クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #93〜レオ・ブレッヒ/ベルリン・シュターツカペレ モーツァルト 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』&『魔笛』序曲(1926)
レオ・ブレッヒ、再び
ドイツの指揮者、レオ・ブレッヒ(Leo Blech, 1871年4月21日 アーヘン - 1958年8月25日 ベルリン)については、彼が残したワーグナーの78rpmと共に先日綴ったばかりだ。
ユダヤ系でありながら、時のナチス政権下、ナチスに顔の効く指揮者であったハインツ・ティーチェンの配慮により、ナチスNo.2でベルリン国立歌劇場を統括していたヘルマン・ゲーリングの何らかの狙い(それが何だったかは諸説あるが)により、1937年までベルリンでの活動が許されていたブレッヒ。
そんな彼が、恐らく1926年、既に音楽総監督の座はエーリヒ・クライバーに譲ってはいたものの、相変わらず深い関係にあったベルリン国立歌劇場のオーケストラ(ベルリン・シュターツカペレ)を指揮して録音したモーツァルトのオペラ2作品、『ドン・ジョヴァンニ』と『魔笛』の序曲、10inch78rpm(フランス・グラモフォン)をクレデンザ蓄音機で。
【ターンテーブル動画】
1926年と言えば、78rpmの電気的録音(マイク録音)が始まったばかり。
それまでのアコースティック録音(ラッパ吹き込み)では、限界のあったオーケストラ録音も可能になってきたまさにその時期。
ベルリンのオペラの殿堂で、ワーグナー、R.シュトラウスと共に3大レパートリーであったモーツァルトを。
バレンボイム~マゼール〜ドン・ジョヴァンニ〜ベルリン国立歌劇場〜ブレッヒ
何故、間隔を空けないでブレッヒの78rpmを取り上げたか?についてはちょっとした理由がある。
昨日あたりから私のようなクラシック音楽ファンの間のツィートで、ザルツブルク音楽祭に登場した指揮者、ダニエル・バレンボイムのステージ上での傲慢と思われる所作について、そしてそこから発展して彼のキャラクターと作る音楽について、色々な意見が飛び交っている。
かく言う私もカミングアウトしてしまった。
私はこの40年以上の間、彼の作る音楽を全く好まず、それとは区別してもその尊大な態度についても冷ややかに眺めていた。
評論家や音楽ライター、ジャーナリストでドイツに留学や滞在経験のある最近の比較的若手の間では、ベルリン国立歌劇場現音楽総監督であるバレンボイム手腕を高く評価する人が多い。
現地の空気な中でしか分からないこともあろうが、それにしても絶賛に次ぐ絶賛は「眉唾物」と見ていた方がいいのでは?というのが私の偽らざる思いである。
彼はフルトヴェングラーの信望者として知られ、その音楽も今風とは言い難い「重い」音楽を志向しているように聴こえる。
その重さに「意味」があればそれは全く構わないのだが、「意味がある」とは到底思えない。
コケ脅しの、上辺だけの脅迫の音楽に聴こえる、私には・・・。
「尊大そうな態度」ということで、バレンボイムより少し年長の故ロリン・マゼールのことを何となく思い出した。
彼も性格的にはいろいろありそうであったことは承知の上、それと彼の作る音楽は全く別物、いやむしろマゼールの場合、そんな一癖も二癖もありそうな厄介そうな性格が、むしろ彼の作り上げる「複眼的音楽」に通じているような気がしてならなかった。
バレンボイムとは全く異なるマエストロだ。
そんな決して善人ではなさそうなマゼールが作り上げた傑作のひとつが、これも一筋縄ではないストーリーと主人公を持ち、モーツァルトの音楽の中で最も複雑で思想的な様相を見せる『ドン・ジョヴァンニ』であることを思い出した。
ベルリン国立歌劇場&『ドン・ジョヴァンニ』、という連想で、ブレッヒのモーツァルト序曲2題に興じてみよう、という趣向、ということだ。