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適応障害とうつ病はどう違う?発症のきっかけや症状・治療などを解説

職場のメンタルヘルスに注目が集まっている近年、「適応障害」について聞いたことがある方も多いと思います。身近な人が適応障害になった方や、ご自身が診断された方もいるかもしれません。

適応障害を簡単にいうと、「今いる環境に馴染めずに、心身に症状が出ている状態」です。社会人の場合、例えば「職場に行こうとすると頭痛・吐き気が起こる」「家でも仕事が気になって気持ちが塞ぐ」のような症状があります。

このような症状では「うつ病」の方が聞き馴染みがある方も多いでしょう。適応障害とうつ病の症状には似たものが多く、一見すると違いが分かりにくいです。

今回は、適応障害とうつ病の違いと治療中の過ごし方についてお話しします。


適応障害とうつ病の大きな違いは「原因」

適応障害とうつ病は症状がよく似ていますが、実は多くの違いがあります。最も大きな違いは「なぜ発症するか?」という原因です。

適応障害の原因は、「環境の変化」に心身がうまく対応できていないことです。発症のきっかけになった出来事がはっきり分かります。「環境の変化」とは、たとえば次のようなものです。

  • 仕事…就職・転職、転勤、部署異動、昇進など

  • プライベート…引っ越し、失恋、結婚・離婚、子どもの誕生、大事な人との死別など

昇進や結婚、子どもの誕生のように喜ばしいライフイベントでも適応障害の引き金になり得ます。人間には、自分の身体や周辺環境を一定に保とうとする「恒常性」があります。

嬉しい出来事でも、環境がガラリと変われば心身に負担がかかるのです。

これに対して、うつ病では環境に適応しようと頑張りすぎる「過剰適応」が原因となります。

明確な原因はあまりなく、「あれもこれも」と完璧を目指すあまり心身の消耗に気づかず、疲れ切って発症するパターンが多いです。

たとえば、昇進をきっかけに今まで以上に熱心に仕事に取り組み続けた結果、無理がたたってうつ病になった、という症例は多いでしょう。「昇進」というライフイベントより「仕事を頑張りすぎた」が原因となっているのです。

適応障害とうつ病の違い3つ

適応障害とうつ病の違い①「発症しやすい性格」の有無

適応障害には「かかりやすい性格」は特にないとされています。
有病率はおよそ5パーセント、20人に1人は発症する病気です。また、女性の発症数は男性の2倍、特に独身女性のリスクは高くなっています。

これに対して、うつ病にはかかりやすい性格が存在します。特に次の3つのタイプの方は発症しやすい傾向があります。

  • 執着気質…完璧主義、物事に熱中しやすい、臨機応変な対応が苦手

  • メランコリー親和型気質…まじめで仕事熱心、人間関係に気を配りすぎる

  • 循環気質…気分の浮き沈みが激しい、自分を認めさせたい欲求が強い

うつ病の生涯有病率は女性が10~25%、男性が5~12%と女性が高めです。けれども、うつ病にかかった男性の自殺率は女性の2倍とされています。

男性は女性より発症しにくいですが、いざかかると重症化しやすいので十分に注意してください。

適応障害とうつ病の違い② 比較的治りやすい適応障害、治りにくいうつ病

適応障害は、発症の原因となった環境から離れるとよくなりやすいです。
例えば、雰囲気のよくない部署への異動がきっかけで発症した場合、その部署を離れると多くの方が6カ月以内には元気になります。

「環境から離れる」というのは、単純に「転職・異動」というわけではありません。「自分は現在の環境のどの部分に不適応なのか」を見極める必要があります。
業務内容が苦手なのか、同僚・上司が苦手なのか、オフィスの規模が大きすぎるのか…など、自分にとっての問題点を理解して対処しましょう。

ストレスを感じる環境から離れても、すぐにはよくなりにくいのがうつ病です。
うつ病発症のメカニズムはまだ明らかになっていないことも多いのですが、仮説として脳の神経伝達物質の減少によって抑うつ状態・強い不安に陥るとされています。

