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ケバブを愛する君へ


白いフェルトのマレットのように

柔らかくてふわふわしている君は

人と目を合わせるのが苦手なのに

人ことばかり考えて

お皿に残った1粒のチョコレートを

他の誰かにゆずってしまう


人のことに興味がないくせに

人の視線を気にする君は

黒いジャケットの小さな埃が気になり

何度も鏡の前で 体の向きを変える


君の好きな赤い貨物列車を見ると

嬉しくて笑顔になる

イチ ニ サン シ ゴォ ロク … と

目の前を通りすぎる貨車を数える君も

目を輝かせて小さな手を振る君も

もう隣にいないけど


お兄ちゃん という言葉が

クモの糸のように

君に絡まっていたから

その糸を外したくて

君を君の名前で呼んだ


西日が差す部屋

机に向かう私の背中に 君は言った


オレモ スキナコトヲ ミツケタイ


一番伝えたかったことを

君が感じてくれたから

心が溶けていった


雪の日のコンサート

君が心のままに

体を揺らしてコンガを叩き

七色のスポットライトを浴び

スティックが跳ね返り宙を舞うほど

激しくドラムを叩き

穏やかな笑顔で

仲間と合図を交わす君を見た


モウキミハ スキナコトヲ ミツケタネ


ステージにいる君が

眩しくて

目を細めたら

滲んだ視界の真ん中で

アリガトウゴザイマス

君が深々とお辞儀をした

 


トーストを食べている君に

今日の予定は と聞くと

 ケバブ とポツリ言い

窓の外を見る

 ケンキュウシツ バイト ブカツ

 頭文字をとって

ケ バ ブ

そうか今日はケバブか、と

窓の外を見る

 


ケバブ


思い浮かぶのは

大きな肉の塊と 陽気な顔

豪華だね と

二人で笑う


季節外れの雪と 不機嫌な桜のつぼみが

別れを知らせる季節に

君の手からケバブが離れても


君がテーブルの端を軽く叩くと

その指先から新しい鼓動が生まれて

空想のフットペダルで

つま先がリズムを刻むとき

君の歩いた世界が 低く 優しく 響く


その音がつながる先には

居心地のいい場所があって

いつかそこに辿り着く


五線譜の外の 

君が輝ける世界へ


成人おめでとう


ケバブを愛する君 (長男 電王) へ

                 母より     
  
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