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【組織開発:事例紹介Vol.5】組織風土変革のためのピープルマネジメント強化〜コーチング型マネジメントの導入・定着へ(大手電機メーカーE社)
今回は大手電機メーカーE社Z事業部の組織風土変革プロジェクトです。近年、売上は横ばい、低収益体質が続き、伝統的なビジネスモデルとは一線を画すアプローチの実現が求められていたE社Z事業部。戦略の見直し、構造改革への着手と同時に、現場での実行力を高めるためにメンバー1人1人が主体的に行動していく組織風土づくりに向けた重点施策として、約2年の歳月をかけて1on1ミーティングを起点にしたマネジメント変革に取り組みました。
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1.ボトムアップ型の組織風土へのトップのコミットメント
Z事業部は長年E社を支える存在でしたが、近年は売上横ばい・低収益が続き、経営からも非常に厳しい視線を送られていました。戦略の見直し、構造改革に取り組む中で、エンゲージメント調査の結果が全社ワーストクラスとなり、マネジメント・組織風土の在り方の改善が求められていました。
事業部長・HRBPと対話を重ね、長年染み付いているトップダウンのリーダーシップ・スタイルが現場の主体性や自律的なアクションを大きく阻害している構造も明らかになっていきます。外部環境も大きく変化し、これまでのビジネスモデルでは変革の糸口が見えてこない中で、組織としてマネジメント変革の必要性を痛感していました。
そこで、これまで部分的に取り入れていたものの、属人化・形骸化していた1on1ミーティングを起点にコーチング型のマネジメント・スタイルへと大きく転換することを決意し、本プロジェクトがスタートしました。
2.ミドル個人の責任にしない、「学び直し」のマインドセットを整える
しかし、長年トップダウン文化で育ってきたマネジメント層ばかりです。1on1やコーチングの文脈で語られる、「部下の主体性を引き出す」「成長を支援する」といったメッセージは簡単に受け入れられません。「今までトップダウンで自分たちもマネジメントされてきたのに、なぜ責められなきゃいけないんだ」「まず上が変わるのが先だろ」が本音です。
そこでプロジェクト導入に際し、以下の方針とメッセージを明確に打ち出しました。
1つが統括部長→部長→課長と上位層からカスケードダウンで実施すること。主体性を引き出された経験の少ないミドルが、部下の主体性を引き出すことは相当難易度が高いです。まず上位層からの変化が不可欠であること、上位者から段階的に価値観の共有・浸透を行い、変化を連鎖させることを事業部長と合意することが出発点でした。そこで事業部長自身が1on1に取り組み、その上でプロジェクトを開始しました。結果的に約2年・対象者650名にも及ぶ取り組みとなりましたが、このコミットメントが「ミドル個人の育成」にとどまらず、「組織風土」の変革へとつながるポイントになりました。
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もう1つが「個人の問題にしない」こと。風土変革のご支援でよく聞くのが、「マネジメントに課題がある」「マネジメントスタイルを変える必要がある」「うちのミドルは●●が足りない」といった声です。しかし、そう言われると研修に参加するミドルは自分たちが責められていると感じ、素直に学び直すことができません。(直接的に伝えなくても、そういった意識は伝わっているものです。)しかし、それも1つの事実ですが、「マネジャー個人」が悪いというより、組織風土がマネジャーに「そうさせている」とも言えます。
Z事業部のエンゲージメント調査は社内ワーストクラスですが、単純にそれだけを捉えないことも重要です。他事業部と比較すると、そもそもヒエラルキー構造の強い業界でビジネスをしており、それが社内のトップダウン文化にも大きく影響しています。そこで、「皆さんや経営者が悪いのではなく、業界がそうなっているが故に、今こうなっている」とお伝えするだけで受け取り方が変わります。だからこそ、もっと頑張らないといけないということを全員で共通認識を持てると姿勢が大きく変わります。
ここで有効なのが、プロセスワーク・コーチングの「6象限モデル」です。リーダーやマネジメント層の支援でよく活用しますが、個人・組織・社会のそれぞれの象限から問題を捉え、個人は組織や社会の影響を受けていることを認知することで、問題に対する向き合い方が変わっていきます。本施策の出発点として非常に大きなインパクトがありました。
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3.学びとアクションの連鎖、風土変革のための実践型プログラム
そして各階層ごとに「1on1コーチング研修」を実施していきます。階層ごとにアレンジはしましたが、「計4回・6ヶ月」をプログラムの共通設計としました。
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最も大事な点は徹底的に「実践と振り返り」のプロセスを重視したことです。「わかる」ではなく「できる」、そして「続ける」まで行かなければ、風土変革まで辿りつきません。
実践の時間を確保できるようインターバル期間を意図的に長くし、各回の時間は3時間に抑え、振り返りセッションを複数回実施します。また、上位層が実践に取り組むことで、次の層が研修参加前に1on1の体験ができ、より丁寧に学びへのマインドセットが醸成されます。
では、そこからどのような変化が起きたのか。
統括部長・部長を中心にその変化の様子をお伝えしていきます。