なかなかよくならなくても、焦らず根気よく治療に取り組んでいくことが大切です。

適応障害とうつ病の違い③ 認知行動療法が効果的な適応障害、投薬が効果的なうつ病

精神疾患の治療には、薬物療法やカウンセリング、各種心理療法などさまざまな種類があります。このうち、適応障害には「認知行動療法」が効果的とされています。

認知行動療法とは、患者の「物事のとらえ方(認知)」と行動に働きかけて、自分でストレスに対応できるようなしなやかなメンタルをつくっていく心理療法です。

適応障害の文脈でいえば、現在の自分の環境に適切な対処ができるように、柔軟な考え方を身につけるトレーニングといえます。

これに対して、うつ病に効果的なのは薬物療法です。抗うつ薬や抗不安薬、気分安定剤などを使って根気よく治療していきます。

うつ病の薬には「怖い」「依存してしまうのでは」というイメージもあるかと思います。現在の薬は、以前と比べて安全性が格段に高いです。

けれども、正しい飲み方をしなければ効果は出ませんし、悪化する恐れもあります。医師・薬剤師の指示はしっかり守りましょう。

適応障害になったときの家庭での過ごし方

「健康的な生活」を意識する

適応障害の症状が現れてきたら、しばらくの間「健康的で無理のない生活」を送ることに集中してみてください。「バランスのよい食事」「十分な睡眠」など、基本的な体調管理にきちんと取り組んでみましょう。

もちろん、いつでも健康的で無理のない生活を送った方がいいのは間違いありません、けれどもどうしても無理してしまうときもありますし、元気なときには「頑張りすぎ」に気づけないものです。

だからせめて、調子を崩しているときだけは無理をせず、自分の心身の健康に気を配って過ごしましょう。

家族や友人に愚痴を聞いてもらうのもおすすめです。気分転換に出かけるのもよいですが、体調が悪いとなかなか乗り気になれないかもしれません。「無理をしない」ことを1番に考えて過ごしましょう。

「認知行動療法」に取り組む

適応障害による抑うつ・不安が軽度であれば、「認知行動療法」に1人で取り組むのもおすすめです。入門者向けの書籍・ワークブックも豊富ですし、最近では無料で使えるWEBサービス・スマホアプリも利用できます。

ただし、方法が間違っていると「適応的な認知」が築けない恐れがあります。1人で取り組むときは、信頼できる本・WEBサービスなどをしっかり選んでください。

心療内科・精神科に通院している場合は、その病院で認知行動療法が受けられるか確かめてみましょう。対応しているクリニックやカウンセリングルームを探すのもおすすめです。

うつ病になったときの家庭での過ごし方

午前中に太陽の光を浴びる

うつ病の方の多くは、朝起きたときが1番辛いと感じやすいです。脳の病気でもあるうつ病は、起き抜けでぼんやりしているときに症状が出やすくなります。

けれども、辛い朝の時間こそ日の光を浴びるのが大切です。午前中に日光を浴びると分泌される「幸せホルモン」セロトニンは、うつ病の改善に大きな効果をもたらします。
この物質は午前中の起きている時間にしか分泌されないのです。

「起きるのも、明るいのも辛いのに…」と感じると思います。けれども、光を浴びるとだんだん調子が上がってくるはずです。

できるだけ起きやすいように、窓の近くにベッドを動かしたりご家族に協力してもらったりしましょう。

簡単な「リズム運動」もおすすめ

「リズム運動」とは、一定のテンポでリズムよく行う動き・運動のことです。ダンス・エアロビクスのようなものだけでなく、散歩やウォーキング、自転車を漕ぐ動きなどもリズム運動になります。

さらに、呼吸や咀嚼もリズム運動です。抑うつ・倦怠感がひどくて「運動なんてできない…」というときは、カウントしながら呼吸を繰り返す、ガムを噛むなどから始めるとよいでしょう。

「もうちょっと動きたいな」と思えてきたら、ご自分が楽しめるリズム運動を始めてみて下さい。

まとめ

適応障害とうつ病の違い、また家庭での過ごし方についてお話ししました。

どちらも辛い症状がありますし、また発症したことで自分に対しての自信を失ってしまう方もいるかもしれません。けれども、改めて自分や周囲、暮らしと向き合うきっかけになるはずです。

まずはゆっくり休んで、落ち着いてきたら「自分が無理せずに、穏やかでいられる環境ってどういうものだろう」と考えてみてください。

適応障害やうつ病が、あなたの人生がさらによい方に向かうきっかけとなることを願っています。

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