそそぐ批判の渦の中の春先」
(岡井隆「短歌」より)

「〈神経は死んでいます〉と歯科医師は告げたりわれの初めての死を」
(沖ななも『白湯』より)

「マツコ・デラックスの愚痴と重なつた深夜 テレビの前にひざまづく」
(梅内美華子『真珠層』より)

「梅干しの種しゃぶりつつ見る月のまんまるなのは苦しいよなあ」
(北山あさひ『崖にて』より)

「信号を無視してとばす 地上にも天にもおれを結ぶものなく」
(池田はるみ『奇譚集』より)

「大空を草薙ぎ払ふごとく来て無人攻撃機(キラードローン)の金属音は」
(阿木津英「現代短歌」(2014年11月号より)

「花豆の蜜煮の艶のうれしくて人肌の鍋は静かにしまふ」
(松﨑英司『青の食單』より)

「庭中の花の名前を知っている祖母のつまさきから花が咲く」
(原田彩加『黄色いボート』より)

「手を洗いすぎぬようにね愛してたからねそれだけは確かだからね」
(雪舟えま『たんぽるぽる』より)

「椽臺に帽子を脱ぎて仰ぎ見るその紅葉もみぢの木このもみぢの木」
(木下利玄『みかんの木』より)

「係累すべて絶ちたき夜半も窓越えて冷たき地上に繋がるアース」
(永田和宏『黄金分割』より)

「草木は怒りもたねば怒りたる人は紅葉のなかに入りゆく」
(外塚喬『漏告』より)

「見せあうものは悲しみのたぐい黒衣きて雪野を遠く来る人に逢う」
(百々登美子『盲目木馬』より)

「山中に木ありて木には枝ありて枝に一羽を止まらせている」
(石田比呂志『冬湖』より)

「ジェンダー講座の学生いわく「平等と幸福は必ずしも両立しない」」
(大田美和『葡萄の香り、噴水の匂い』より)

「石は無欲、だらうかしかし墓石はやけに光つてゐるではないか」
(藪内眞由美『首長竜のゆふやけ』より)

「時々、ひばりは空にのぼりゆき人間のすることを見るのです」
(香川進『氷原』より)

「ヨット一艘丸ごと洗ひたし十一月の洗濯日和どこまでも青」
(青井史『月の食卓』より)

「ヒヤシンスの根の伸びゆくをみつめいる直線だけで書ける「正直」」
(鶴田伊津『百年の眠り』より)

「くっついた餃子と餃子をはがすとき皮が破れるほうの餃子だ」
(相原かろ『浜竹』より)

「〈僕〉といひ〈俺〉ともいひて定まらぬわれを知りつくす晩春の河」
(日置俊次『ノートル・ダムの椅子』より)

「あんたはなあどうも甘いと言はれてる烈夏の下を通つてゐたが」
(池田はるみ『正座』より)

「へーゲルを読みたる夕は三分計り熱あがりたり止めんとは思ふ」
(松下武雄『山上療養館』より)

「雲のからだに骨はないのに悲しみという感情はつくづく勝手」
(小島なお『COCOON』17号より)

「白磁器にたまるうすら陽かなしがり方のしずかなひとに寄りゆく」
(中田明子「Ammonite」『砦』2021.11より)

「とおからぬ日のきたるべき春に待つ、でもみみかきにひとすくいほど」
(中澤系『uta 0001.txt』より)

「母さんがおなかを痛めて産んだ子はねんどでへびしか作りませんでした」
(伊舎堂仁『トントングラム』より)

「わたくしといふ現象を突き抜けて見えたつもりのあなたが見えぬ」
(寺尾登志子「隧道」/「りとむ」2017年9月号より)

「生卵片手で割れば殻だけはこの手に残るきっともう春」
(渡邊新月「冬を越えて」/角川「短歌」2018年11月号より)

「まさか俺、一生ここで菓子パンを齧ってるんじゃないだろうなと」
(穂村弘「時をかける靴下」朝日新聞2002年3月26日夕刊コラムより)

「ご先祖さま曰く「あ、WiiFit!……型の体重計て……ホンマに萎える」」
(中島裕介『oval/untitleds』より)

「わたしの影が私の鍵穴であるやうに霧雨の空を飛べる黄揚羽」
(江田浩司『想像は私のフィギュールに意匠の傷をつける』より)

「全盛期でした、わたしの ね、あの日贈った鳥は燃やしましたか?」
(田村穂隆「冬の肺葉」『短歌研究』2022.02より)

「夜は巨大なたまご生むとぞ闇深く匂へるまでに黒きたまごを」
(百々登美子『風鐸』より)

「まっすぐに歩まんと来てかすかなる狂いを感ず空へゆく坂」
(佐伯裕子『春の旋律』より)

「スニーカー濡れたまんまのそのなかにひたせば記憶をひるがえる魚」
(増田静『ぴりんぱらん』より)

「提案に補足がありてみづみづしかる截り口は見えなくなりつ」
(篠弘『東京人』より)

「寒からばベーコンいちまい身にまとひ生(なま)ベーコンエッグと名乗らまし」
(田口綾子『かざぐるま』より)

「『とてつもない日本』を図書カードで買ってビニール袋とかいりません」
(永井祐『日本の中でたのしく暮らす』より)

「伏せられしボートのありてこんなにも傷はあるんだ冬の裏には」
(楠誓英『禽眼圖』より)

「向こうへと傾くきみの歯ブラシをこちらへ向けてみたりする朝」
(畑中秀一『靴紐の蝶』より)

「相槌がみづで笑ひが花だらうほそき花瓶のやうに話せり」
(藪内亮輔『海蛇と珊瑚』より)

「ゆきずりの麺麭屋にある夜かいま見し等身のパン焼き竈を怖れき」
(葛原妙子『原牛』より)

「水切りの石跳ねていく来世ではあなたのために桃を剝きたい」
(岡本真帆『水上バス浅草行き』より)

「嘘ではない、嘘ではないがどこまでも滑らかである彼の言葉は」
(ひぐらしひなつ『きりんのうた。』より)

「舌という湿原を越えてやってくるやさしくなりきれない相槌よ」
(榊原紘『悪友』より)

「すべり落つるその瞬間に白き皿は思ひ出だせり鳥なりしこと」
(福井和子『花虻』より)

「つまさき立ちのエノキ無音に叫びをり「わが従順を侮るなかれ」」
(古志香『光に靡く』より)

「ひとが言葉を失ふことのふしあはせと 憎悪が言語[ことば]より出づるふしあはせ」
(森井マスミ『まるで世界の終りみたいな』より)

「パブロ・ピカソさんらんとして地に死ぬをありあけの馬は見て忘れけむ」
(坂井修一『群青層』より)

「裏をかきに・いけない炎のまけない声のいけない炎の六花書林の」
(飯塚距離「あのバラバラは何ですか?戦意喪失のロベール・ペイシェンス」より)

「雪掻きの音が私にかぶさりてくるように聞く朝のふとんに」
(花山周子『風とマルス』より)

「灯の下に消しゴムのかすを集めつつ冬の雷短きを聞く」
(河野裕子『庭』より)

「桜まだ咲かざる闇に立ちながらアナクレオンの如き死を聞く」
(吉川宏志『鳥の見しもの』より)

「はい、いいえ、どちらでもない春の野は色づきを深めてゆくばかり」
(土岐友浩『Bootleg』より)

「紙飛行機はいちまいの紙に戻るだろう このしずけさが恋であるなら」
(白水ま衣『月とバス』より)

「今日の水は流れいるかと問う我に年々異なる者が答える」
(長谷川富市『水の容体』より)

「「トゥオネラの白鳥」を繰りかへし繰りかへし聴く 日輪は過ぎ、月輪は過ぎ」
(松平修文『トゥオネラ』より)

「スクラッチノイズの入った曲を聴く みんなどこかへ帰りたい夜」
(天野慶『つぎの物語がはじまるまで』より)

「人が人を呼ぶ声高くさびしさの根源のように窓は開きぬ」
(秋山律子『河を渡って木立の中へ』より)

「この町に雪は降りだす少年の描きさしの魔方陣に呼ばれて」
(鈴木加成太 『うすがみの銀河』より)

「あなたへとつづく明るき階段の真ん中ばかりすりへつてゐる」
(熊谷純『真夏のシアン』より)

「飯蛸の飯(いい)がぎっしり詰りいるような頭痛の何年ぶりぞ」
(坂田久枝『自転』より)

「話す程に食ひ違ひ行くこの電話早く切らむと受話器持ち換ふ」
(佐藤東子『風色』より)

「とても長い時間をかけてお互ひの心情を知つたからには別る」
(外塚喬『散録』より)

「ぼくらになかった未来かあ……ウケる 考える 電車が川を渡りきるまで」
(初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』より)

「妙にあかるきガラスのむかう砂丘よりラクダなど来てゐるやもしれぬ」
(永井陽子『モーツァルトの電話帳』より)

「めざめるとひし形だった天井を正方形にちかづけて寝る」
(斉藤斎藤『渡辺のわたし』より)

「くちばしを開けてチョコボールを食べる 机をすべってゆく日のひかり」
(永井祐『日本の中でたのしく暮らす』より)

「いつせいに風上を向く傘の先雨が歌だと知つてゐるのだ」
(木ノ下葉子『陸離たる空』より)

「人間を休みてこもりゐる一日見て見ぬふりの庭の山茶花」
(志垣澄幸『東籬』より)

「さきにいた熱とけんかをする熱だゆっくり夏のお粥をすする」
(山階基『風にあたる』より)

「味噌汁に豆腐ぷかぷか生と死の虚実皮膜に照るゆふあかり」
(菊池孝彦『声霜』より)

「〈どこからでも切れます〉とある小袋のどこをどうやってもダメな朝」
(大西淳子『火の記憶』より)

「安っぽき照明の下打ち解けてスープきらめくうどん啜れり」
(嵯峨直樹『半地下』より)

