「それでもなぜ、トランプは支持されるのか?」会田弘継著
「それでもなぜ、トランプは支持されるのか・アメリカ地殻変動の思想史」会田弘継著・東洋経済新報社2024年7月発行
著者は1951年生まれ、共同通信社ワシントン支局長、論説委員長歴任。現在、青山学院大学教授、関西大学客員教授。ジャーナリスト、思想家「トランプ現象とアメリカ保守思想」などの著書がある。
著者は「トランプは病因ではない、病状なのだ」と言う。原因でなく、結果である。トランプ現象は現在のアメリカ白人社会が持つ格差社会と階級社会の病いに大きな原因がある。アメリカは経営エリートと中間層・下層階級との階級闘争のド真ん中にある。
トランプ支持者は陰謀論に騙されていると人は言う。決してそんな状況ではない。1789年7月、バスティーユ監獄陥落の報を聞いた国王ルイ十六世は言った。「それは反乱か?」国王の側近は答えた。「いいえ、陛下、革命です!」
米国のトランプ現象は新自由主義と合理的民主主義に対する一種の「革命」である。革命は理由もなく、始まったのではない。当然、革命には理由がある。
その理由とは、新自由主義とグローバル経済が中間層を下層階級に転落させ、製造業労働者に対する暴力的な破壊の怒りが限界に達した。それは「革命」と言うべきである。日本も含めて世界はまだそれに気づいていない。
「ゴジラはなぜ撃退されても、何度も日本に戻って来るのか?」それは南太平洋で「無念の死を遂げた日本兵士の亡霊」だからと言う。
著者は、トランプ現象はゴジラと同じく、アメリカ白人の低学歴(大学中退、高卒以下)労働者層の高学歴(大卒、大学院卒)エリート層支配に対する「怒り」の発現であると言う。故にトランプ現象はどんな暴言、失敗があっても続き、何度も生まれる。
本書は、トランプ現象の背景にはバーナム(1905年~1987年)の著書「経営者革命」の思想があると言う。バーナムは、資本主義世界はテクノラートが支配する帝国となると主張した。
トランプのポピュリズムはこのテクノラートのエリート支配に対して、米国の民衆が抱く不満、不安が爆発したものと言う。「バーナムの経営者革命」は65歳以上高齢者には懐かしい名前である。
民主党は、クリントン大統領以降、IT、金融業界を始めとする非製造業中心の「大企業のための政党」になった。反対に共和党は、製造業中心の疎外された「労働者のための党」へ移行の途中にある。
共和党は、市場万能主義的なレーガン主義、ネオコン的保守主義、エスタリッシュメントの現実主義などの勢力が排除され、ナショナリズム的ポピュリスト(国民保守主義)に乗っ取られつつある。
本書は、米国保守思想の変化を追い、現在、大きな変動期にあると言う。従来の「アメリカニズム」が米国の衰退、世界の多極化、グローバル経済化によって転換期に来ている。
米国建国当時の孤立主義、アメリカ国益第一の内向きの国民保守主義が台頭している。それとトランプ現象とが結合しつつあるのだ。それは階級闘争と格差社会への反発である。
「アメリカンドリーム」はすでに消滅し、経済格差拡大で米国に階級社会が出現した。世帯資産は、上位10%が全世帯資産の70%近くを占有する。下位50%の世帯資産は、全世帯資産のたったの2.6%を占めるだけ。米国格差社会の現実である。
米国は、ニューディールからニクソン大統領まで「大きな政府」の40年間だった。1980年代レーガン大統領の「小さな政府」が始まり、民主党オバマ大統領まで保守優位の「小さな政府路線」に押され続けた。その結果が階級闘争と経済格差の拡大である。
今、トランプ現象とコロナによって、保守変革の大変動が米国で起きつつあることを知るべきかもしれない。