老いて、死を迎えても家族であることは消えない(23-50)
晴れの日が続いたと喜んでいたら、一転雨になると1日中激しく降り、気温も20度に到達しない日が続くようになりました。これからはこんな日の方が多くなると思うとやはり気が滅入りますね。
さて、一昨日読み終えたもう1冊桜木紫乃氏の作品で「家族じまい」を紹介します。(番組表を見ていたら今朝のあさイチにご出演されていたようですね)
「ママがね、ボケちゃったみたいなんだよ」。
突然かかってきた、妹からの電話。
両親の老いに直面して戸惑う姉妹と、それぞれの家族。
認知症の母と、かつて横暴だった父……。
別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。(Amazon内容紹介)
直木賞作家である著者が、帯にあるようにこの作品で中央公論文芸賞を受賞したそうです。
私は著者の作品は直木賞を受賞した「ホテルローヤル」しか読んでいないのですが、北海道在住の著者に小さな田舎町に生まれ育ち、今もそこで生きるしかない私は何か身近なものを感じたのを記憶しています。
本作もテーマが「老いと介護」ということで、シニアの私なりに真剣に作品と向き合い、著者らしい言葉に共感しつつ、老いと介護は続き、家族であることも消えないのだという深い思いを噛み締めています。
以前にも著者の書く綺麗な文章でありながら読者を引き込む力があり、作家として突き抜けているという印象が私の中でも強いのですが、本作においても、家族の中で人間関係に後悔しつつ生きている、それぞれの立場の人間を主人公にして描くという手法によって読者自身をこの中の誰かと同じ目線で読ませるので、苦しみや悲しみ、そして微かな希望等共感できるのだと思います。
そう思いつつ読んだ中で父と娘のこの台詞が何故か心に残りました。
「お父さんは、死にたくなったことある?」
「なんでそんなことを」
「わたしは今のところ、ない。でもそういう気持ちの人、結構いるんだろうなって思ったもんだから。実行するかどうかは別としてさ」
「考えたこともないと言ったら嘘になるが」
「五十を過ぎると、男も女も少し焦るんだ。やり残したことはたくさんあるのに、やり直しのきかないところに来てしまったことに気づく。このまま起伏なく働く日々が続くことも、その後のことも想像できてしまうんだな。俺は何を残したかな、って思ったらいろんなことが虚しくなる。ただ、そういう風に思えるヤツは死なないだろうな」
「どうして」
「虚しいと思うだけの余裕があるから。思考を携えているうちは、人間そうそう死ねないね。という意味では、本気で死にたいと思ったことはないってことだ。俺は、昔も今もこのとおり図々しい人間なんだよ。」
「わたしは、お父さんの残したものにならない?」
「そうだな、父親を途中下車していなければ、お互いが自慢の親子でいられたかもな。ニュータイプってことじゃダメですかね」
笑うことで、父と娘から一歩踏み出す。p216
このままでも充分作品として成り立っていて面白いですが、老いや介護は、死を迎えるまで永遠に続くので、実はそれぞれの主人公その後が気になっていて、彼らの人生そのものも読みたいなと思っています。もちろん、全ては難しいでしょうから誰かにしぼった長い人生が描かれるのも期待したいですね。
いつもより長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。やっと週末金曜日ですね。今日という日があなたにとってかけがえのない1日となりますように。