「豆乳とかぼちゃでつくるスパゲティかぼちゃナーラと命名された」
(土岐友浩『Bootleg』より)

「りんごひとつ手にもつ時に空深く果実に降るは果実の時間」
(櫟原聰『光響』より)

「グレープフルーツがどうしても食べたくてローソン100で買った包丁」
(伊舎堂仁『感電しかけた話』より)

「いつまでが湯上がりだろう室温の野菜ジュースに濡れるストロー」
(山階基『風にあたる』より)

「カルピスと牛乳まぜる実験のおごそかにして巨いなる雲」
(穂村弘『水中翼船炎上中』より)

「しそジュースかけたかき氷をくづす冷房のない島の波止場で」
(秋月祐一『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』より)

「詩はすべて「さみしい」という4文字のバリエーションに過ぎない、けれど」
(木下龍也『オールアラウンドユー』より)

「透明になる過程が見たい紙一重というところが見たい」
(宮崎信義『地に長き』より)

「われといふお試し品のクレヨンで神は世界をぐるぐる描く」
(笹谷潤子『夢宮』より)

「植ゑたしと思ふ木草をつひに植ゑずわが世はなべてかくて過ぎなむ」
(柴生田稔『星夜』より)

「兄妹(いまい)の国の肇(はじめ)の景ならむ、螢火の中ふたりきりなる」
(高島裕『饕餮の家』より)

「教科書の詩を読みながらどうしても唄ってしまう子がやり直す」
(花山多佳子『草舟』より)

「発言は波立つような反感をみちびきたれど反論はなし」
(今井恵子『白昼』より)

「確信を込め「永久」と口にする永久凍土のことを言うとき」
(山崎聡子『手のひらの花火』より)

「きみいなくなればあめでもひかるまちにさかなのようにくらすのだろう」
(大森静佳『てのひらを燃やす』より)

「傾けむ国ある人ぞ妬ましく姫帝(ひめみかど)によ柑子(かうじ)差し上ぐ」
(紀野恵『短歌パラダイス』より)

「紙ひとえ思いひとえにゆきちがいたり 矢車のめぐる からから」
(平井弘『前線』より)

「人が梯子を持ち去りしのち秋しばし壁に梯子の影のこりをり」
(高野公彦『水苑』より)

「百八まで卿(きみ)らは生きよ吾(あ)は間なく終らむといふ火酒また呷(あふ)り」
(高橋睦郎『永遠まで』より)

「焼け跡を歩きて溶ける靴底の臭いは想像できる できるか」
(吉川宏志『雪の偶然』より)

「ボンネットに貼りつく無数の虫の死が星座のように広がっている」
(ユキノ進『冒険者たち』より)

「天穹にふかく浸かりて聴きゐるは宙(そら)を支ふる山々の黙(もだ)」
(本多稜『蒼の重力』より)

「下り坂下から見れば上り坂インテグラルのかたちをえがく」
(笹本碧『ここはたしかに』より)

「ぼくは流すやさしいオンガク空のほう人生のリセットボタンをおすとき」
(今橋愛『O脚の膝』より)

「記憶違ひはさう想ひたい欲念の素顔でもある 秋の風吹く」
(岡井隆『暮れてゆくバッハ』より)

「終はりなき狂言ありや終はりなきいのちのごとく水のごとくに」
(水原紫苑『武悪のひとへ』より)

「おはようは感動詞なり おはようと言葉を交わす朝の校門」
(田中拓也『東京(とうけい)』より)

「こころはあおい監獄なのに来てくれた かすかな足音を積もらせて」
(小林朗人「しかし薄氷の上で」『率』8号より)

「ふくろとじのような記憶のなかほどに坂道ありて君がふりむく」
(永田紅『春の顕微鏡』より)

「ねむれ千年、ねむりさめたら一椀の粥たべてまたねむれ千年」
(高野公彦『水行』より)

「佐々木ならず佐佐木なることだいじにてその後我は誤たずけり」
(竹山広『一脚の椅子』より)

「コマーシャルのあひだに遠く遅れたるこのランナーの長きこの先」
(竹山広『空の空』より)

「本来の用途を外されてしずか/古い書籍が住む/食器棚」
(小林久美子『小さな径の画』より)

「どうやったら金持ちになれるのだろう朝焼けが空を知らない色にしている」
(花山周子『屋上の人屋上の鳥』より)

「星に星のふるへつたはり手のなかの万年筆をかちりと閉めつ」
(横山未来子『とく来りませ』より)

「「夢のやうにたのしかった」と言ふをさなお盆休みの小さな旅に」
(櫛田如堂『よいむなや』より)

「何をみても何を聞いても掘割のむこうの木さえ動かぬものを」
(大島史洋『藍を走るべし』より)

「石の苔まろまろとありけふひとひいのち交換したきこの苔」
(坂井修一『牧神』より)

「白抜きの文字のごとあれしんしんと新緑をゆく我のこれから」
(安藤美保『水の粒子』より)

「まつぼくりきのうひろってきょうひらきいえあだだかいゆぎもまんがい」
(マルタ・モライス「日本歌人東京歌会詠草」より)

「絞りきるまでのレモンがじんわりと舌の在り処を教えてくれる」
(中畑智江『同じ白さで雪は降りくる』より)

「わたしを信じていて ゆめをみて 絶望を斡旋するのがわたしのよろこび」
(瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』より)

「菜のはなのお花畑にうつ伏せに「わたし、あくま」と悪魔は云った」
(穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』より)

「いつか僕も文字だけになる その文字のなかに川あり草濡らす川」
(吉川宏志『海雨』より)

「数ならぬふせ屋におふる名の憂さにあるにもあらず消ゆる帚木」
(空蟬の歌『源氏物語』「箒木(ははきぎ)」より)

「勝ち負けの淡くなりゆくわが生か 水木の花もいつしか終わる」
(三井修『軌跡』より)

「朝顔の絶えることなく咲きだして誰のものにもなれない弱さ」
(野口あや子『くびすじの欠片』より)

「往還の道の辺にある丸き石 この石にだけは勝たむと思ふ」
(香川ヒサ『マテシス(Mathesis)』より)

「右足から蔓を伸ばして右耳に凌霄花の花咲かせたし」
(駒田晶子『銀河の水』より)

「かなかなやわれを残りの時間ごと欲しと言いける声の寂しさ」
(佐伯裕子『あした、また』より)

「蜩(ひぐらし)の声あるごとし山のにほひあるごとし心しづめがたしも」
(石川不二子『牧歌』より)

「暁(あけ)までをひとり起きゐてかく道に佇む幾度 生は闌(た)けつつ」
(森山晴美『グレコの唄』より)

「人恋うてつつましすぎる若さなど杳(とほ)く眠らせ秋の水くむ」
(今野寿美『若夏記』より)

「〈青とはなにか〉この問のため失ひし半身と思ふ空の深みに」
(山中智恵子『喝食天』より)

「いっさいが余白となりて 雪の朝なにほどもなきわたしが居たり」
(なみの亜子『ばんどり』より)

「忘れるといふ美徳もあるをまつかなる木々らだまつてしぐれてゐたり」
(馬場あき子『ゆふがほの家』より)

「はてしなき夢魔におそはれゐるやうな一生(ひとよ)とはいへ 冷涼の秋」
(村木道彦『存在の夏』より)

「苦しみの実りのごとき柿ありて切なしわれの届かぬ高さ」
(三枝昂之『甲州百目』より)

「夕闇に人を渡してひとときはまぶしきものか如月の橋」
(大谷雅彦『白き路』より)

「山ゆれて穂すすきゆれてまたしても風は言葉の先走るかな」
(安永蕗子『天窓』より)

「ここにただ仰ぎてゐたり青空を剥がれつづける場所の記憶を」
(小林幸子『場所の記憶』より)

「かのときのなつくさはらをかけぬけし風がうそぶく――さんさしおん」
(沢田英史『さんさしおん』より)

「懸命に歩いて来たが最初から道が違うという夢なりし」
(大下一真『漆桶』より)

「春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ」
(前川佐美雄『大和』より)

「巻き返し出来ない程にひねくれた外反母趾も自分の歴史」
(大澤サトシ「三つ足の椅子に座って」/「フワクタンカ78」より)

「皸といふ皸にワセリン塗りこめて立ち直りゆくものか冬の夜」
(柏原千惠子『彼方』より)

「太陽を迎える準備はできている菜の花畑に仁王立ちする」
(小島なお『サリンジャーは死んでしまった』より)

「木々が枯葉を落とすみたいにかなしみを手放してゆくひとになりたい」
(白川ユウコ『乙女ノ本懐』より)

「ハイヒールにゆく春の街身の芯を立てれば見えくるものあるやうな」
(古谷智子『立夏』より)

「ヘヴンリー・ブルー 花であり世界でありわたくしであり まざりあう青」
(早坂類『ヘヴンリー・ブルー』より)

「きみが十一月だったのか、そういうと、十一月は少しわらった」
(フラワーしげる『ビットとデシベル』より)

「紙の上に文字生るるとき放ちたる感情ゆがみてわれを置き去る」
(水沢遙子『時の扉へ』より)

「感情の波のまにまにあらはるるドリアン・グレイの老いし肖像」
(入野早代子『欠片』より)

「開けっ放しのペットボトルを投げ渡し飛び散れたてがみのように水たち」
(近江瞬『飛び散れ、水たち』より)

「いふことの何とて無けれ相遇へばこころ幼くなりて楽しき」
(若山牧水『くろ土』より)

「ふとぶとと水を束ねて曳き落とす秋の滝、その青い握力」
(大森静佳『ヘクタール』より)

「キャベツとレタスほど違はぬと君は言ふわれのタイツとストッキングは」
(田口綾子『かざぐるま』より)

「お祈りは済ませましたかその後ももとの形に戻れるように」
(東直子『春原さんのリコーダー』より)

「指切りのゆび切れぬまま花ぐもる空に燃えつづける飛行船」
(穂村弘『シンジケート』より)

