「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」野口悠紀雄著
「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」野口悠紀男著・幻冬舎新書2024年8月発行
著者は1940年生まれ、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。
2023年米国の一人当たりGDPは7.8万ドル、日本は3.5万ドル、約2.2倍である。米国はIT産業中心に技術革新が進み、日本は長期間金融緩和で、生産性は低下している。ゆえに日米の給与格差はこれ以上に大きい。
時価総額世界ランキング100社のうち、米国は61社、日本はトヨタの1社のみ。米国のマイクロソフト、アップル2社の時価総額と東証プライム市場全体の時価総額とほぼ等しい。
コロナワクチン開発も米国製薬会社は短期間で開発、製品化した。審査システム、財政支援の違いはあるにしても、基礎研究、AI技術の進歩に格段の差がある。この原因は何によるものか?
原因は、米国の異質なものへの寛容さと多様性にあるという。現在、米国大統領選の争点は「不法移民の増加」である。米国は世界最大の移民大国、昔より移民に寛容な国である。
米国の移民の割合は2019年総人口に対して14%。しかしフォーチュン500企業のうち、移民が創設した企業は101社、移民2世が立ち上げた企業は122社、全体の1/3以上を占める。
多様性を尊重し、異質なものを排除しない国のあり方が労働人口を増加させ、経済成長を持続させる。中国が米国をGDPで抜くと予想されたが、その可能性は低下している。
エドワード・ギボン「ローマ帝国衰亡史」は、ローマの偉大さは征服の迅速さでなく、属州の統治の成功。住民のための善政、住民の生活水準向上を図ったため、住民は従属を受け入れた。即ち寛容である。そして衰退は排他的感情の拡大、寛容の喪失の結果であった。
ソビエト崩壊もスターリン主義による排他的政策の結果である。資本主義が民主主義と親和性を持つのも、多様性の容認にその理由がある。
英国がEUから脱退しても世界の金融の中心にいるのは、自国の金融機関より他国の金融機関に場所を貸す「場所貸し」の結果である。
米国も研究活動の「場所貸し」を優先的に実行する。結果、世界の知能が米国に集まる。ノーベル賞受賞者を見れば、歴然である。多様性と寛容の結果である。
しかし大統領候補トランプは強いアメリカを主張しながら、排他的、内向き政策を打ち出す。国内の雇用を重視するあまりに、結果的に米国の弱体化を招くことになるかもしれない。