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漂流
どういう話の流れだったか、今日、友人といるときに、すごくひさしぶりに、むかしの自分の文章を読んだ。懐かしさを感じながらも、ただ無我夢中に想いをしたためている自分はとうに別人に感じて、わたしから生まれた言葉は、気づけばわたしからずっとはなれた場所に居てただじっとそこに、わたしの生きていた証を静かに示し続けていた。ちゃんとそこに見えているのに、それはもう過去の光だから、今もそこに在るのかどうかわからない星のようで、まだ消えていないでいて、消えてしまわないで、と、読みながら、すこし泣いてしまった。
わたし、生きていたなぁ、と、そのときのわたしの言葉が感情をのせてひりひりとこころに迫ってきて、時間の経った火傷のように、今までなんとも感じなかったのに触れると鈍く痛んだ。
生きる、がなにかを再解釈した。瞬間を、硝子の小瓶に封じ込めておくこと。それを忘れた頃に見つけること。
なにをどう掴んで引っ張ってわたしはいままで自分の声を聞いていたのか、わからなくなっていて、薄々感じていたけど見ないようにしていた臆病に、恐る恐る目をやる。わたしこわいんだ。急に大勢の人の目にさらされること、誰が何をどう思っているのか、言葉にしたら瞬時にわかってしまう同じ場所でわたしがなにかを言葉にすることがこわくて、もし何かを言って嫌われるくらいなら、誰からもなんとも思われないくらい影の薄い存在になろうとさえ思った。
なにをするにも誰かに見られること、がまず最初に頭によぎって、何度も文章を消していくうちに、なにも書けなくなって、このままじゃわたしのこころはだんまりを決めてしまいそうだったから、自分とのひみつのつもりで、だれにも見せないから、思ってることぜんぶぶちまけようと、文章を書き始めた。ぽつぽつ、そうしたら、今まで殺していた分の涙が、言葉とともに溢れてきた。
いつか、わたしが並べた写真と言葉の数は300を超えていたのに、見栄えのいいものだけをすこし残して、あとはもう隠してしまった。それを、ひとつ一つ見返していたら、色の見え方も、言葉づかいも、いまの自分とまるっきり違っていて、ちゃんと大切にしようと、すこしだけ元の場所に戻しておいた。わたしはずっと、誰にも届かないような小さな声で叫んでいて、誰かに必死に伝えてるようで、この言葉はぜんぶ、わたしがわたしに言いたかったんだ。
わたしがどんなに踏ん張って立っていようと、時間の波に押されて、いまの場所からはどんどん遠ざかってゆく。移り変わる景色を書き留めなくちゃ、撮らなくちゃ、描かなくちゃ、なんとかしなくちゃ、わたしもうこの気持ちも、目にしたものも、ぜんぶ忘れてしまうよ。だから、久々に瓶を取り出している。このままでは硝子の小瓶の、硝子さえ溶けて、いよいよなにも仕舞い込めなくなりそうだったから。
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