「新しい人になりたい 空調の音が非常に落ち着いている」
(五島諭『緑の祠』より)

「幼子は幼子をふと見返りぬふたつ家族のすれ違ふとき」
(古谷智子『ガリバーの庭』より)

「トイレットペーパーの上の金属のやさしい歪(ゆが)み 熱帯夜だね」
(服部真里子『行け広野へと』より)

「鼻風邪のままに梅観る暇な奴愛されていい男かおれは」
(島田幸典『no news』より)

「握り締めたる指ひとつづつ解くやうに失くしたしこゑも名前も影も」
(横山未来子『水をひらく手』より)

「青き布ひろげてなにもなきごときいいぢやないかそれで山のみづうみ」
(渡辺松男『牧野植物園』より)

「Tシャツを千枚脱いだら目覚めたの すみやかに来てグラン・パ・ユング」
(北川草子『シチュー鍋の天使』より)

「残り世の半分(なから)は眠らねばならぬ樹齢のながき杉の鬱蒼」
(志垣澄幸『遊子』より)

「鹿たちも若草の上(へ)にねむるゆゑおやすみ阿修羅おやすみ迦楼羅」
(永井陽子『てまり唄』より)

「まあそこに居つたらええよ、なんとなくほつと咲いてる木瓜とわたしと」
(小谷陽子『ヤママユ』56号より)

「なまなかな情けかけられ情けなくなりたる身体(からだ)湯に沈めゐつ」
(外塚喬『火酒』より)

「放心してわが佇(た)ちつくす冬野路(じ)に目的不明の杭一つたてり」
(岡部桂一郎『緑の墓』より)

「迎へ火の今年のほのほ澄みとほりさびしきものが火の中に燃ゆ」
(成瀬有『流離伝』より)

「わたつみへ帰りてゆける道すがらワインとなりてわれに寄る水」
(大松達知『スクールナイト』より)

「みなそこに沈む平氏へ礼しては爺さま正座に魚釣りあげし」
(小黒世茂『やつとこどつこ』より)

「白色の絵具ばかりを買ひ足してゐた頃のこと雲を見ながら」
(山下冨士穂『覚書』より)

「梟(ふくろう)に禁じられているごとし女同士でテニスすること」
(大滝和子『人類のヴァイオリン』より)

「ゼブラゾーンはさみて人は並べられ神がはじめる黄昏のチェス」
(光森裕樹『鈴を産むひばり』より)

「ぺろんぺろん季節が顔を舐めあげて読み取っていく認証コード」
(高柳蕗子「短歌」2021年11月号より)

「三月はぬたといふ食(じき)春泥によごるるごとき葱が甘くて」
(黒木三千代『クウェート』より)

「園児らの障害物競争を見つつゐてかかる時涙とどまりあへず」
(稲葉京子『忘れずあらむ』より)

「しくじりし会議を終へて乗る電車うしろ五両は忘れてください」
(柳宣宏『丈六』より)

「肩を落し去りゆく選手を見守りぬわが精神の遠景として」
(島田修二『青夏』より)

「生きてると知らせてくれる名も知らぬ市から届いた扶養照会」
(山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』より)

「親にスマホもPSPも取られて良かった自由ですと日誌にあり」
(染野太朗『人魚』より)

「おーい列曲がつてゐる、と言ひかけて 眼閉ぢれば春の日はさす」
(小池光『山鳩集』より)

「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留めおかまし大和魂」
(吉田松陰『留魂録』より)

「水を飲むことが憩いになっていて仕事は旅のひとつと思う」
(虫武一俊『羽虫群』より)

「後ろ手に髪をくくれり夜の更けを起きて詩を書くならず者にて」
(山木礼子『太陽の横』より)

「星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ」
(杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』より)

「眠りこそ人生なのだ集中をして眠るべし夕つ方まで」
(岡井隆『静かな生活』より)

「銀縁の眼鏡いっせいに吐き出されビルとは誰のパチンコ台か」
(松木秀『5メートルほどの果てしなさ』より)

「もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」
(和泉式部『後拾遺集』より)

「ポルトガルの設計ミスのティーポット日曜なればかまわず使う」
(山下泉『海の額と夜の頬』より)

「モニターにきみは映れり 微笑(ほほゑみ)をみえない走査線に割(さ)かれて」
(大塚寅彦『空とぶ女友達』より)

「薄日さすしろい小皿に今朝もまたUSBを置く静かに」
(千種創一『砂丘律』より)

「ペットボトルのラベルを剝いてゐる夜に無名の我をしづかに思ふ」
(門脇篤史『微風域』より)

「七年後だれかがはずすクリップを機密書類と箱にしまえり」
(佐藤華保理『ハイヌウェレの手』より)

「携帯の電池切れたり途切れたる会話を頬にもぐもぐとする」
(花山周子『風とマルス』より)

「真夜中の電話に出ると「もうぼくをさがさないで」とウォーリーの声」
(枡野浩一『てのりくじら』より)

「おほかたの友ら帰りし構内に木の椅子としてわれを置きたし」
(澤村斉美『夏鴉』より)

「棄てるのにちいさなレジ袋を買って棄てるまえにちいさくおりたたむ」
(安田茜「火の話」Webサイト「詩客」より)

「甘い油のチキンライスを飲み込んだ実家の隙間だらけのキッチン」
(山崎聡子『青い舌』より)

「正座して洗濯物をたたみいる膝は大事な作業台なり」
(長谷川径子『固い麺麭[ぱん]』より)

「残業の夜はいろいろ買ってきて食べてゐるプラスチック以外を」
(本多真弓『猫は踏まずに』より)

「その昼はパンと饂飩を食べながら腹八分目あたりで泣いた」
(山川藍『いらっしゃい』より)

「匂ひの記憶、ではなく記憶そのものの匂ひとおもふ四月の雨は」
(魚村晋太郎『バックヤード』より)

「道の辺に清水流るる柳陰しばしとてこそ立ちどまりつれ」
(西行法師「新古今和歌集」夏歌262より)

「業務用コーンフレーク買って食べ切れなかったの良かったなって」
(川村有史「退屈とバイブス」『ねむらない樹 vol.6』より)

「ジーンズがほそく象る妹の脚の間を日々が行き来す」
(小島なお「公孫樹とペリカン」「COCOON」10号より)

「夢見ずにねむり足りたるわれの身は檸檬をしぼるちから出だせり」
(横山未来子『午後の蝶』より)

「空ネア無ンとぞ名乗る戀びと宵宵にダイヤモンドを砕くかなしも」
(水原紫苑『短歌研究』8月号より)

「僕たちは生きる、わらう、たべる、ねむる、へんにあかるい共同墓地で」
(岸原さや『声、あるいは音のような』より)

「生理中のFUCKは熱し/血の海をふたりつくづく眺めてしまう」
(林あまり『ベッドサイド』より)

「いつだつて足りない時間/さはされど/あればあつたで眠つてしまふ」
(本多真弓/本多響乃『猫は踏まずに』より)

「あそぶごと雲のうごける夕まぐれ近やま暗く遠やま明し」
(齋藤茂吉『つゆじも』より)

「シャンプーがいくつもならんでいるように平和がいくつもあればいいのに」
(大野道夫『秋階段』より)

「一週間お疲れ様のご褒美に一人で過ごすスターバックス」
(吉本万登賀『ひだまり』より)

「なだれこむ青空、あなた、舌の根をせつなくおさえこまれるままに」
(佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』より)

「人生のもつともつらい瞬間は過ぎたのだらう 内装は蒼(あを)」
(岡井隆『臓器(オルガン)』より)

「全人類ひれ伏せわたしの背を越して子らが世界を見たがっている」
(藤田美香「全人類ひれ伏せ」/「福岡歌会(仮)アンソロジー」vol.6より)

「車椅子を漕ぎゆくわれの影ふいに立ち上がりたり朝日の壁に」
(関政明『走る椅子』より)

「弟の学費を払いおとうとの下級生となる姉の篠田さん」
(奥田亡羊『花』より)

「トイレットペーパーの上の金属のやさしい歪ゆがみ 熱帯夜だね」
(服部真里子『行け広野へと』より)

「私といふ本に目次はありません好きな所からお読みください」
(高村典子『わらふ樹』より)

「まだ乾かない水彩の絵のやうに雪くる朝の雲がにじんで」
(大辻隆弘『デプス』より)

「束ねればきれいに見える花が好き 木枯らし一号吹く街をゆく」
(栗木京子『新しき過去』より)

「息を吸い肺膨らませ吐いて泣くそれが独りで生きる始まり」
(島本太香子「眠る嬰児(みどりご)」/「短歌往来」2019年4月号より)

「胴吹きの花のあとから枝のびて難しいのは終わり方だな」
(中村敬子『幸ひ人』より)

「箇条書きで述ぶる心よ書き出しの一行はほそく初雪のこと」
(大口玲子『東北』より)

「そりゃ男はえらいよ三〇〇メートルも高さがあるし赤くひかって」
(平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』より)

「死者のもつ愉しみは知るよしもなし野川の底のさかしまの天」
(杜沢光一郎『黙唱』より)

「「ヤギ ばか」で検索すると崖にいるヤギの画像がたくさん出てくる」
(永井祐『広い世界と2や8や7』より)

「かうするつもりだつたが結局かうなつた 長き一生(ひとよ)を要約すれば」
(浜田蝶二郎『わたし居なくなれ』より)

「沈黙は金か、金なら根刮(ねこそ)ぎに略奪されしピサロの金か」
(島田幸典『no news』より)

「救ひなき裸木と雪の景果てし地点よりわれは歩みゆくべし」
(中城ふみ子『乳房喪失』より)

「時によりすぐれば民の嘆きなり八大龍王雨やめたまへ」
(源実朝『金槐和歌集』より)

「籠り居の日々にしあれど今の今 未来の時間の最先端よ」
(春日真木子/2021年「歌壇」6月号より)

「翅もつを羨むやうに蟻たちが掲げて運ぶ蝶の片翅(かたはね)」
(高木佳子『片翅の蝶』より)

