「初めてのマルクス」佐藤優・鎌倉孝夫
「はじめてのマルクス」佐藤優・鎌倉孝夫著・㈱金曜日2013年12月発行
本書は、週刊金曜日に多くの記事を投稿する作家・佐藤優とマルクス経済学者で宇野理論研究者・鎌倉孝夫の対談集である。題名「はじめてのマルクス」とあるが、内容はかなり高度、資本論をかなり勉強した者でないと二人の議論についていけない。
佐藤優は1960年生まれ、国家主義的発言が多く批判もあるが、その読書量とプロテスタント神学からの批評には定評がある。
鎌倉孝夫は1934年生まれ、宇野弘蔵の三段階論(原理論・段階論・現状分析)宇野理論を進展させ、歴史展開の論理重視の形態論、純粋資本主義モデル理論の純化を図り、国家資本主義原理論を構築した。
宇野理論の特徴はイデオロギーと科学を完全に分離させ、マルクス経済学原理論の純化を目指した。つまり資本論における資本、労働、地代の循環理論から資本家、労働者、地主層の階級社会への展開、生産力過程を理論化し、労働の商品化によって生まれる資本主義の根源的矛盾を明らかにした点である。
それゆえ宇野弘蔵は従来のマルクス経済学を「マルクス主義経済学」と批判し、いわゆる労農派、講座派の対立を止揚しようとした。その対立は段階論での問題で、マルクスの資本論での資本主義原理論には影響しない。レーニンの「帝国主義論」も一つの段階論であると断定する。
本書のポイントは次の三つに集約される。
①「労働力の商品化」が資本主義の本質であり、このことが資本運動の中で最終的に人間の命を奪うことになる。ここに資本主義の本源的矛盾が存在する。
②株式は擬制資本であり、現実資本(産業資本・商業資本)の最高形態である。それゆえ株式自体が利潤・配当を生むと考えるのはまやかしである。企業体は単なる共同体ではなく、資本運動の具現化である。
③イデオロギーとは現実社会で当たり前だと思うこと、普遍的だと考える思考形態である。ゆえにイデオロギーから脱却しない限り、現実社会を客観的に観察、分析することはできない。
佐藤優は若いころ社会主義青年同盟に加盟し、鎌倉孝夫の資本論勉強会に参加していた。その当時の資本論の知識がその後に神学を勉強する契機となったという。
両人による新左翼批判が興味深い。新左翼は観念に支配され、現実社会を客観的に判断できない。ゆえに独自性確保のために内ゲバなどの内部抗争に集中する。イデオロギー排除の理論家らしい二人である。