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KX-880D ケンウッドカセットデッキを修理しました。

店内視聴用のカセットデッキKX-880Dです。
控えとして暫く待機状態でした。

機器交代のため試運転をしようとしたところ、電源は入るが
操作できない状態に。
キャプスタンは回っていますが、再生早送り巻き戻し各ボタンの
反応がありません。
故障です。

先日A&D GX-Z7000を修理したばかりなのに
又修理です。

他のボタンは表示が切り替わるので生きているようです。
回転系の故障です。

どうせ故障するなら使って故障してくれた方がスッキリします。
店内で視聴できますので聞きに来てください。

KX-880シリーズ TRIO/KENWOOD
このシリーズの1号機は
1982年発売のKX-880から始まります。
83    84          85     86     87       87年
880SR   880SRⅡ   880G   880D   880GR   880HX

違いは後述します。

KX-880Dは世代的には5代目になります。
880Gが売れたせいか直後の880Dはあまり見かけません。

この880シリーズには定番の故障が幾つか報告されています。
そのうちの一つが、

ヘッドを上下させるカムモーターの動作不良。

分解してブラシの接触部を磨く。
・モーター換装。
・外部電圧を加えてモーター単体で長時間試運転。

の三つの対処法がありました。

現時点ではモーター不良とは断定できていません。

ケンウッド/トリオ製品特にチューナーもそうですが
エルナーの電解コンデンサーが使われています。
珍しいです。
他の殆どのオーディオメーカーは日本ケミコンかニチコンを
使用しています。

チューナーでもエルナーのコンデンサー不良の記事をよく見かけます。

発売から40年以上経過している現在、エルナーのコンデンサーは寿命を迎えつつあると感じています。
KX-880G/KX-880Dは完全分解できずメンテが厄介です。
修理タイミングで行う予定にしていたコンデンサー交換を
この機に行います。

コンデンサーほぼ全交換します。

ほぼというのは、
このKX-880Dで録音することはありません。
オリジナルの音を残すためラインアウト系はそのままにします。
メーター回路も故障とは無関係です。
依って上記に関連するコンデンサーはそのままにします。
オリジナルの音を残したいので容量アップせずオリジナルと合わせます。
ヘッドホン再生メインにした交換です。

交換した電解コンデンサーと予防交換したトランジスタ
コンデンサーは全てエルナー製

以前修理したKX-880Gもそうですが底板が開きませんので
大掛かりな分解作業になります。

分解しても基板、フレーム、リアパネル、トランスはケーブル類で
繋がったままです。
他社のデッキは通常、トランスを底板から外さなくても修理できる
構造ですが、880G/880Dは外した方がやり易いです。
しかし、ひっくり返しているうちにトランスのケーブルが
はんだ付け部分からちぎれてしまいました。

メンテナンス性は非常に悪いです。

交換完了して

試運転してみます。

変化有りません。

こうなるとやはりカムモーターの故障大です。

換装の場合、新品調達は不可能です。
中古代替互換品を調達しても、他2方法をどちらかを行うことになります。
調達の手間を考慮したら手元にあるモーターをメンテナンスするのが
手っ取り早いです。

最後の「外部電圧で長時間試運転の方法」で行う事にします。

カムモーターを外します。
まずはフロントフレームからメカブロックを取り外します。

本体正面側の両回転軸の間にあるヘッド上下用のスライドプレートを
外しその下に隠れているねじを外すとカムモーターが後ろ側に外れます。

USBを5Vの定電圧電源として利用するための改造ケーブルです。

USBケーブルの電源線だけ取り出します。
スマホ充電用のACアダプタを介する事で定電圧電源として使えま。


スマホ充電用100V→5V変換アダプターで5Vの定電圧電源をUSBケーブルを
改造して作り出しモーターに繋ぎます。

モーターにUSBからの5Vを印加し、半日程度空運転させます。

回らないので指で回して促します。
一度動けばそのまま継続回転になりました。

この状態で半日程度正逆しながら放置します。

5Vで回らなかったので接触部の汚れが原因でほぼ間違いないと思います。

良くある症例と合致しました。
この故障は防ぎようがありません。
モーターの構造上通常の反応です。
デッキを適度に使用し続ける事しか延命はないです。
又は電源on/off時にplay/stopボタンを押しヘッドの上下移動を
連続で行う事で接触部の研磨に繋がり延命出来るかもしれません。
このカムモーターはリールやキャプスタンモーターと違い、
連続回転をするわけではありません。
ヘッドの上下移動時のみと通電時間に対して回転時間が短い為に
リールモーター等よりは故障率が高いのだと思います。