「伜なる俺をときをり忘れをり忘れられしは涼しもたらちね」
(島田修三『東洋の秋』より)

「見ないまま抱きあふとき骨格のふかさの中でわが咽喉ほそき」
(河野美砂子『無言歌』より)

「朕ひとりだめになっても朕たちの木型は朕のことおぼえてる」
(謎彦『御製』より)

「春泥を踏みつつゆふべ帰り来て皮膚脱ぐやうに靴下を脱ぐ」
(小島ゆかり『獅子座流星群』より)

「工藤吉生腹をもむ いきなり宇宙空間に放り出されて死ぬ気がすんの」
(工藤吉生「人狼・ぼくは」『短歌研究』2018年10月号より)

「狂はない時計を嵌めてゐる人と二度逢ひ三度逢ひ明日も逢ふ」
(光森裕樹『鈴を産むひばり』より)

「試されることの多くて冬の街 月よりうすいチョコレート嚙む」
(鯨井可菜子『タンジブル』より)

「アイスクリーム食べながらなんで君なのか考えて食べるアイスクリーム」
(長谷川麟『延長戦』より)

「幽霊でございます、と起きてくる祖母のジョークを諫めておりぬ」
(原田彩加『黄色いボート』より)

「野ゆき山ゆき木苺を食ひ茅花(つばな)を食ひ嬉しかりしよ母の故里」
(酒井佑子『空よ』より)

「早朝のラブホテルのリネン室で仮眠をしていたボクの母さん」
(山下一路『スーパーアメフラシ』より)

「薄暗い頃に目覚めてジャスミンの香りに喉をしめらせてゆく」
(轟車自転車「ブルーシールアイス」『立命短歌』4号より)

「セイムタイム セイムチャンネル セイムライフ 悪夢の続きだったとしても」
(佐藤りえ『フラジャイル』より)

「小せぇお~いお茶飲みやがって 小さいお~いお茶を飲むな」
(伊舎堂仁「ザーッて」より)

「食卓にぽつり置かれぬ「父の日」のユンケルローヤル黄帝液は」
(小高賢『本所両国』より)

「人事などもわもわとして春の夜のサッポロ一番やはり塩あぢ」
(野田かおり『風を待つ日の』より)

「熱湯に月桃花茶のティーバッグふかく沈めてこの世にひとり」
(渡英子『レキオ 琉球』より)

「淋しさは壊してしまえ生牡蠣(なまがき)に檸檬をしぼるその力もて」
(道浦母都子『花やすらい』より)

「鳥にわづか果皮剥かれたる柑橘の冬の空間に重くみのれり」
(横山未來子『花の線描』より)

「本当に疲れたるとき買い置きのリポビタンD思わざるなり」
(白石瑞紀『みづのゆくへと緩慢な火』より)

「キャンパスの全禁煙など説くありて正しきことはただにぞ寒き」
(島田修三『蓬歳断想録』より)

「雨宿りせし駄菓子屋にインベーダーゲーム機ありき あの夏のこと」
(笹公人『念力姫』より)

「向こうから泣く声がする 百円のマグロいくつもいくつも食べる」
(郡司和斗『遠い感』より)

「蓋つきの湯呑みでお茶を出されたりわれにではなくわれの会社に」
(藤島秀憲『二丁目通信』より)

「すずやかな空の青さで顔を洗う心地のあした七月となる」
(五十嵐きよみ『港のヨーコを探していない』より)

「人のかたち解かれるときにあおあおとわが魂は深呼吸せん」
(松村由利子『大女伝説』より)

「かかえこむ人だったのだ文机のメモに「捨てる!技術」とありぬ」
(中沢直人『極圏の光』より)

「いまだ掬はぬプリンのやうにやはらかくかたまりてゐるよ夏の休暇日」
(上村典子『草上のカヌー』より)

「朝昼兼食の乳酪切りつつ詩作とは醱酵黄金の時間待つわざ」
(高橋睦郎『狂はば如何に』より)

「冷めてなほ唇(くち)に張りつく乳の膜おのがことばにおのれ欺き」
(さいかち真『裸の日曜日』より)

「痩せた娘の白いPSVITAかなあれはなんども溢れ出す河」
(井ノ岡拓「未のフーガ」より)

「労働は、寒い。つかのま有線の安室をなぞるくちびるを見た」
(高島裕『旧制度(アンシャン・レジーム)』より)

「生きるのが大変だった アルバムはひらけどひらけど大運動会」
(平山繁美『白夜に生きる』より)

「靴ずれを見むと路上にかがむとき雨の路上の音量あがる」
(睦月都『Dance with the invisibles』より)

「白い根の水にからまる深夜にはひんやりとしてすてきなまぶた」
(加藤治郎『混乱のひかり』より)

「ただの日となりてかろうじて晴れている十月十日ジョギングをせり」
(中沢直人『極圏の光』より)

「to doを書き出すことを脳内のto doリストの筆頭に置く」
(牧野芝草『整流』より)

「カウンターに呑みつつ並びゐし人ら ゆふぐれはみな話があつて」
(池田はるみ『正座』より)

「マッサージチェアに背中を突つつかせて四十の坂はゆつくり登る」
(田村元『昼の月』より)

「だしぬけになんとはなしに藤色の服が着たくてユニクロに来る」
(荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』より)

「孵らない卵を購う 腫れを持つ甲状腺はちょうちょのかたち」
(田宮智美『にず』より)

「うちいでて鶺鴒あをし草深野一万人の博士散歩す」
(坂井修一『群青層』より)

「降圧剤一錠を嚥む夕まぐれ 五階まで来た蟻を祝へり」
(岡井隆『鉄の蜜蜂』より)

「ヨーグルトかきまわし白で白覆う とりかえしつかぬことはもういい」
(松平盟子『天の砂』より)

「真夜中の口笛、笑い、鳥の声朗らかな週末の死者たち!」
(星野満寿子『西暦三千年の雪』より)

「少年と呼ばれてみたい夏の日の膝のかさぶたまためくっては」
(中井スピカ『ネクタリン』より)

「牛馬(うしうま)とともにありたる生活より百年経へたり 人こころ病む」
(小池光『サーベルと燕』より)

「卵もて食卓を打つ朝の音ひそやかに我はわがいのち継ぐ」
(高野公彦『淡青』より)

「もうざふきんみたいになつてわたくしのすこし上手に眠れよこころ」
(今野寿美「あつちもの」『短歌』,2021.10より)

「人参はピーラーで削ぐ基督の毛脛剃るごとこころを込めて」
(住谷眞『遁世はベンツのやうに』より)

「生きて来てふっと笑いぬ今正午百合ケ丘は坂ばかりある町」
(松実啓子『わがオブローモフ』より)

「アスファルトの感じがよくて撮ってみる もう一度  つま先を入れてみる」
(永井祐『日本の中でたのしく暮らす』より)

「きさらぎの雪にかをりて家族らは帰ることなき外出をせよ」
(小中英之『わがからんどりえ』より)

「一杯の水をふくめば天地の自由を得たる心地こそすれ」
(岡本かの子『かろきねたみ』より)

「「百歳」と内緒ばなしのやうに言ふ祖母は十本の指をひろげて」
(佐々木千代『菜の花いろ』より)

「ひつそりと世阿弥を読める隣室へ誰か来て弾くフランス組曲」
(永井陽子『樟の木のうた』より)

「さみしいひとかげがゆめのしんになりぎんがをだいてかたむいてくる」
(糸田ともよ『しろいゆりいす』より)

「魔女のため灯す七つの星あればゆけようつくしからぬ地上を」
(川野芽生『星の嵌め殺し』より)

「SOMETIME AGO 海辺 あなたの菫色の日傘が揺れていしが 戻らず」
(谷岡亜紀『風のファド』より)

「走りながら渡されて笑いながら受け取る凧を柄にもなくたずさえて」
(佐伯紺「手をつないだままじゃ拍手ができない」『たべるのがおそい』vol.7より)

「戸口戸口あぢさゐ満てりふさふさと貧の序列を陽に消さむため」
(浜田到『架橋』より)

「人のをらぬ改札口を通り過ぎやうやく僕の無言劇果つ」
(栗原寛『月と自転車』より)

「われの名を記して小さき責任をとりたり窓のオリオン光る」
(澤村斉美『galley』より)

「店頭に並ぶ無眼の目刺にもどどっと春の怒濤が甦(かえ)る」
(石田比呂志『流塵集』より)

「とりあえずのぼるしかなし地下鉄の駅を出でては雨にし打たる」
(桜井健司『平津の坂』より)

「紅葉葉(もみじば)の過ぎにし友よ 酒飲んで君の時間を仲間となぞる」
(佐佐木幸綱『ムーンウォーク』より)

「家事をせぬ安穏の岸辺あるきつつ吹っ切れた母の妙な明るさ」
(松平盟子「短歌往来」より)

「ゴンドラが緑の谷の上をゆく うれしさと不安の起源はおなじ」
(五島諭『緑の祠』より)

「指尖(ゆびさき)の傷の痛みにひゞけつゝ市街(まち)の電車のきしるわびしさ」
(木下利玄『銀』より)

「衰弱と睦みゐたるは甘美なりわれが風邪(ふうじや)の癒えなむとして」
(森岡貞香『百乳文』より)

「のちの世に手触れてもどりくるごとくターンせりプールの日陰のあたり」
(大松達知『フリカティブ』より)

「運動靴はバケツに浮かぶ秋の日の水の重さに押し上げられて」
(竹中優子『輪をつくる』より)

「夏の朝 体育館のキュッキュッが小さな鳥になるまで君と」
(木下侑介『君が走っていったんだろう』より)

「重力に逆らって翔ぶ鳥の目よ 逆らふ者の美しい目よ」
(片岡絢『カノープス燃ゆ』より)

「思うよりずっと遠くにあるのかもしれない雨の流れ着く先」
(鈴木晴香『心がめあて』より)

