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月子とセンセイ

40歳目前の女性と、30少し年の離れたセンセイの、
切なく、悲しく、あたたかい恋模様。

センセイの鞄 川上弘美
文春文庫の帯
13~15頁の短編が17編
川上弘美という作家さんは、初めて
テンポが良く、4時間ほどで読了

センセイは元高校国語の先生。
主人公・月子は、その教え子。
行きつけの一杯飲み屋で、同じく常連の、
名前も覚えてないセンセイに出会う。
肴の趣味が合うご老体として。

そのうち気の合う飲み友だち?として一緒に飲み、
ときにセンセイの家を訪ねるようになる。

わたしも元高校理科の先生で、
センセイと同じ年配。

センセイは
理性的、物静かで生真面目な性格のようだ。
月子とのやり取りを読んでいると、
最初は月子も距離をおいてる感じがしたが、
一緒に飲むに連れ、
お互いに理解するようになっていく。

ある時、ささいなことが原因で、
月子はセンセイと仲たがいする。
何カ月も口をきかない。
同じ店にいても、だ。

ある休日、月子は自宅でケガをする。
手当がすみ、落ち着いてから散歩に出る。
散歩しながら、
恋人でもないのにと、センセイを思う。

そして偶然、センセイと出会う。

わたしだったら、ケンカ相手がいる店には行かない。
いや、行くかも。やっぱり気になるから…

でも、20年ぶり、偶然に再会した者どうしが、
またまた街角で、
しかもセンセイを思っているところで
偶然に出会って仲直りする。

小説の世界だから
それもありかな。

センセイの誘いで母校での花見に出掛ける。
高校時代の男友だちが月子に声を掛けてくる。

そのことが月子の、センセイへの想いを変化させていく。

月子の学生時代の恋は、
わたしのそれとは大きく違っているだろう。

わたしが高校生の頃、
女の子とつきあう、
多分にそれは、プラトニック。
もしも、
付き合うようになったら
何を話したらよいのだろう、
真剣に悩むような女性観であった。

そして、
わたしが高校教師であった頃、
すでに男女関係に関する常識は変わっていた。
在学中に子どもが出来た生徒がいた。
女の子も、男の子も。

月子世代、昭和の終わりの子たちの男女交際は、
わたしからみると、もっと過激。
アメリカナイズされた交際観が支配し、
特別に親しい異性とのあいだの
親密さを確認する行為としての
男女関係を肯定的に見ている世代。

今、
多くの女子高生が、
在学中に性的な交際を経験する時代になっている。

それでも描かれている月子と男友達の
高校時代の
そしてこの時の関係は、
私の時代のそれであった。

幾度目かの男友だちとのデートで月子は、
旅行に誘われる。
それがきっかけになって
センセイへの想いの結晶化が進む。

ある日、いつもの店で飲み過ぎた月子はその足で、
一緒にセンセイの家に行く。
月子は、センセイに好きだと告白する。
センセイはこれを受け止めなかった。

雷がなり、雷を怖がる月子はセンセイの胸で雨宿りする。

この時までセンセイは、
月子をどう思っていたのだろう。
その日センセイは月子に、
どのような思いだったろう。

月子は旅行に行こうとセンセイを誘う。

ある日センセイは、島への旅に誘う。
島の夜、月子とセンセイは不思議な体験をする。

センセイは月子に、
そこは、センセイを棄てて出て行った奥さんが、
あちこち渡り歩いて、最後を迎えた島だと告げる。

死後それを知ったセンセイは、墓参りに訪れていた。
その島に、月子を誘ったのだ。

奥さんに棄てられたセンセイ。
どんな気持ちだったろうか。
その時もセンセイは、教壇に立ったはずだ。

わたしは二十代、
はじめての恋をし、
強烈な失恋を体験した。

電話で別れを告げられ、
翌日の仕事を放りだし、
半日かけて彼女に会いに行き、
別れを確認した。
何日も食べられず、眠れず、
それでも教壇に立ち続けた。

月子はセンセイと会うことを避けた。
そのままセンセイを思い出の箱にしまって、
忘れてしまおうと思った。

男友だちと最後のデートをした。
そして久しぶりにいつもの店に寄る。
センセイが風邪引いてると聞いて
家を訪ねて行く。
ここでセンセイの心も変わった。

センセイが正式にデートに誘う。
誘って、いつまで生きられるだろうかと前置きして、
恋愛しようと告げる。

わたしは考えた。
自分と30違いの、
子どもと同い年の
月子との交際を。

二人の交際と、
訪れる自分の死を重ねる。
月子に申し込む交際は、
罪悪ではないか。
月子の
これからの生涯を、
わたしが奪うことになるのではないか。

いや、決めるのは月子だ。
そう考え、
わたしは月子に交際を申し込む。

それでも、
一日の幾つもの場面で、
月子との交際を、
このまま続けて良いのだろうか、
考えては、否定することを繰り返す。

月子とセンセイは別々に暮らし、
それまでと変わらなかった。
変わったのは、肌を重ねることだけ。
それでもセンセイは、年齢に関係なく、
体のふれあいは大切、重要だと言ったから。

わたしも、
体のふれあいは大切だと思う。
歳を取ると、
子どもに還るというが、
壮年期以上に、
重要だと思う。
何よりもハグすると、
明日かも知れない別れを忘れ、
こころが平安になる。
わたしの先輩たちも
そう思ったろうか。

30違いのアラフォー女子
月子は、
わたしのこのつぶやきを
どのように感じるだろう。

正式な交際は三年続いた。

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かえる翁じ
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