【ブックレビュー】すべての罪は血を流す
物語というのは、主人公が魅力的でなければならない。
これは物語を楽しむ時に大事にしているところだ。私が『少年ジャンプ』で育ったというのも関係しているのだろうか。ヒーロー性が高く、カッコいい主人公というだけで私は満足する。
もちろん、脇を固めるサブキャラクターというのも大事だ。昨今の少年漫画の人気キャラ投票では主人公を差し置きサブキャラが一位になることがほとんどである。
そしてヴィランの存在。最近はいかに魅力的なヴィランを描くかに注力している作品が多い。それはそれで良い。だが、私が言いたいのは『全ては主人公の魅力があってこそ』と言うことだ。
こんな書き出しにしたのは、本書の主人公「タイタス・クラウン」がこの条件を完璧に満たしていたからである。
米国ヴァージニア州のハイスクールで教師が銃撃された。この事件を発端に連続殺人犯を追う警察小説。
主人公は黒人保安官タイタス。今なお人種差別が根深く残るこの土地で保安官になったタイタスは、白人からもそして黒人からも微妙な立場にあった。
母親の死去以降、信仰にのめり込む父親と、それ以降神様を信じられなくなった主人公。
そんな人種差別問題や、家族の話、そして犯人を探していくミステリー要素(いわゆる伏線や、どんでん返し系ではないが)、アクションや暴力シーンも容赦なく息をのむほどの描写で畳み掛ける。
硬派で骨太で、体力をもっていかれるような作品だった。
それだけに本作はどの角度から切っても語ることに耐え得る奥深さも備えているのだが、ネタバレは避けたいのでストーリーについては触れず、今回は主人公の魅力に焦点を絞りたい。
タイタスには悩みも迷いもある。それは大抵の人間が抱えているものだが、それを丁寧に細かく描写しているという意味で。
それでいてタフである。信念があり、決して諦めない。同じ男として、これだけで惚れてしまう。
訳者あとがきでこんな記述があった。
作者コスビーのインタビューからだ。
あくまで公正、公平であろうとする主人公。部下に対しても公平さを保ちながら、それでもしっかりリーダーシップをとる。嗚呼、こんな男に私もなりたい。
様々な困難を受けながらも、それでもルールの中でイカれた殺人犯に立ち向かう主人公。
私の中でまた新たなヒーローが誕生した。できればタイタスを主人公のままシリーズ化した作品が読みたい。でも、この一作で終わりであろう。それが潔いし、そこがまた、カッコいい。