「公園の眞晝縄跳びせる圓のなかに老婆とならむ少女は」
(江畑實『檸檬列島』より)

「たそがれのコープ岩倉に購ひぬ「わけあり二十世紀」を三つ」
(近藤かすみ『花折断層』より)

「メガバンク、メガバンクとぞ囁きて歯ならぬ桜咲き満つる国」
(大滝和子『竹とヴィーナス』より)

「炎天に悲しい胸が光るまで僕はあなたと広場に立てり」
(堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』より)

「信長が斃(たほ)れし齢(とし)にわれなりて住宅ローン残千八百万」
(小池光『静物』より)

「必要というのはせっかく復興庁の予算を充てられるからということ」
(近江瞬『飛び散れ、水たち』より)

「だれも死ぬ日を知らず人は壁に向き入金しゆくスイカを挿して」
(佐佐木幸綱『ムーンウォーク』より)

「停車場(ていしゃば)に札(ふだ)を買ふとき白銀(しろがね)の貨(かね)のひゞきの涼しき夜なり」
(若山牧水『独り歌へる』より)

「菖蒲湯にうつし身の香をとどめたる父ありき思ひ出さず忘れず」
(塚本邦雄『不變律』より)

「家族には告げないことも濃緑(こみどり)のあじさいの葉の固さのごとし」
(𠮷野裕之『ざわめく卵』より)

「墨壺ゆ引き上ぐるとき筆先は暗黒宇宙を一滴落す」
(三井修『汽水域』より)

「そこにはだれもいないのにそこには詩人もいないのにそこにも白い」

「花が咲きそこには読者もいないのにそこにも探した跡がある」
(蝦名泰洋『ニューヨークの唇』より)

「校歌にもうたはれてゐる松の木に松喰ひ虫の薬剤をうつ」
(高橋元子『インパラの群れ』より)

「うっすらと脂肪をつけてゆくように貯金を増やす一年だった」
(田中濯『地球光』より)

「やめようときめたのは尖端ではないのだらう蔦があんなところで」
(平井弘『振りまはした花のやうに』より)

「麦縄といふ古き名を思ひつつ初秋(しよしう)の熱きうどんを食へり」
(高野公彦『渾円球』より)

「またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく」
(岡野弘彦『滄浪歌』より)

「ホームページ・ミクシィ・ツイッター・ズームなど渡り来し我は歌人うたびとである」
(奥村晃作『蜘蛛の歌』より)

「ハードルをつぎつぎ越ゆる若き脚(あし)のむかうに暗き夏のくさむら」
(柏崎驍二『四月の鷲』より)

「図書館はとてもしずかで子供なりの小声がおしっこと言っている」
(工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』より)

「さかなへんの字にしたしんだ休日の次の日街できみをみかけた」
(正岡豊『四月の魚』より)

「高級なティッシュの箱のしっとりとした動物の寝ている写真」
(𠮷田恭大『光と私語』より)

「感情の水脈(みお)たしかめて読点を加えるだけの推敲なせり」
(島田幸典『no news』より)

「知らぬ間に握つてゐたるレシートを伸ばせば三日前の、切手の」
(石川美南『体内飛行』より)

「スランプの僕の脳みそ唄うのはキリンレモンのリフレイン」
(樋口智子『つきさっぷ』より)

「「お母さん」呼べば「はい」とうこのうつつ昨日も今日もわれの幸福」
(冬道麻子『梅花藻』より)

「怒りさへ強ひられてくる福島にありて強ひくる人を覚えつ」
(高木佳子『玄牝』より)

「一筵(ひとむしろ)の唐辛子のうへよぎらんと白猫はあかく燃えつつ燃えず」
(小中英之『過客』より)

「故もなく撃たれしひとりを支えつつ撮れと言いたる声が伝わる」
(中川佐和子『海に向く椅子』より)

「震災を知らないということだけは知っているただ、知っているだけ」
(昆野永遠「気仙沼高校 日々の活動」より)

「アダムの肌白人は美はしき白といひエチオピアの子は褐色といふ」
(春日いづみ『アダムの肌色』より)

「ひとの世に混り来てなほうつくしき無紋の蝶が路次に入りゆく」
(安永蕗子『蝶紋』より)

「ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る」
(大森静佳『てのひらを燃やす』より)

「走れトロイカ おまえの残す静寂に開く幾千もの門がある」
(服部真里子「町」2号より)

「福島から来ましたと新しい街で言ふだらうまだ寒い春の日に」
(小林真代『ターフ』より)

「水中では懺悔も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく」
(工藤玲音『水中で口笛』より)

「ひとつぶのどんぐり割れて靴底に決心のような音をたてたり」
(齋藤芳生「はつゆきはまだか」「現代短歌」2018年1月号より)

「水鳥のからだのなかに水平を保てる水のあり冬の空」
(永田和宏『日和』より)

「しっとりとつめたいまくらにんげんにうまれたことがあったのだろう」
(笹井宏之『ひとさらい』より)

「加速して高速道路へなじむとき時はゆったり時だけをする」
(岡野大嗣『音楽』より)

「アマノジャク男爵が避暑惑星に飼う美しい手をした生き物」
(高柳蕗子『ユモレスク』より)

「かなしみを晒すごとくに灯のしたの林檎の皮に刃をくぐらせつ」
(横山未来子『とく来りませ』より)

「手を洗いすぎぬようにね愛してたからねそれだけは確かだからね
(雪舟えま『たんぽるぽる』より)

「弱いもの順に腐ってゆくことの正しさ 夏はあまりにも夏」
(上坂あゆ美「生きるブーム」『短歌研究』2022.08より)

「揉上(もみあ)げは剃(そ)らないことに理髪師が同意したあと風が出て来た」
(岡井隆『暮れてゆくバッハ』より)

「仕事終へ「また明日」といふ人のなくコトッと閉めぬ事務所のドアを」
(影山一男『桜雲』より)

「よく聞いて応へて詫びて赦されてさういふものになつてしまつた」
(和嶋勝利『うたとり』より)

「夜のうちに書いて了(しまは)う母がまだ私の字を読め返事くるるゆゑ」
(河野裕子『庭』より)

「「歌詠みに砂漠は合わぬ」簡潔に書かれし文にひとひこだわる」
(三井修『砂の詩学』より)

「五行削れといわれ結局削りしはやはり個人的思い入れ部分」
(小川太郎『出版人の萬葉集』より)

「何ぞ背後に燃やす画面やほれぼれと聞き取り易き移民の英語」
(田中濯『地球光』より)

「萬葉ゼミいよよすたれて筋よきに狙ひをさだめ拉致するといふ」
(島田修三『東洋の秋』より)

「怒るより先に悲しくなる人はうつむいて咲く花 みずいろの」
(松村由利子『耳ふたひら』より)

「うたかたの職場におのれ尽くし来ぬ指のあはひを風の抜けゆく」
(大西民子/田中あさひ著『大西民子 歳月の贈り物』より)

「「つき」と呼ぶ言葉なくせし病床に下弦の繊月ひたと見てゐつ」
(高村典子『わらふ樹』より)

「虹を消すやうなる右手 教科書にカタカナを振る生徒を見れば」
(小川真理子『母音梯形(トゥラペーズ)』より)

きみ﹅﹅あなた﹅﹅﹅を捨てるカラーパレット生きるのがこんなに﹅﹅﹅﹅容易だなんて」
(瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』より)

「雨暗く/部屋の明かりが輝けり/甦りといふことを思へる」
(坂口弘『常(とこ)しへの道』より)

「坂道を上った先の消防の間口の広い建物に塔」
(牧野芝草『整流』より)

「きちんと育てられたんやねと君は言ふ私の闇に触れてゐるのに」
(勺禰子『月に射されたままのからだで』より)

「森 と思ひゐしはあなたの庭なりき伐られて七つ家建つといふ」
(川野芽生『Lilith』より)

「檀まゆみの実ひとつ飲みまたひとつ飲みつぐみが連れてくるよゆふやみ」
(河合育子『cocoon』Issue15より)

「閉店した靴屋の軒を借りて知る今まで靴が見ていた景色」
(山本夏子『空を鳴らして』より)

「ひた泣きて訴へたりし幼の日よりわが身に添へる不安といふもの」
(さとうひろこ『呑気な猫』より)

「愛を告げすぎて不安になるこころあまたなるゆすらうめの実のゆれ」
(渡辺松男『けやき少年』より)

「どこにでもある不安なりペンに書く文字をゆがめてブルーブラック」
(久我田鶴子『雀の帷子』より)

「にがき夏まためぐり来て風が揉む無花果に不安な青き実の数」
(角宮悦子『ある緩徐調』より)

「一歩ずつ全世界足のうらにきて世界を移しながらの下山」
(渡辺松男『牧野植物園』より)

「ちからある雨となりたり傘の上の響きを手首でうけとめながら」
(河野美砂子『無言歌』より)

「「けふ」と書く「ふ」の頼りなさ一日を生き延びて書く記憶の上に」
(前田康子『ねむそうな木』より)

「たちまちに声のみとなり行く鳥のゆふやけぞらの喉ふかくゆく」
(小島ゆかり『六六魚』より)

「いつもいつもうつむき加減のアネモネの激しい色と弱さを嫌う」
(大村早苗『希望の破片(カケラ) 30ansストーリーズ』より)

「夜空とか映画館とか指先が見えなくなると会いたく思う」
(仲田有里『マヨネーズ』より)

「わたくしの名刺どこかでシュレッダーにかけられて居ん頭が痛い」
(松村由利子『鳥女』より)

「ふかくふかく潜る鯨のしづかなり 酸素マスクに眠りゐる人」
(熊岡悠子『鬼の舞庭』」より)

「常に世界にひかりを望むといふやうな姿勢ゆるめて緑蔭をゆく」
(荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』より)

「神の掟不意に畏(おそ)れつ唐黍の粒のひしめき列なしてゐる」
(村山美恵子『溯洄』より)

