流刑囚の映画百物語~第83回『箱男』(’24日)
私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『箱男』。
本作の5点満点評価は…
コンセプト…3点
カメラワーク…3点
ビジュアル…2.5点
脚本…1.5点
総合評価…2.5点
うーん、なんというか凡庸極まりない作品。(未読だが)安部公房の中で最も「らしい」作品を原作としていながらこの程度のものしか撮れない、というのはちょっと問題があるだろう。
監督の石井岳龍はもう60代後半である。その年代でこんな作品を撮るのか、悪い意味で思わされた。
後半、ヒロインと二人で病院の窓という窓を目張りする展開は「旧劇エヴァかよ!」と突っ込みたくなった。言うまでもなく2020年代にもなって旧劇エヴァみたいなことをやってはならないし、こうしていつまで経ってもエヴァの呪縛から逃れられないからこそ庵野秀明の如き俗物が神聖視されるのだろう。
『狂い咲きサンダーロード』『爆裂都市』『逆噴射家族』などによって映画界に旋風を巻き起こした人物の行き着く果がモテずに拗らせた中学生の妄想みたいな話だとは、なんとも悲しいものがある。年齢を重ね、イマジネーションが衰えた先にあったのが本能的な肉欲の世界だったということだろうか。
「イマジネーションの乏しさ」は本作の特筆すべき点であろう。作中で描かれる幻覚的なイメージは、アヤワスカなどを摂取すれば誰もが体験する域を出ず、それをそのままに映像化してしまうというのは安直すぎる。同じ「幻覚的イメージ」を用いた作風でも『ミッドサマー』に比べて雲泥の差だ。そしてその貧しさを埋め合わせるサービスのつもりだろうか、女優が大胆にヌードを見せるのだが、これもやはり安直さが否めない。
そもそも『箱男』って畢竟「”全体”対”個”」の話だろうが、それにしては登場人物が少すぎる。4人かそこらの内向きな人間関係の話では到底「全体」というものは描き出せないだろう。
ラストシーンの「箱男はあなただ」というセリフもそんなことは見る前からみんな分かってる訳でわざわざセリフにしてしまえば興ざめだ。「一喜一憂」どころか白けるって。
このように総評としては原作のネームバリューと奇抜さに頼っているだけの大失敗といっても過言ではない本作だが、では一体どうやって映画化すればよかったのだろうか?
個人的に思いついたアイデアとしてはもっと原作に忠実な形で「箱男殺人事件」を中核とした半オムニバス形式にすればよかったのではないかということだ。半独立した短編映画の中でミステリやアクション、官能などのようそが散りばめられる。そしてその中で同じ登場人物が「見ること/見られること」「記述すること/されること」の両義性が描かれる(描かれることを描く)ということだ。
如何せん、今のままでは中途半端すぎ、普通の映画過ぎるといったところだろう。
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