旅する練習 偶然の重なり
上野公園から千鳥ヶ淵を通って新宿に抜けた桜ざんまいの14キロウォークの果てに、本屋のハシゴをしました。
まずは紀伊国屋書店。そして西新宿のブックセンターへ。
何気なく店内を進む。あれとかこれとか適当に手に取っては戻しつつ、ふらふらと進んでいくと、目の前に芥川賞とか直木賞の候補作品やら作家やらが積まれている棚が突き出ていた。
ふーん、こういう本が今話題に上っていたのかあ、なんて軽く眺めて手に取ってみる。芥川賞候補作家の一冊。
パッと開いたそのページには見慣れた地名がずらずらと。
ん?ここ私の歩ってるところじゃん。
この作家は地元の人なのかな?やけに詳しい。
この時点で面白そうだからと購入を決めました。
中学校入学前の春休み。
コロナで卒業式もできなかった女の子と近所に住む叔父さんのロードムービーならぬロード小説。
私が毎朝ウォーキングをしているところ、ちょっと頑張って歩いた場所、休みの日に歩いたところが作家の言葉で生まれ変わったように浮かび上がってくる。
サッカーのプロになりたい女の子のサッカーの練習。
人気のない風景の描写を趣味&仕事としてる叔父さん。
旅の途中で大学を卒業して4月から内定が決まっている女子との出会い。
過去にこの地と関わった著名作家たちを引き合いに出しつつ、とても細かい描写で生き生きと花や鳥や魚を表現する。
毎日鳥のさえずりに耳を傾けているし、草木に触れている自分としては波長がぴたり。人気のない風景にばかりいる。
主人公の亜美(アビ)が願いを込めて真言を唱えるというのもなぜか波長が合う。
里山の風景、神社の描写も心地よい。
何より生きてる利根川の風景が素晴らしい。
その上なんと!旅の日程の1番大切な日が我が娘の誕生日と一緒だった!
という偶然の一致もあり。
よく見たら「三島由紀夫賞」を取っていた。途中まで読み進めてから気がついた💧
読む人それぞれに思い浮かべる情景が違ってくるのではないかと思いながら、iPadでグーグルマップを開きながら読み進めた。もうこの時点で近々本に登場した場所を歩いてみようと思いながら。
(ちなみに余談ですが、私は村上春樹を読むときは登場してくるジャズを聴きながら読みます)
168ページしかないそれほど厚くない本なのに、この本に含まれているエッセンスは凄い。
その中の一つのテーマとして「忍耐」という言葉が出てくるのですが、これが最後までじわーんと効いてくるんですねえ。
そう、人は本当に感動した時、溢れる感情を抑えてしまってつまらない言葉で表現しちゃったり。そんな忍耐??じわりじわりと効いてくる。
最初は少女の成長物語かと思ったんですが、そんな小さな枠組みで考えてしまった自分を恥ずかしいと思いました。
読みながら私には次々と色々な思いが浮かんできたのです。
早く亡くした母のこと
先日天に昇ったウィロビー(愛馬)のこと
未完了の数々
本の内容にはもう触れませんが、とにかく久しぶりに深い余韻を味わえる小説だったなあと思いました。
追記:アマゾンAudible会員であれば聴き放題に入っています。
音声で聞くといっそう頭の中に風景が広がるのではないでしょうか。