「秋風(しうふう)に思ひ屈することあれど天(あめ)なるや若き麒麟の面(つら)」
(塚本邦雄『天變の書』より)

「スクリーンを外し観客席を運び去りし劇場空間を人らと清む」
(加賀要子『2019年版 現代万葉集』より)

「〈通草の実知っているひと〉と我が問えば十七人の全校生みな挙手をする」
(熊谷龍子『森の窓から』より)

「カメを飼うカメを歩かすカメを殺す早くひとつのこと終わらせよ」
(高瀬一誌『高瀬一誌全歌集』より)

「こころにもほとりがあつてたちまよふ思ひのやうに鶴がはばたく」
(尾崎まゆみ『ゴダールの悪夢』より)

「かつて祖父は資産運用に敗れたり古き通帳に雨の匂いぬ」
(桜井健司『朝北』より)

「ひと抱へかしこに置きてわすれたる穂芒は銀霊となりゐつ」
(葛原妙子『鷹の井戸』より)

「火の息を鎮めて膝をわずか曲げ神事のごとしフリースローは」
(三井修『アステカの王』より)

「あ、ではなくああ、であろうか学校に踏み入るときの人の言葉は」
(棚木恒寿『天の腕』より)

「ヒトわれの辛き残暑に力得るゴーヤなるべし次々みのる」
(大西晶子『花の未来図』より)

「草はらに草の重心揺れ合いて尿(ゆまり)しており小さき私」
(前田康子『キンノエノコロ』より)

「税務署の調査がありき かくなる折りメガネはふしぎにゆとりを呉れる」
(晋樹隆彦『秘鑰(ひやく)』より)

「それなりに背負うべきものもあるからか用紙がくぼむまで印を捺す」
(生沼義朗『関係について』より)

「鳥ならばずっと飛ばずに嘴で何かを伝え合っていたいよ」
(本川克幸『羅針盤』より)

「人間はひとつの不潔なる川と靠(もた)るる窓に夕茜燃ゆ」
(阿木津英『天の鴉片』より)

「(ぢつと手をみる)/というオプション。/(たはむれに母を背負)ったりする、/そういうオプション。」
(𠮷田恭大『光と私語』より)

「人類を森口博子を知る者と知らない者に分けて秋雨」
(竹中優子『輪をつくる』より)

「「負けたくはないやろ」と言うひとばかりいて負けたさをうまく言えない」
(虫武一俊『羽虫群』より)

「人界に巣をつくりたるせっかちな山鳩こんなにさびしい聲で」
(中井守恵「紙の剣」『短歌』,2022.09より)

「さからはぬもののみ佳しと聞きゐたり季節は樹々を塗り籠めに来し」
(川野芽生「Lilith」/「歌壇」2018年2月号より)

「七月七日一夜かぎりの逢ひの外白牛はやさしき眠りを得しや」
(尾崎左永子『椿くれなゐ』より)

「そのままのきみを愛するなんてのは品のないこと 秋 大正区」
(染野太朗『うた新聞』より)

「クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘だ」
(佐クマサトシ「vignette」(Website「TOM」より))

「横顔にわれの視線を反射させ確信犯の君は輝く」
(嵯峨直樹『神の翼』より)

「開張する前翅は十三センチ越ゆるなるドクロメンガタ蛾は鼠の声す」
(馬場あき子『あかゑあをゑ』より)

「ミドリ安全帯電防止防寒着「男の冬に!」の袋を破る」
(奥村知世『工場』より)

「発音をせぬKの文字 ナイフもておのがいのちを裁ちし男よ」
(本田一弘『磐梯』より)

「なんと俺、短い名前がだいすきで「手」と名乗る女の胸を揉む」
(ナイス害『フラッシュバックに勝つる』より)

「ほんとうに夜だ 何度も振り返りながら走っている女の子」
(平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』より)

「二人して味噌ラーメンの丼に摑まりながら夜の淵にをり」
(渡辺真佐子『魚(いを)の眠り』より)

「わがはだか にえをすらしも。いしふねの肌に触りつつ― 夜にいりゆく」
(藤井貞和『うた―ゆくりなく夏姿する君は去り』より)

「コスモスが咲いているのは母校なる小学校の脇の道なり」
(萩原慎一郎『滑走路』より)

「まだまだとおもいてすごしおるうちに はや死のみちへむかうものなり」
(村岡花子/村岡恵理『アンのゆりかご』新潮文庫より)

「「障害も個性」と軽く言ふなかれ苦しみ抜きて吾子は生きをり」
(渡辺幸一『イギリス』より)

「神宮競技場ここ聖域にして送らるる学徒幾万に雨ふり注ぐ」
(吉野昌夫『暦日』より)

「一般に犬はワンワン叫ぶから普通名詞でワンちゃんと呼ぶ」
(奥村晃作『蟻ん子とガリバー』より)

「「授業の後に巨人戦を観るのが夢」と語る青年 ころなしき夢」
(森本平「短歌」2021年6月号より)

「赤茄子の腐れてゐたるところより幾程(いくほど)もなき歩みなりけり」
(斎藤茂吉『赤光』より)

「役にたつやうさまたげにならぬやう名札小さく〈ボランティア〉なり」
(木畑紀子『歌あかり』より)

「地名に人の歴史はあかく血飛沫くを愚政の果てに消えゆきにけり」
(福島泰樹 『亡友』より)

「金木犀うすくフェンスにふれながらいつかはいつかのままに遠くて」
(大森静佳『ヘクタール』より)

「知る誰もなかりしあの頃あの気負い今日はだれもがKaz(カズ)とのみ呼ぶ」
(永田和宏『日和』より)

「手をあてれば幹の内より重なる手木の方がずっとながく寂しい」
(小島なお『展開図』より)

「五十年使い慣れたるこの辞書のやぶれかぶれの我の老年」
(足立尚彦『冬の向日葵』より)

「玄関にセールスマンが立ちしときたちまち対する外部と内部」
(小笠原和幸『春秋雑記』より)

「耳飾りとをんなの意地をぶらさげて饂飩みたいにのびた耳たぶ」
(知花くらら『はじまりは、恋』より)

「どちらかは使はない券どちらかは使へない券どちらかは海」
(服部崇『新しい生活様式』より)

「三月の君の手を引き歩きたし右手にガーベラ握らせながら」
(立花開『ひかりを渡る舟』より)

「冬山の青岸渡寺の庭にいでて風にかたむく那智の滝みゆ」
(佐藤佐太郎『形影』より)

「蟬たちを拾ってあるく、そのような九月生まれのぼくの天職」
(佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』より)

「人生の起伏を歩みきて思ふ電話短きは情[こころ]厚き人」
(高野公彦『無縫の海 短歌日記2015』より)

「もう一度踏まえたうえで介入を クルトンはもう違う食べ物」
(苺宮角『短歌研究』2022.07より)

「風呂の湯は素数に設定されていて私は1℃上げてから出る」
(吉野亜矢『滴る木』より)

「すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく」
(平岡直子「Happy Birthday」/「早稲田短歌』」41号より)

「動物園に行くたび思い深まれる鶴は怒りているにあらずや」
(伊藤一彦『月語抄』より)

「人間の生まれる前は人間の生まれる確率0だつた星」
(香川ヒサ『PAN』より)

「脳髄にひしめく蔓のはみ出してゆくと触(さや)れば闇に髪あり」
(花山多佳子『楕円の実』より)

「二十三階のバルコニーにて川本くんを待つわたしは大阪ジュリエット」
(橘夏生『大阪ジュリエット』より)

「プレステが解禁となる受験後の一戦早くも殺(や)られておりぬ」
(柴田瞳『月は燃え出しそうなオレンジ』より)

「簡単に土下座できるといふ君の鶏冠のごとき髪を撫でたし」
(小佐野彈『メタリック』より)

「一応はわれは大人で頭下げ頭上げしときその老いを見つ」
(森尻理恵『虹の表紙』より)

