書評 月まで三キロ そうじゃない方のSF
五十路のおじさん、ばっどです。
月まで三キロ
伊予原新
科学的な要素を織り込んだお話の短編集。
タイトルの「月まで三キロ」は、筆者がツーリングでしばしば訪れる北遠は船明ダムから少し北上したところにある、有名な道路案内表示が由来。
予備知識なし初読の著者ですが、これがどうオハナシになるのか、メルヘン?
文庫なんで気安く手に取ることができたのですが、個人的には大ヒット作でした。
どのお話も、どちらかと言えばビター系、せつない系。
良い評し方がわからんのですが、絶妙な味付けなんですよ。これが。
ハッピーエンドでもないが、光はある。
来し方はアレだけど、これからは良さそう。
その按配が絶妙。
まず、お話としてのクオリティがなければ工夫もなにも生きてきません。
そのうえで効かされるスパイスは、科学。
これが実に自然に、しかも巧みに取り込まれていて非常に読ませます。
タイトルストーリーも良いですが、「星六花」、「天王寺ハイエイタス」の二編がお気に入り。
後者は聞いたこともないハイエイタスなどという言葉・概念を使い、境遇が極端に異なる(格差という意味でなく)兄弟が、叔父である老ブルースマンの人生の空白を解き明かすという変な話でありながら、物凄く(いい意味で)普通のイイお話に仕上がってます。
読んだ結果ハイエイタスが何なのかということまで自然にわかってしまい、著者の筆力が窺い知れる一遍になっています。
SFといえば一般的には空想科学小説と訳されますが、こちらは科学が現実超えない範囲で要素に織り込まれたストーリーという意味で、「そうじゃない方のSF」と言っても良いんじゃなかろうかと思います。
「宙わたる教室」、まだ読んでないし、ドラマになってたなんて知らなんだ。
こっちの話も映像化してくんないですかね。
天王寺ハイエイタスなんて、「キセキ」桃李君と菅田将暉、小林薫の組み合わせでどうかと思うんですが。。。