「昭和街場のはやり歌」昭和の実相を問う!
「昭和街場のはやり歌・戦後日本の希みと躓きと祈りと災いと」前田和男著・彩流社2023年8月発行
著者は1947年生まれ、日本読書新聞編集部を経て、ノンフィクション作家、翻訳、路上観察学会事務局、パルシステム生協連合会編集長。「男はなぜ化粧をしたがるか」集英社新書、「選挙参謀」太田出版の著書がある。
著者は団塊世代の生まれ、戦後日本の「はやり歌」は「今日より明るい明日が来る」と思わせるチアアップソング。団塊世代はまんまとそれに乗せられ、無邪気に育った。
半世紀が過ぎ、「なんでこんな日本になってしまったのか?これから日本はどうなる?」危惧と不安が募る。人は団塊世代、お前たちのせいだという。
著者は「はやり歌」に戦後日本の底に潜む真相を探る。本書は「昭和とはいかなる時代だったのか?」を問う本である。
赤坂小梅の「炭坑節」は、GHQが戦後復興の狼煙として、プロパガンダソングとして、国民歌謡向けへプロデュースした歌である。炭坑節は日本のフォークダンスとして盆踊りで歌われるようになった。
炭坑記録文学者・上野英信は言う。炭坑節の元歌は「エッタ節」と呼ばれた。「炭坑節は差別された労働者、地底で押し潰される炭坑婦・おなごのうめきの声の歌である」と。戦後、石炭増産を唱える政府とは対極にある視点である。
私たちは隠され、消されてしまったものに、目を向け、耳を傾けなければならない。2011年3.11フクシマ原発事故処理に当たる底辺の労働者の姿と重なる。真相を知ると、今までのように気軽に盆踊りで炭坑節を踊れない。
江利チエミ愛の歌「テネシーワルツ」が高倉健の映画「鉄道員」に挿入歌に使われた経過も面白い。相思相愛夫婦も、チエミは親族の借金のため、高倉健に迷惑かけると離婚した。
旧国鉄の人員整理、合理化反対の順法闘争、空知炭鉱の人員整理の嵐の中で、志村けんが演じるスト破り臨時抗夫と首切りに遇う本抗夫との内輪喧嘩後のシーンで、志村けんが歌う「圭子の夢は夜ひらく」の歌がわびしい。志村けんは筑豊炭鉱で首切りに合い、空知に流れて来た抗夫の役である。
戦争に負け、戦後日本を引っぱって来たD51、C57蒸気機関車に憧れ、鉄道員になった「ぽっぽや」を演じる高倉健。鉄道も炭鉱も消え、石油エネルギーにとって変わられる時代への恨み節、恨みの歌でもある。
コロンビアローズ「東京のバスガール」、井沢八郎「あゝ上野駅」、フォーク・クルセダーズ「イムジン河」、高倉健「唐獅子牡丹」などその時代の背景と著者の個人的経験を混ざり合わせて、経済成長の昭和を語る。歌謡曲によって昭和の時代を顧みるに良い本である。