■歌人・歌集

イソカツミ『カツミズリズム』
さいかち真『裸の日曜日』
さいとうなおこ『逆光』
さとうひろこ『呑気な猫』
ナイス害『フラッシュバックに勝つる』
なみの亜子『ばんどり』
なみの亜子『角川短歌年鑑』
ひぐらしひなつ『きりんのうた。』
フラワーしげる『ビットとデシベル』
ほしみゆえ「ひかりさす」
マルタ・モライス「日本歌人東京歌会詠草」
ユキノ進『冒険者たち』
阿波野巧也『ビギナーズラック』
阿木津英「現代短歌」2014年11月号
阿木津英『宇宙舞踏』
阿木津英『天の鴉片』
安永蕗子『蝶紋』
安永蕗子『天窓』
安田茜「火の話」Webサイト「詩客」
安田純生『でで虫の歌』
安田靑風『季節』
安藤美保『水の粒子』
伊舎堂仁「ザーッて」
伊舎堂仁『トントングラム』
伊舎堂仁『感電しかけた話』
伊藤一彦『月の夜声』
伊藤一彦『月語抄』
伊藤左千夫『左千夫歌集』
伊豆みつ『鍵盤のことば』
井ノ岡拓「未のフーガ」
一ノ関忠人『べしみ』
稲葉京子『秋の琴』
稲葉京子『忘れずあらむ』
雨宮雅子『熱月』
影山一男『桜雲』
永井祐『広い世界と2や8や7』
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』
永井陽子『てまり唄』
永井陽子『モーツァルトの電話帳』
永井陽子『小さなヴァイオリンが欲しくて』
永井陽子『樟の木のうた』
永田紅『いま二センチ』
永田紅『春の顕微鏡』
永田淳『湖をさがす』
永田淳『竜骨(キール)もて』
永田和宏『やぐるま』
永田和宏『黄金分割』
永田和宏『日和』
遠藤由季『アシンメトリー』
奥村晃作『スキーは板に乗ってるだけで』
奥村晃作『蟻ん子とガリバー』
奥村晃作『蜘蛛の歌』
奥村知世『工場』
奥田亡羊『花』
奥田亡羊『亡羊』
横山未来子『とく来りませ』
横山未来子『花の線画』
横山未来子『午後の蝶』
横山未来子『水をひらく手』
横山未來子『花の線描』
王生令子『夕暮れの瞼』
岡井隆「短歌」
岡井隆『銀色の馬の鬣(たてがみ)』
岡井隆『静かな生活』
岡井隆『臓器オルガン』
岡井隆『鉄の蜜蜂』
岡井隆『暮れてゆくバッハ』
岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』
岡部桂一郎『緑の墓』
岡本かの子『かろきねたみ』
岡本真帆『水上バス浅草行き』
岡野弘彦『滄浪歌』
岡野大嗣『音楽』
沖ななも『白湯』
荻原裕幸『デジタル・ビスケット』
荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』
荻原裕幸『青年霊歌-アドレッセンス・スピリッツ』
加賀要子『2019年版 現代万葉集』
加藤克己『宇宙塵』
加藤克巳『球体』
加藤治郎『混乱のひかり』
河合育子『cocoon』Issue15
河野小百合『雲のにおい』
河野美砂子『無言歌』
河野裕子『紅』
河野裕子『庭』
花山周子「現代短歌」2022 №88
花山周子『屋上の人屋上の鳥』
花山周子『風とマルス』
花山周子『林立』
花山多佳子『草舟』
花山多佳子『楕円の実』
花鳥佰『しづかに逆立ちをする』
花鳥佰『逃げる!』
蝦名泰洋『ニューヨークの唇』
外塚喬『火酒』
外塚喬『散録』
外塚喬『漏告』
角宮悦子『ある緩徐調』
葛原妙子『原牛』
葛原妙子『鷹の井戸』
鎌倉千和『ゆふぐれの背にまたがりて』
関政明『走る椅子』
岸原さや『声、あるいは音のような』
喜多昭夫『銀桃』
紀野恵『短歌パラダイス』
菊池孝彦『声霜』
吉岡太朗「町」創刊号
吉岡太朗『ひだりききの機械』
吉川宏志『海雨』
吉川宏志『雪の偶然』
吉川宏志『鳥の見しもの』
吉田松陰『留魂録』
吉本万登賀『ひだまり』
吉野亜矢『滴る木』
吉野昌夫『暦日』
橘夏生『大阪ジュリエット』
久我田鶴子『雀の帷子』
久野はすみ『シネマ・ルナティック』
宮崎信義『地に長き』
宮本永子『青つばき』
魚村晋太郎『バックヤード』
魚村晋太郎『銀耳』
橋場悦子『静電気』
橋爪志保『地上絵』
近江瞬『飛び散れ、水たち』
近藤かすみ『花折断層』
九鬼周造「巴里心景」『九鬼周造全集 第一巻』
駒田晶子『銀河の水』
空蟬の歌『源氏物語』「箒木ははきぎ」
櫛田如堂『よいむなや』
熊岡悠子『鬼の舞庭』」
熊谷純『真夏のシアン』
熊谷龍子『森の窓から』
栗原寛『月と自転車』
栗木京子『新しき過去』
栗木京子『水惑星』
桑原正紀『秋夜吟』
郡司和斗『遠い感』
鯨井可菜子『タンジブル』
原田彩加『黄色いボート』
源実朝『金槐和歌集』
古志香『光に靡く』
古谷智子『ガリバーの庭』
古谷智子『ベイビーズ・ブレス』
古谷智子『立夏』
五十嵐きよみ『港のヨーコを探していない』
五島諭『緑の祠』
光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』
光森裕樹『鈴を産むひばり』
工藤吉生「この人を追う」『短歌研究』2018年9月号
工藤吉生「人狼・ぼくは」『短歌研究』2018年10月号
工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』
工藤玲音『水中で口笛』
江戸雪『椿夜』
江田浩司『想像は私のフィギュールに意匠の傷をつける』
江畑實『檸檬列島』
香川ヒサ『PAN』
香川ヒサ『The quiet light on my journey』
香川ヒサ『マテシスMathesis』
香川進『氷原』
高橋元子『インパラの群れ』
高橋睦郎『永遠まで』
高橋睦郎『狂はば如何に』
高瀬一誌『高瀬一誌全歌集』
高村典子『わらふ樹』
高島裕『旧制度アンシャン・レジーム』
高島裕『饕餮の家』
高木佳子『玄牝』
高木佳子『片翅の蝶』
高野公彦『水苑』
高野公彦『水行』
高野公彦『淡青』
高野公彦『無縫の海 短歌日記2015』
高野公彦『渾円球』
高柳蕗子「短歌」2021年11月号
高柳蕗子『ユモレスク』
轟車自転車「ブルーシールアイス」『立命短歌』4号
黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』
黒木三千代『クウェート』
今井恵子『白昼』
今井恵子『分散和音』
今橋愛『O脚の膝』
今野寿美「あつちもの」『短歌』,2021.10
今野寿美『さくらのゆゑ』
今野寿美『若夏記』
今野寿美『雪占』
昆野永遠「気仙沼高校 日々の活動」
佐クマサトシ「vignette」Website「TOM」
佐クマサトシ「ゲームみたいで楽しい」/Website「TOM」
佐佐木幸綱『ムーンウォーク』
佐々木朔「到達」/「羽根と根」五号
佐々木千代『菜の花いろ』
佐藤モニカ『夏の領域』
佐藤りえ『フラジャイル』
佐藤華保理『ハイヌウェレの手』
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』
佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』
佐藤佐太郎『形影』
佐藤佐太郎『冬木』
佐藤真由美『恋する歌音』
佐藤東子『風色』
佐伯紺「手をつないだままじゃ拍手ができない」『たべるのがおそい』vol.7
佐伯裕子『あした、また』
佐伯裕子『春の旋律』
嵯峨直樹『神の翼』
嵯峨直樹『半地下』
左沢森「目から星」
斎藤茂吉『赤光』
斎藤茂吉『赤光』
斎藤茂吉『白き山』
斎藤茂吉『白桃』
坂井修一『群青層』
坂井修一『縄文の森、弥生の花』
坂井修一『牧神』
坂口弘『常とこしへの道』
坂田久枝『自転』
榊原紘『悪友』
桜井健司『朝北』
桜井健司『平津の坂』
笹井宏之『えーえんとくちから』
笹井宏之『ひとさらい』
笹公人『念力姫』
笹谷潤子『夢宮』
笹本碧『ここはたしかに』
三井修『アステカの王』
三井修『海泡石』
三井修『汽水域』
三井修『軌跡』
三井修『砂の詩学』
三枝昂之『甲州百目』
山下一路『スーパーアメフラシ』
山下泉『海の額と夜の頬』
山下冨士穂『覚書』
山下洋『オリオンの横顔』
山階基『風にあたる』
山崎聡子『手のひらの花火』
山崎聡子『青い舌』
山川藍『いらっしゃい』
山中もとひ/同人誌『鱧と水仙』第55号
山中智恵子『喝食天』
山中智恵子『紡錘』
山田航『さよならバグ・チルドレン』
山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』
山田富士郎『アビー・ロードを夢みて』
山内頌子『うさぎの鼻のようで抱きたい』
山本夏子「スモックの袖」/「現代短歌」2018年7月号
山本夏子『空を鳴らして』
山木礼子『太陽の横』
志垣澄幸『東籬』
志垣澄幸『遊子』
糸田ともよ『しろいゆりいす』
寺井奈緒美『アーのようなカー』
寺尾登志子「隧道」/「りとむ」2017年9月号
式子内親王『新古今和歌集』
篠弘『東京人』
柴生田稔『星夜』
柴田瞳『月は燃え出しそうなオレンジ』
勺禰子『月に射されたままのからだで』
若山牧水『くろ土』
若山牧水『死か芸術か』
若山牧水『独り歌へる』
酒井佑子『矩形の空』
酒井佑子『空よ』
秋月祐一『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』
秋山律子『河を渡って木立の中へ』
住谷眞『遁世はベンツのやうに』
出口王仁三郎『王仁三郎歌集』
春日いづみ『アダムの肌色』
春日いづみ『塩の行進』
春日真木子/2021年「歌壇」6月号
初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』
小笠原和幸『春秋雑記』
小高賢『本所両国』
小黒世茂『やつとこどつこ』
小佐野彈『メタリック』
小川真理子『母音梯形トゥラペーズ』
小川太郎『出版人の萬葉集』
小谷陽子『ヤママユ』56号
小池光『サーベルと燕』
小池光『山鳩集』
小池光『静物』
小池光『廃駅』
小中英之『わがからんどりえ』
小中英之『過客』
小島なお「公孫樹とペリカン」「COCOON」10号
