【建築レビュー#002】パリ郊外に立地する公営住宅にはおよそ見えない荘厳な佇まい アブラクサス | リカルド・ボフィル
10年ほど前、当時勤めていた会社の研修旅行で訪れたパリにてどうしても見に行きたかった建築。
1日だけあった自由行動の日、同部屋だった先輩に「今日は一人にさせて」とだけ伝え、郊外まで一人電車旅で見に行ってきました。
そうして見に行ったのが、日本ではラゾーナ川崎等の設計で知られるリカルドボフィル設計のアブラクサスという公営住宅。
所在地:フランス ノワジー・ル・グラン地区
竣工年:S58年(1983)
設計者:リカルドボフィル
構造等:RC造(一部PC)
用途 :公営住宅
戸数 :550戸
1983年に公営住宅としてパリ郊外に建設されたこの住宅は、
半円形の「劇場」とコの字型の「宮殿」、その2棟間に建つ塔状の「凱旋門」の3棟から成る形而上学的な住棟配置が特徴。
半円状の広場は美しい芝生で覆われ、建築の荘厳な佇まいと相まって、とても公営住宅には見えない、品格の感じられる空間となっていました。
このクラシカルなファサードデザインは、一方でプレキャストコンクリートが採用されるなどの合理化が図られているそうです。ようやく公営住宅らしい要素がでてきます。
装飾的なファサードは、列柱を思わせる連続した円柱状のモチーフなどを用いつつ、正円や矩形などの幾何学モチーフが入り混じり、クラシカルな中にもモダニズムが感じられます。
「宮殿」部分は「劇場」とは対照的な直線的で格式の感じられるデザイン。550戸という日本で考えると大団地といえる住宅ですが、全く過密さは感じられません。
「宮殿」部分の中央には回廊状に共用通路が連続している。通路部分は赤茶色に着色されたコンクリートで覆われ、荘厳さの中にも有機的な印象も感じさせます。
「劇場」と「凱旋門」の間、「凱旋門」と「宮殿」の間にはそれぞれ小さな門状のモニュメントが設えられ、空間の境界が丁寧にデザインされている。
装飾的で特徴的なファサードでありながら、クラシカルなモチーフを用いたり、石の質感を生かしたデザインであることから、古い建物が立ち並ぶ西洋の街並みにあってもしっかり調和しているように感じます。
公営住宅とは思えない荘厳さは、築40年以上経過した今なお失われていませんでした。むしろクラシカルなデザインが相まって、経年によりさらに街並みに溶け込み、美しい景観を創出しています。