言霊~BAR TooLの移転の経緯。
「ああ、こちら周辺への移転とか良いですよねえ。」
始まりはこのひと言だった。
去年の9月頭だったはずだ。たしか。
いつも通りお世話になっているロースターさんで豆を仕入れ、淹れて頂いたコーヒーを飲みながら口にしたそのひと言から全てが転がり始めた。
そして、それから1年おかずして本当に門前仲町へ移転することになるなど誰が予想しただろう?
たしかに移転したいというのは嘘偽りない事実で、開店当初から事あるごとにずっと口にしてはいた。
しかし、まさかこのタイミングとこのスピードは予想を超えるにも程があった。
そもそも「本気か?」と問われて「本気だ」と答えたのは、物件なんて予定時期よりかなり早めに手を打っておかないとどうにもならなくなるものだというのをTooL開店時に嫌というほど思い知らされていたからだった。
本来の予定では行徳であと1年半くらい営業して10年を迎え、その節目に晴れて移転というとてもキレイなシナリオを描いていた。
しかし予定は未定。人生というのはそんなシナリオ通りいかないのが常である。
僕は9月のあの何気無いひと言から文字通り”あれよあれよ”という流れで、気づけば場所が見つかって契約していた。
まこと人生とは解せぬ。
以前、ここで書いたように僕の人生の8割以上は酒に流されている。
それに違わず、今回もコーヒーがその先鞭であったものの、その先はまたしても酒が話を加速させてのご縁であった。
まったく、酒には助けてもらっているという感情とそれ以外の何とも言えない感情とが入り混じった感謝を日々覚えている。
加えてもうひとつ、今回の件は酒の他に、「移転したい」と言い続けてきた”言葉のチカラ”、「言霊」もあったと感じている。
僕はスピリチュアルなものを信じられるほど感受性が強くもなければ素直な人間でもないけれど、”言葉のチカラ”は信じている。
どれだけ時間を要するかは様々だけれど、今までしつこく言い続けてきた事はだいたい叶ってきた。
言い続けるということは、亀の歩みでもそれよりゆっくりでも目的地を定め、そこに向かって進んでいるという事に他ならない。
向かっているのなら一歩ずつでも距離は縮まる。いつかは辿り着くのだ。
とりあえず僕は「移転する」という目的を達成できた。だけどこれはひとつの目的地であり出発点。
経験された人はわかると思うけど、跳ぶことは誰にでもできる。独立であれ移転であれ。資金調達さえできれば良いのだから。
それよりも遥かに重要なのは着地の仕方である。
跳んだは良いものの着地の仕方を知らないとロクなことにならない。骨折で済めばマシなものだ。そうじゃ無い事例なんて枚挙に暇がない。
果たして僕がそれを知って跳んだのか、知らずに跳んだのかはこの先が教えてくれる。
そしてどこを着地点とするかは人による。
僕の着地点はどこなんだろう?