ヘッド位置検出用のリーフスイッチの接点も磨きます。

このスイッチの接点が汚れて導通が無くなるとマイコンがヘッド位置を
認識できず操作不良の要因につながります。


ざらつきのある厚めの紙にCRC556を含ませて接点に挟んでこする様に
前後に動かして汚れを取ります。

黒ずんでいるのが分かります。

底板や基板等掃除をして組付けをします。
外したネジは30個近く有りますが、種類が少なく嵌め間違いが起こらないのがせめてもの救いです。

再生信号の通り道上はオーディオ用コンデンサーを使用しました。
数は少ないです。


このシリーズは
1982年発売のKX-880から始まります。
87年の880HXまで続くロングランでした。
中古市場でも多く見かけるので
かなりの販売実績があったと思われます。
880Gからはブラックフェイスのみになり、最後はDOLBY HX搭載の880HXで締めくくられました。

・この880シリーズは高域録音を改善するトリオ独自のTLLEという
 定電流回路を搭載している事が特徴です。

 録音に力を入れているようなのでこのデッキは録音することで
 高音質を発揮する設計の様です。
 再生だけではもったいないかもしれません。

・SRⅡからSUPER TLLE搭載になりました。
 SRⅡまでは底板が開いていたようですが、マイナーチェンジでコストの
 見直しでしょうか?
 880Gから開かなくなりました。
 又880Gからは回転駆動がアイドラゴムからギヤ駆動に変更。
 そしてテープ残量照明もムギ球からLEDに。

・880Dは880Gの録音時のバイアス定数をブラッシュアップしたタイプ。
 ゴム足から見た目豪華なインシュレータータイプに変更。
 コンセントプラグの極性は880Gと逆になっています。

・880GRは信号ラインのコンデンサーにオーディオ用を採用しています。

・880HXは新しいDOLBY HX機能を搭載しています。
 DOLBY HXはその後HX PROと進化しましたがその搭載機は
 リリースされませんでした。

上位機にKX-1100という3ヘッド機が存在しますが、再生専用機として
みた場合こちらのKX-880シリーズの方がお勧めです。

それはKX-1100が3ヘッドの為デュアルキャプスタン駆動にベルトを使用しているからです。
ベルトは経年変化及び劣化します。
発売当時のクォリティではありませんし今後交換するにあたり入手が困難と思われます。
3ヘッド機の特徴は録音回路と再生回路が完全に別になっている事です。
ですから再生専用機として使用するなら大差はありません。
今後の部品調達を考えたら880シリーズの方が有利だと思います。

それが理由で880Gと880Dを所有しています。

KX-880は音が良い。
これを確認してみたかった。
というのも入手の理由です。
実際に聞いてみた感想は、
その通り
でした。
僕個人の評価ですが。
ただし似た様な価格帯の機種において、です。
3万円程度高いTC-K555ESⅡを凌駕するかというとそうではありません。

特筆するのは伸びやかな高音再生力です。

DOLBYをかける事が多いのでどうしても高音域のエネルギーが削られてしまいます。
それを感じません。
私見ですが、
僕が聴いてきた歴代のカセットデッキでは秀でています。
素晴らしいです。
しかし中音域はプアで全体的な豊かさはやや薄く感じます。
低音もやや軽いです。
音のエネルギーが高音域に寄っていてカチッとした冷たく硬い音に感じます。
しかしクリアで解像度の高い心地よい音です。

シリーズ全体の販売台数も多く故障時の部品取りドナーが豊富なので
コレクションに加える価値はあります。




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