三十代、郊外マンション、桃源郷はいづくにか。
どんな暮らしも、三年で飽きる。
引っ越しを思い立つ。
今の家もだんだん手狭になってきた。今後のことも考えて、近場で広い家を探そう。
これだという物件を見つけて、固定費を計算する。絶望する。
ここまで、わずか三分。
現実は厳しい。
都心で貧乏生活か、さもなくば郊外。
郊外で、暮らす。
当時、都心に住んでいた私がまず真っ先に思い浮かべたのは、デカい書店や美術館まで遠くなるなぁ、ということだった。
実にのんきなものである。
ちなみに、次に思い浮かべたのは、たとえ郊外で暮らすにしても節約しないとなぁ、ということ。
いま振り返っても、我ながらいろいろと厳しいものがある。
ま、どうにかなるだろう。
そんなこんなで、郊外マンション暮らしも、早三年。
年齢とともに、生活にも慣れていった感は否めない。
◆ ◆ ◆
三十代の悲哀は、独特のものがある。
一言でいうと、二十代の頃に楽しめていたことが全く楽しめなくなる。
酒、タバコ、二次会、カラオケ、食べ放題。無理乃介。
たとえて言うなら、日々の晩酌が黒豆茶に替わる世界線(実話)。
かなしいことに、駅で展覧会や演奏会のポスターを見ても、以前ほどワクワクしない。よっしゃ行こう、という気持ちになれない。そもそも、都心に出かけることさえ億劫になってくる。
こんなことをいうと身もふたもないが、郊外だからこそのクルマ、自転車、大小さまざまの公園も、実に三年でことごとく飽きる。
ここまで来ると、もうどうしようもない。
春夏秋冬、同じ景色がまた巡る。
初夏、水田は一面の青。
秋の夕暮れ、稲田は金色。
冬の朝、田んぼの土は黒々と、いとしめやかなる。
桜の頃には田も打たれ、雨にも打たれては、雨後の水は空色。
桃花流水、晴耕雨読。
動画見ずに、本を読め。