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中央銀行のあり方「日本銀行・我が国に迫る危機」

「日本銀行・我が国に迫る危機」河村小百合著・講談社新書2023年3月発行

著者は1965年生まれ、日銀を経て、現在、日本総合研究所主席研究員である。

2023年4月、日銀総裁が10年間異次元緩和を続けた黒田東彦氏から植田和男氏に交代した。本書は、黒田氏の金融政策に対する徹底した批判の書である。

最近、ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川氏の性加害問題が大きくニュースになった。この事件は20年前から疑惑があったにも関わらず、メディア、関係者は事務所への忖度で口に出せなかったと言われる。

黒田金融政策も疑問を持ちながら、メディア、エコノミストは正面から報道、批判をして来なかった。その意味で、二つの問題は似ている。

日本の金融政策は量的緩和の質的変化によって、金利操作の金融政策から財政操作の金融政策に変質した。異次元の国債、ETFの購入による資金供給で日銀のバランスシートは異常に拡大した。

日銀の国債保有残高は、2012年705兆円、2020年947兆円、8年間で240兆円増加した。ETF残高は、2013年1.5兆円が2023年には37兆円まで増加した。

大量の資金供給を実施したにも関わらず、2年で物価2%上昇、デフレ脱却の政策目標は未達である。物価上昇、デフレ終了はウクライナ危機後の円安、資源価格上昇の結果で黒田政策の効果ではない。

その間の株価上昇は、量的緩和による株価バブル、資産バブルであり、過去にも何回も経験している。むしろマイナス金利、YCCによる財政運営の行き詰まりが問題視されている。

日銀の出口戦略は困難を極める。中央大学藤木裕教授は、当座預金付利費用増加で、正常化開始後3年後には、9.6兆円の単年度損失を計上する。債務超は必至で、黒字化には20年以上、債務超解消には100年以上要すると言う。

長期間の超低金利、実質的な財政ファイナンスで、潜在成長率は低下し、財政は硬直化し、金利引き上げもできない状態となっている。

国債発行残高の半分を日銀が保有する異常事態に、債券市場のメカニズムも麻痺し、企業もゼロ近くの低金利でなくば、生きられない状態にある。これではイノベーションが生まれる余地も無い。

欧米中央銀行はインフレ対策で金利引き上げを実施、リーマン以来の量的緩和の出口戦略を準備している。副作用の金融危機で戸惑っている。

本書の核心は、日銀と米国Fed、英国BOE、欧州ECDの各国中央銀行の緩和政策、考え方の違い、比較を詳細に述べている。まさに圧巻である。この箇所を読むだけでも価値がある。

世界経済はスタグフレーションの危機に直面している。日銀は2%の物価上昇はまだ先と言うが、財政危機回避のための低金利を余儀無くされている。

グローバリゼーションの行き詰まりは、世界をブロック化させ、分断、対立を激化させる。各国の経済成長率は低下せざるを得ない。そして今までの異常な量的緩和は金融システムを不安定化する。

日本の国際競争力は、長期の金融緩和で体力は大幅に低下した。財政運営の行き詰まりから、インフレに対する財政支援、金融政策も限定的である。スタグフレーションはまさに目の前に来ている。

1年8カ月ぶりに株価が3万円を超えたとニュースに出た。相場を見て、本質を見ずに、歓喜する。バブルの教訓が役立っていない。歴史は繰り返す。

本書が新書のベストセラーと言う。多くのエコノミストは技術論、各論を種々主張する。いまこそ全体を、本質へ目を向けるべきである。


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