4.なぜ1on1コーチングなのか、ミドル視点での納得感を醸成する
開始直後、統括部長は疑いの目線ばかりでした。「こんなことやって効果があるのか」「部下がちゃんとやるようになるのか」「チームが成長するのか」という声が溢れ、上から言われたから仕方なくやる、というスタンスです。
まずは「ロジックで腹落ちしたい」統括部長の関心に沿ってインプットをしていきます。そこで「創発的戦略」と「支援型リーダーシップ」の2つのモデルを活用しました。
VUCA時代には自分たちの成功モデルが通用しないこと、現場と経営の距離が遠く、これまでのトップダウンが通用しないこと、だからこそ、部下が見ていることや感じていることを引き出し、現場で柔軟かつスピード感を持って「創発的戦略」を生み出し、実行していく「支援型リーダーシップ」の必要性をお伝えしました。
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同時に、「部下育成のための1on1」ではなく、「組織の成果を出すための1on1」のメッセージも明確に伝えます。マネジメント層は常にビジネスと部下育成の板挟みです。「部下の支援」を強調しすぎると受け入れられない可能性もあります。その葛藤を理解し、チームを運営する難しさを語れるかが、納得感の鍵を握ります。
すると「めんどくさいけど必要なのか」という率直な声とともに、納得感が醸成されます。納得すれば、地力のある幹部クラスなので変化は早いです。本気で取り組んだところから次々と変化が現れていきます。
特徴的な反応の1つが、「承認のスキル」による変化です。実際に職場でやってみる人が何人か出てくると、「今までこんなことされたことも、したこともなかった」という反応と同時に、「肯定的なフィードバックを意識したら、明らかに相手の表情が変わった」「強みやできたことを褒めると自然と動き出してくれた」という体験がシェアされます。お互いに課題と感じていることは近いので、生々しいリアルな話が出てくると、納得感がさらに高まります。
また「1on1は苦手だが、会議で学んだことにチャレンジしてみた」など、自分なりに工夫した実践の声が出てきたことも興味深かったです。言われた通りにやる、ではなく、自由な発想でアレンジしてもいいと思うと、様々な実践が加速していきます。結果、「1on1」という枠組みに捉われず、組織内コミュニケーションの変化が加速していきました。
5.1on1の具体的な武器、4つのコアスキルと観察スキル
次に部長です。統括部長が本気でやってる部署には「良い噂」が流れています。統括部長-部長で1on1が半年実施されてるので、部下の立場で価値を実感できている人が出てきているので、事前のマインドセットも大きく変わってきます。
一方で、これまで効果的にコミュニケーションを取る方法を教えてもらってなかったので、「1on1の重要性はわかっている」けれど「どういうやり方をすればいいのかがわからない」というのが当時の部長の課題意識でした。
そこで、部長向けには「4つのコアスキル」と「4つの観察スキル」をインストールすること、その実践に重点的に取り組みました。
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具体的な武器を渡すことで、チャレンジのハードルが下がり、良い事例がたくさん出てきます。部長でインパクトが大きかったのが「傾聴」のスキルです。
実際に以下のような声が出てきました。
「今まで私が思っていたチームや個人の課題と違う話が聞けるようになった。自分が一部分、一方向からしか見れていなかったことに気づけたし、部下の本音を聞けると、課題設定そのものが変わる。チームの成果を出すためにも、部下の本音がわからないとうまくいかない。」
「今までは自分から聞かないとなかなか出てこなかったのですが、部下から相談してくれるようになりました。自ら相談してくれるようになると、私も楽だし、助かりますね。1on1でしっかり傾聴をすると、結果的に生産性も高まっている感じがします。」
もちろん全員がすぐに変化するわけではないですが、部長層向けの「振り返りセッション」はファシリテーターがリードせずとも、自然とナレッジシェアによる学び合いが促進されていきました。まさに組織風土がシフトしていくプロセスそのものであったように感じます。
6.「学び」が人事から離れた時に、ラーニングカルチャーが立ち現れる
最後は課長層です。ここまでくると、1on1をするのが当たり前になり、変化が加速していきます。ここでは組織・部門単位でも成果が現れ、ナレッジが蓄積・展開されていきます。
特に印象的だったのが、最もエンゲージメントが低く、管理型マネジメントが強かった工場から「●●工場が元気だぞ」「自律的に1on1の改善が始まったぞ」という声が聞こえてきたことです。また開発部門では、コアメンバーが集まり、独自の1on1プログラムを実施し、与えられた研修ではなく、部門内で係長をサポートする取り組みをするようになっていました。そして、その動きが他部門にも伝播していきました。
今回それが何よりの成果であったと感じます。「研修」は人事や経営がコミットしたら「実施」されます。しかし、「実践」されるかは参加者の皆さん次第です。さらに持続的な改善を自分たちで企画・実行できるようになってこそ、組織風土として根付いていくものと思います。まさにこれが「ラーニングカルチャー」です。
今回は2年間という長期間の取り組みとなりましたが、まさにVUCA時代に柔軟に変化し続けられる組織へと進化する最初の一歩になったのではないかと感じます。ここからが本番ですが、今回のプロジェクトがZ事業部、そして、E社の未来にとって、重要なターニングポイントになることを願っています。
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