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読書の日記#4 『アーモンド』

今回のヘッダはCanvaで自分で作成してみた。悪くないと思っている。

今回の作品はこちら。
ソン・ウォンピョン、矢島暁子(訳)『アーモンド』 祥伝社(2019)

おととい黒沢清監督の『Cloud』を観に映画館に行き、最後の数十ページはその上映前に読んだ。
TOHOシネマズだったのだけれど、始まる前にある、幕間という劇場情報を女優さんが案内するコーナーが少し好き。早めに入ったときに見れると嬉しい。でもその後の照明がやや落ちてからの作品紹介はいつも憂鬱だ。特に邦画は観たくもない作品ばかり並ぶことが多いし。まあ今回は集中力を向ける先があったので助かった。

本作品が2020年に本屋大賞を取ったころに、日本でも韓国文学がひとつのジャンルとして広く認知されるようになったのだと思う。
普段口には出さないけど、世間で韓国文学が流行る前に自分でその面白さを発見したことはちょっと自慢。大学で観た韓国映画や、HYUKOHというバンドをきっかけに小説も読んでみようと思った。はじめて手に取ったのは、チョン・セランの『アンダー、サンダー、テンダー 』だった。
だから本作にも興味はあったのだけれど、しかし流行った作品を今更手に取るのもな…というあまのじゃくを発動してはスルーしていた。
それが文庫版が出ているのを見て、ようやく手に取ったという形だ。

物語の主人公ユンジェは、情動を司る偏桃体(アーモンドのような形らしい)が生まれつき小さい。そのため感情に乏しく周りから浮いてしまう。そんな彼の、母や祖母という家族や、ゴニ、ドラという同級生たちとの交流を通じて見える世界が描かれている。
ユンジェへのいじめや同調圧力、息子ゴニへの父親からの暴力、不景気によるリストラ。韓国の小説では社会や家庭環境での苦しみがうかがい知れることが多い。日本の状況とも似ているように思える点も多々あり、共感を呼んでいるのもうなずける。

ユンジェと彼にちょっかいを出すゴニが事件に巻き込まれ、結末を迎えるのだけれど落ち着くべきところに落ち着いた感じ。例えばそれ以上に悲しい結末だったらやるせなかったと思う。
彼らの成長が主題だけれど、それより感情が希薄ながら人と真摯に向き合っているユンジェの姿勢が印象に残った。怪我をした人の痛みを想像したりすることはできないけれど、ちゃんと助けを呼ぶことはする。人を外面で判断しない、率直に言葉を伝えるということは感情とは関係ないという事実にはっとした。
あとは、「あんたは、いい子だよ。それに平凡。でもやっぱり特別な子。あんたはそういう子だと思う」(p.218)というゴニからユンジェへのメッセージがとてもよかった。

2024/10/8


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