小島なお『COCOON』17号
小島なお『サリンジャーは死んでしまった』
小島なお『展開図』
小島ゆかり『獅子座流星群』
小島ゆかり『六六魚』
小野茂樹『羊雲離散』
小林久美子『小さな径の画』
小林幸子『場所の記憶』
小林真代『ターフ』
小林朗人「しかし薄氷の上で」『率』8号
松下武雄『山上療養館』
松実啓子『わがオブローモフ』
松村正直『やさしい鮫』
松村由利子『耳ふたひら』
松村由利子『大女伝説』
松村由利子『鳥女』
松平修文『トゥオネラ』
松平盟子「短歌往来」
松平盟子『天の砂』
松本典子『いびつな果実』
松木秀『5メートルほどの果てしなさ』
松﨑英司『青の食單』
上坂あゆ美「生きるブーム」『短歌研究』2022.08
上村典子『草上のカヌー』
晋樹隆彦『秘鑰ひやく』
森井マスミ『まるで世界の終りみたいな』
森岡貞香『黛樹』
森岡貞香『百乳文』
森山晴美『グレコの唄』
森尻理恵『S坂』
森尻理恵『虹の表紙』
森本平「短歌」2021年6月号
榛葉純「F」/「将棋短歌アンソロジー 3一詠」
真中朋久『雨裂』
神山卓也「閉山」/「短歌現代」2002年8月号
水原紫苑『短歌研究』8月号
水原紫苑『武悪のひとへ』
水上芙季『静かの海』
水沢遙子『時の扉へ』
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
菅原百合絵『たましひの薄衣』
瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』
成瀬有『流離伝』
星野満寿子『西暦三千年の雪』
正岡子規
正岡豊『四月の魚』
生沼義朗『関係について』
盛田志保子『木曜日』
西行法師「新古今和歌集」夏歌262
西村美佐子『猫の舌』
西田幾多郎『西田幾多郎歌集』
青井史『月の食卓』
青沼ひろ子『石笛』
斉藤斎藤『渡辺のわたし』
斉藤斎藤『渡辺のわたし』
石井辰彦「率」6号
石川啄木『悲しき玩具』
石川美南『架空線』
石川美南『体内飛行』
石川不二子『牧歌』
石田比呂志『冬湖』
石田比呂志『流塵集』
雪舟えま『たんぽるぽる』
雪舟えま『たんぽるぽる』
千種創一『砂丘律』
千葉聡『微熱体』
川村有史「退屈とバイブス」『ねむらない樹 vol.6』
川野芽生『Lilith』
川野芽生『星の嵌め殺し』
染野太朗『うた新聞』
染野太朗『人魚』
前川佐美雄『大和』
前田康子『キンノエノコロ』
前田康子『ねむそうな木』
前田夕暮『収穫』
曾根好忠『後拾遺和歌集』秋上・273
早坂類『ヘヴンリー・ブルー』
早坂類『風の吹く日にベランダにいる』
相原かろ『浜竹』
相原かろ『浜竹』
増田静『ぴりんぱらん』
足立尚彦『冬の向日葵』
村岡花子/村岡恵理『アンのゆりかご』新潮文庫
村山美恵子『溯洄』
村木道彦『存在の夏』
村木道彦『天唇』
大下一真『漆桶』
大口玲子『東北』
大松達知『スクールナイト』
大松達知『フリカティブ』
大森静佳『カミーユ』
大森静佳『てのひらを燃やす』
大森静佳『ヘクタール』
大西淳子『火の記憶』
大西晶子『花の未来図』
大西民子/田中あさひ著『大西民子 歳月の贈り物』
大村早苗『希望の破片(カケラ) 30ansストーリーズ』
大滝和子『人類のヴァイオリン』
大滝和子『竹とヴィーナス』
大谷雅彦『白き路』
大塚寅彦『空とぶ女友達』
大辻隆弘『デプス』
大辻隆弘『汀暮抄』
大田美和『葡萄の香り、噴水の匂い』
大島史洋『藍を走るべし』
大野道夫『秋階段』
大澤サトシ「三つ足の椅子に座って」/「フワクタンカ78」
滝沢亘『断腸歌集』
沢田英史『さんさしおん』
棚木恒寿『天の腕』
谷岡亜紀『風のファド』
谷岡亜紀『臨界』
谷川由里子「シー・ユー・レイター・また明日」『ねむらない樹』vol.2
谷村はるか『ドームの骨の隙間の空に』
知花くらら『はじまりは、恋』
池田はるみ『奇譚集』
池田はるみ『正座』
竹山広『一脚の椅子』
竹山広『空の空』
竹中優子『輪をつくる』
竹内由枝『桃の坂』
中井スピカ『ネクタリン』
中井守恵「紙の剣」『短歌』,2022.09
中城ふみ子『乳房喪失』
中川佐和子『海に向く椅子』
中川佐和子『春の野に鏡を置けば』
中村敬子『幸ひ人』
中沢直人『極圏の光』
中津昌子『記憶の椅子』
中田明子「Ammonite」『砦』2021.11
中島裕介『oval/untitleds』
中島裕介『Starving Stargazer』
中畑智江『同じ白さで雪は降りくる』
中野照子『しかれども藍』
中澤系『uta0001.txt』
仲田有里『マヨネーズ』
虫武一俊『羽虫群』
長谷川径子『固い麺麭[ぱん]』
長谷川富市『水の容体』
長谷川麟『延長戦』
塚本邦雄『黄金律』
辻井竜一『遊泳前夜の歌』
鶴田伊津『百年の眠り』
鶴田伊津『夜のボート』
天野慶『つぎの物語がはじまるまで』
田宮智美『にず』
田口綾子『かざぐるま』
田村元『昼の月』
田村元『北二十二条西七丁目』
田村穂隆「冬の肺葉」『短歌研究』2022.02
田中拓也『東京(とうけい)』
田中濯『地球光』
杜沢光一郎『黙唱』
渡英子『レキオ 琉球』
渡辺幸一『イギリス』
渡辺松男『けやき少年』
渡辺松男『牧野植物園』
渡辺真佐子『魚(いを)の眠り』
渡邊新月「冬を越えて」/角川「短歌」2018年11月号
土屋文明『山谷集』
土岐友浩『Bootleg』
冬道麻子『梅花藻』
島田幸典『no news』
島田幸典『no news』
島田修三『東洋の秋』
島田修三『蓬歳断想録』
島田修二『青夏』
島本太香子「眠る嬰児(みどりご)」/「短歌往来」2019年4月号
東直子『春原さんのリコーダー』
東直子『青卵』
東洋『青葉昏睡』
藤井貞和『うた―ゆくりなく夏姿する君は去り』
藤原道長『小右記』
藤田千鶴『白へ』
藤田美香「全人類ひれ伏せ」/「福岡歌会仮アンソロジー」vol.6
藤島秀憲『二丁目通信』
堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』
道浦母都子『花やすらい』
道券はな『too late 2』
内山晶太『窓、その他』
内田いく子『廻廊』
内藤明『虚空の橋』
謎彦『御製』
楠誓英『禽眼圖』
楠誓英『青昏抄』
日高堯子『樹雨』
日高堯子『水衣集』
日置俊次『ノートル・ダムの椅子』
入野早代子『欠片』
馬場あき子『あかゑあをゑ』
馬場あき子『ゆふがほの家』
馬場めぐみ「見つけだしたい」『短歌研究』2011.9
馬淵のり子「短歌人」2019年3月号
梅内美華子『真珠層』
梅本武義『仮眠室の鳩』
萩原慎一郎『滑走路』
柏原千惠子『彼方』
柏崎驍二『四月の鷲』
白水ま衣『月とバス』
白石瑞紀『みづのゆくへと緩慢な火』
白川ユウコ『乙女ノ本懐』
白瀧まゆみ『自然体流行』
畑中秀一『靴紐の蝶』
畑和子『白磁かへらず』
飯塚距離「あのバラバラは何ですか?戦意喪失のロベール・ペイシェンス」
飯田有子『林檎貫通式』
樋口智子『つきさっぷ』
樋口智子『幾つかは星』
尾崎まゆみ『ゴダールの悪夢』
尾崎まゆみ『明媚な闇』
尾崎左永子『椿くれなゐ』
百々登美子『風鐸』
百々登美子『盲目木馬』
浜田康敬『望郷篇』
浜田蝶二郎『わたし居なくなれ』
浜田到『架橋』
浜名理香『流流(りゆうる)』
富小路禎子『白暁』
富田睦子『声は霧雨』
服部真里子「町」2号
服部真里子『行け広野へと』
服部崇『新しい生活様式』
福井和子『花虻』
福島泰樹 『亡友』
平井弘『振りまはした花のやうに』
平井弘『前線』
平岡直子「Happy Birthday」/「早稲田短歌』」41号
平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』
平山繁美『白夜に生きる』
平林静代『雨水の橋』
片岡絢『カノープス燃ゆ』
穂村弘「時をかける靴下」朝日新聞2002年3月26日夕刊コラム
穂村弘『シンジケート』
穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越しウサギ連れ』
穂村弘『水中翼船炎上中』
北原白秋『海阪』
北原白秋『桐の花』
北山あさひ『崖にて』
北川草子『シチュー鍋の天使』
北辻一展『無限遠点』
牧野芝草『整流』
牧野芝草『整流』
睦月都『Dance with the invisibles』
本川克幸『羅針盤』
本多真弓/本多響乃『猫は踏まずに』
本多真弓『猫は踏まずに』
本多稜『蒼の重力』
本田一弘『磐梯』
本田一弘『眉月集』
鳴海宥『BARCAROLLE 舟唄』
木ノ下葉子『陸離たる空』
木下こう『体温と雨』
木下利玄『みかんの木』
木下利玄『銀』
木下龍也『オールアラウンドユー』
木下侑介『君が走っていったんだろう』
木畑紀子『歌あかり』
門脇篤史『微風域』
野口あや子『くびすじの欠片』
野田かおり『風を待つ日の』
柳原恵津子『水張田の季節』
柳宣宏『丈六』
柳澤美晴『一匙の海』
涌田悠「こわくなかった」ねむらない樹vol.8
立花開『ひかりを渡る舟』
林あまり『ベッドサイド』
鈴木ちはね『予言』
鈴木加成太 『うすがみの銀河』
鈴木晴香『心がめあて』
鈴木博太「ハッピーアイランド」
鈴木陽美『スピーチ・バルーン』
和泉式部『後拾遺集』
和嶋勝利『うたとり』
和嶋勝利『雛罌粟コクリコの気圏』
和嶋勝利『天文航法』
廣野翔一「泥、そして花びら」
枡野浩一『てのりくじら』
枡野浩一『歌 ロングロングショートソングロング』
櫟原聰『光響』
澤村斉美『galley』
澤村斉美『夏鴉』
齋藤芳生「はつゆきはまだか」「現代短歌」2018年1月号
齋藤芳生『花の渦』
齋藤茂吉『つゆじも』
苺宮角『短歌研究』2022.07
藪内亮輔『海蛇と珊瑚』
藪内眞由美『首長竜のゆふやけ』
塚本邦雄『天變の書』
塚本邦雄『不變律』
𠮷田恭大『光と私語』
𠮷野裕之『ざわめく卵』

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