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預金保険機構大阪業務部長の回顧録・ヤクザと金融機関

「ヤクザと金融機関」海堂進著・朝日新聞社出版2022年10月発行

著者は日銀入行、考査局、預金保険機構預金保険部次長を経て、預金保険機構大阪業務部長を経験した日銀キャリア職員である。名前はペンネームで本名は明らかにしない。

バブル崩壊後、太平洋銀行(元・第一相互銀行)が最上興産・早坂太吉らの不正融資による破たん直前の1995年、著者は同行の日銀考査を担当した。

総融資量の2割が反社勢力に対する不良融資だった。同行は従前より経営内部の対立があり、金融機関としての倫理観は失われていた。

東の太平洋銀行、西の阪和銀行と呼ばれ、両行とも反社勢力との関係が問われる銀行。1993年8月には阪和銀行副頭取射殺事件が発生した。当時は、1991年の尾上縫による東洋信金が架空預金証書事件で破綻したときである。

1997年5月、総会屋・小池隆一が「一勧不正融資事件」で逮捕された。証券会社損失補填問題、地上げ等で反社勢力が表舞台に出て来た時代である。

著者は、2007年、預金保険機構大阪業務部長に就任した。大阪業務部は県警、国税、検察、裁判官、財務局等の出向者で構成され、整理回収機構と協力、破綻金融機関の保有の不良債権の回収に努めた。

預金保険機構は1971年設立、預金保険法による認可法人である。預金保険の提供、預金者等の保護と信用秩序の維持を主な目的とする。

1999年、住金債権管理機構と整理回収銀行が合併して、整理回収機構(RCC)が生まれた。RCCは預金保険機構100%出資子会社である。

「ヤクザと金融機関」の書名から、「金融機関のと反社勢力との結びつきがなぜ生まれたのか?」その問題点、解決策が記されていると思い、手に取った。

結論を言うと「拍子抜け」である。日銀キャリアの上から目線の回顧録でしかない。

最後は休眠預金等活用法成立の自慢話で終わっている。大阪業務部の回収案件の事例を示すも、職員に秘密保持もあり、中途半端な説明で、現実感はない。

著者は2008年議員立法の振り込め詐欺救済法を取り上げる。成果として2021年まで13年間に振込詐欺被害者への返還金確保額は76億円と言う。話題のフイリッピンの特殊詐欺1グループの被害額は60億円以上と言う。被害額に対しその返還金確保の少なさに驚く。

2019年4月講談社発行の清武英利著「トッカイ・バブルの怪人を追いつめた男」の方がずっと中身が濃い。反社勢力の実態と回収部隊の戦いが現場にいるような感覚で描かれる。

同書は2020年10月、文庫化「トッカイ(不良債権特別回収部)」として発売された。6兆4000億円にのぼる巨額の不良債権を回収すべく奮闘する整理回収機構の姿を描いたノンフィクションである。

一方、本書は日銀キャリア管理職の手による平凡な回顧録、期待外れ、読む必要も無かった。読むなら清武英利の本を読むべきだろう。

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