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自分だけの正解を持ち寄って|武道館/朝井リョウ

朝井リョウ著「武道館」を読了した。

私はアイドルなどをのめりこむように好きになったことがない。中高生のころ人並みにジャニーズは通ったが、それも2,3年のことで、学生だったのでお金もなく、それほどのめりこむこともなかった。
なので、アイドル論に徹したつんく♂の解説は新鮮だった。"推し"がいたことのない私にとっては、アイドル論とは別のところにテーマを見出したからである。

高校に通いながらアイドル活動をしている日高愛子を取り巻く物語は、正直言ってドラマチックな展開を見せない。愛子が幼なじみの大地が好きなこと、それがアイドルとしての破滅を招くこと、人気メンバーの碧がグループから離れていくこと、NEXT YOUの形が変わっていくこと。先の展開が気になってページをめくる手は紙面を滑るものの、息をのむようなドラマがあるわけではない。丁寧に伏線が張られ、過不足なく回収される。朝井リョウ氏はこのような形の作風もあるのか、と感嘆するとともにシンプルな展開がゆえに読みながら自分に向き合う余裕ができてしまい、かえってつらくなってしまった。

物語は、センターを務める人気メンバーの杏佳がグループを卒業する選択をした、というところから始まる。その後、紆余曲折ありながらもNEXT YOUは着実に人気を獲得し、グループは成長していく。愛子とメンバーそれぞれが、それぞれの「選択」を一つ一つ選びとって、その結果がグループの成長に収束していく。

月並みなことを言うが、人生は選択の連続である。どんな人も、多かれ少なかれ選択を繰り返しながら日々過ごしていることだろう。ただ、「選んでいる」と「選ばされている」の感覚はどうだろう。自分の人生における選択を、「選ばされている」ことだと感じている人は存外多いのではないかと思っている。
少なくとも、私は最近までそうだった。最近になって、その感覚から脱却するべく努力するようになった。

「選んでいる」と「選ばされている」の境目はとても難しい。自分のことに関する選択でも、そこにはあまりにも外乱が多すぎる。愛子は、碧は、NEXT YOUのメンバーとそれを取り巻く人間たちは、どうだっただろうか。

愛子とるりかの最後の会話のあと、愛子はいつかNEXT YOUのメンバーが「自分だけの正解を持ち寄って」再会することを、そっと願う。
いくら自分の外側に揺り動かされようと、「自分だけの正解」を見つけるしかないのだ。誰かや何かにゆだねる「選ばされている」ではなく、自分だけの選択を「選んでいく」生き方をしていこうと思った。



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