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バーテンダー、クラシック・カクテルを再考する。

先日、ある方とのやり取りでうっかり”between the sheets”というクラシック・カクテルについて偉そうな事を述べてしまった。
そして後日お会いした際に「”between the sheets”の人」と認識されていた。

なんと。これはマズい。

その方の当店への来店可能性はひとまず置くとして、偉そうに語ったくせに現在における自分の味を示せない・語れないのは問題である。いや、大問題だ。
ということで、まずは久しぶりに当時の調合で作ってみる。
ううむ。やっぱりな。
結果など書くまでもないくらい、見事に納得のいかない仕上がりになった。

−断っておくけれど、当時の調合がダメだったわけではない。
それは「その時点では納得のいく、満足できる調合」であったのだ。けれど時間が経ち、歳をとり、経験を重ね、味覚や嗜好(若しくは思考)が変わると見直すべき時期が来る。
それはカクテルに限らず、およそあらゆるものに言えることであると思う−

そういったわけで”現在の自分には合わなくなった”味をupdateすることにした。
当たり前と言えば当たり前。間違いなくこの数年ロクに作っていなかったのだから理想とする味が変わっていない方がおかしい。

まずは調合バランスを一旦ニュートラル(クラシック・レシピ)に戻して作ってみる。
その後に分量の調整や使用銘柄の変更、欲しい甘酸味を加えたりなどをしての試作。
やはり過去の経験があってこそ。数テイクで落ち着かせることができた。
さてこれで良し。と、終わるかと思いきや、ふと他にも目がいった。昨今のヒマさも手伝って「どうせならほとんど触れなかったような、オーダーもされないようなクラシックも作ってみよう」と相成り、再考を始めました。

コレがなかなか…いや、かなり面白い。
Savoy Tango、Champs-Élysées、Expositionなど、ずいぶん長く作っていなかったものや初めて作るものまで、カクテルブックを漁って気になるものを。
こうやって渉猟してみると今現在でも多くの飲み手に名を知られ、オーダーされ続けているものなんと少ないことか。メジャーなカクテルの偉大さを再認識しますね。
本当に星の数ほどある中、郊外のBARでカクテル名指定のオーダーをされるものなんて10もあれば多い方だろう。たぶん。当店に限って言えばヒアリングを主体としたアドリブ&アレンジ+フルーツ・カクテルばかりのオーダーなので尚のことクラシックは少ない。というよりほぼ皆無だ。
にも関わらず語ってしまったのだから、厚顔無恥というか図々しいというか…。

で、こうやってレシピを見返しながらあれこれ作っている中、今はGibsonで引っかかりtakeを重ねております。
…しかし今時、GibsonをオーダーするなんてMartiniによほど言いたいことがある飲み手くらいじゃないか?とも思う。
現代的なMartiniとGibsonの違いなんて、雑駁に言えば沈んでいるガーニッシュがオリーブかパールオニオンかの違いくらいだ。
そしてパールオニオンはなかなか売られていないしGibson以外ではほぼ使わない。そしてGibsonはオーダーされることがほぼない。だから仕入れない。故に多くのBARではGibsonとオーダーすると作れないと返される。
その代替としてドライ / エクストラ・ドライのMartiniが用意されるという見方もできる。
それはそれで面白い−というより皮肉の効いた−解釈だと思う。
だが。
当たり前だけど名前が違い、レシピが別に存在する以上、そこにはやはり理由があるのだ。
作ってみると現代のMartiniとGibsonはそのガーニッシュだけでも決定的な違いを生んでいると感じた(そもそもクラシック・レシピであれば調合量が違うので誰だってその違いはわかる)。
どちらも食前酒とされるのはシャープさだけが理由では無かった。
それは少し考えればわかるような事なのだけど、自分で考えて導き出せたので、どれだけ初歩的であれとても満足している。
とは言え、本当に今さら感は否めなく、自分に呆れているのもまた事実である。



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