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マラソン大好き幽霊2025【ショートショート】
⭐毎年恒例、「一年に一話更新される連載型ショートショート」である『マラソン大好き幽霊2025』が今年もやってきました。
⭐今年もコメディ色全開です。笑っていきましょう!
⭐これまでのお話(第一話~第三話)は最下部のリンクからどうぞ。
俺は浩平……おっと、俊也だ。
毎年毎年マラソン大会の時期になると、俺の事を浩平と呼ぶ幽霊に毒され、とうとう自己紹介で偽名を発することが度々起こるようになったのが最近の困りごとだ。
去年はマラソン大会当日にインフルで寝込んでいた俺を幽霊が貞子方式で拉致し、俺をおぶってゴールするという少年漫画でも最近では中々見ないアツイ展開で終わったが、何だかんだで毎年競い合う幽霊と俺は共に認め合うライバルだ。
今年の大会に臨むにあたり俺はインフル予防接種も受けた!
また幽霊が走行中に笑かしてくるかもしれない対策として、「空耳が過ぎるサッカー解説動画」も半年前から観まくって鍛えている。
それもこれも、血まみれ姿で語尾に「(*‘ω‘ *)」を付けてヘラヘラと喋る憎い幽霊との勝負のためだ!
いや憎いわけじゃないか、ライバルだから。
でも去年は拉致られたからやっぱり憎んでいいんだっけ?
まあいいや。
俺はとっておきの「勝負ジャージ」を身に纏い、颯爽と会場へ向かった。
会場へ着くと、参加者や大会関係者、応援に来た者たちがざわついていた。
あ~あ、どうせまたあの幽霊が受付で揉めてるんだろ……。
ここはライバルである俺が行って、場を治めてやらなきゃな(フッ)。
悠々と受付に向かった俺は、驚愕の光景を目にした。
別の知らん幽霊、いるーー!!!
え。なにこれ。
いつからこの大会は幽霊の穴場スポットみたいになったんですか??
アイツと同じくコイツも血まみれだが、なんかコイツ……クールだ!
アイツみたいな「るんるん(*‘ω‘ *)♪」さがコイツには無い!!
佇まいがしっとりしてるというか、クール系幽霊だ!!
血まみれの頭部から滴る血も、なんかカッコよく見える!
……ん? 幽霊はどこ行ったんだ?
そのとき、俺は背筋がぞくりとし、振り返った。
「やっほぉ~浩平(*‘ω‘ *)♪」
あ、なんか見知ってる顔見たらホッとした。
てか幽霊に背後に立たれたらぞくりとするんだね初めて知ったわ。
「お、幽霊……。てか俺の名前は俊也だからな毎年言ってるけど」
「もう新年の挨拶みたいに定番のやり取りだよねえ~ふふっ(*‘ω‘ *)」
「それはそうと、あれはお前の連れなのか? あの受付前で佇んでる幽霊……」
「そうだよお~(*‘ω‘ *) 彼の名前はジョンにしたから(*‘ω‘ *)」
(……相手が同じ幽霊でも勝手に人の名前つけるんだな……)
ジョン(どう見ても日本人)は受付前で佇んだまま、微動だにしない。
あ、そっか、こいつら幽霊って物体に触れないんだっけ。
幽霊も毎年、参加用紙に代筆してもらってたよな。
どれ、俺が一肌脱いて記入に手を貸してやるか。
そのときだ。
「ふんっ……ぐおおおお!!!」
いきなりジョンが必殺技を放たんとする勢いで気合を入れ始めた。
受付のお姉さんもジョンの態度の急変にビビって固まっている。
何をしようとするんだ、ジョン!?
するとジョンの手に、硯と筆が現れた。
なにその召喚術!? てか召喚したのがそれ!?
ジョンは何事もなかったかのように元のクールな表情に戻り、硯に筆をつけると参加記入用紙にさらさらと文字を書いた。
幽霊
字、上手っ!!
飾りたいくらい、字が上手っ!!
でも残念なことに書かれた文字が「幽霊」!!
(読み仮名にジョン、と書いているあたりそれでいいのかお前)
余りに見事な書に周囲からは、ほぅ、とため息まで漏れ、何故かパチパチと拍手まで送られている。
いや違うから! ここマラソン大会だから!
書道大会じゃないから!
「おい幽霊、アイツ……ジョンだっけ、アイツ気合入れて物体を出現させたぞ!!」
「そうだよお~(*‘ω‘ *) 去年さあ、僕が浩平を部屋から拉致っておんぶして走ったじゃあん(*'ω'*) あの時に気付いたんだけど、気合入れれば触れるみたいなんだよね(*‘ω‘ *) だからジョンにも教えてあげたんだよお(*'ω'*)」
え・気合で何とかなるもんだったんだ。
へえー……。
新たなキャラクターの登場や新事実に呆然とする俺の元に、ジョンが近付いてきた。
お、ご挨拶かな?
新年から幽霊とばっか挨拶かわしたくないんだけど。
「君が……浩平君だね……」
喋り方がキャラ極めすぎてるっっ!!
俺は吹きそうになるのを必死で堪えた。
「君の事は……幽霊君から聞いているよ……。手強い相手、だってね……」
待って下さいそのクールな雰囲気でその喋り方は逆に笑えるからやめろwwwwwwww
「言っておくが僕は……書道四段だ……。甘く見ていると痛い目にあうよ……」
お願いやめてそれ以上やめてwww
コイツ絶対わざと言ってるだろコレwww
マラソン大会なんだってばwww
「君のとめ・はね・はらい……。見せてもらうよ……」
何でこんなキャラ濃い奴を連れてくるんだよ幽霊www
お前の知人幽霊にもっとましな奴いねえのかwww
はっ……もしやこれは!!
俺は気付いた。
おそらく幽霊は、新たな刺客(ジョン)で俺に勝つ気なんだと。
過去の大会では幽霊自ら変顔をしてきたりバレエ走行したりして俺を笑かし妨害してきたが、今年こいつはジョンを刺客として俺に差し向け、俺がジョンに苦戦している間に自分は本気で走る気なんだ!
つまりジョンはただの捨て駒……!!
幽霊の真意に気付いた俺は、無言でヤツを見た。
相変わらず「(*‘ω‘ *)」な顔をしている。
ふっ、お前の作戦はすでにお見通しだ。
まさか自ら戦うのではなく刺客を差し向けるとはな。
毎年毎年、なんて手を考えやがる。
しかし俺は、刺客(クール系書道家幽霊←情報多いな)などには負けん!
スタート位置に立つ俺の左右を、幽霊とジョンが挟むように並んだ。
ふん、やはりな。
しかし昨年までは自力で俺と戦おうとしてきた幽霊が、まさか刺客を差し向けるという手を用いてくるとは……。
お前との一対一での勝負を期待していた俺だが、刺客ごときに負けん!
例えそれが……やたらクールを気取った……書道家幽霊でも……w
あ、いかん考えたら笑えてくる、やべえww
考えないようにしよww
そしてスタートの合図が切られた。
俺は集中して目の前のコースだけを見て走る。
すぐ隣では幽霊が「(*‘ω‘ *)」な涼しい顔をして走っている。
クール系書道家幽霊もクールな走りを見せている。
くっ……! いつ仕掛けてくる気だ!
いやそんなことを気にしてはいかん、それでは相手の思うつぼだ。
俺はただ走る事のみに集中しようと気合を入れ直した。
「マラソン……(ぼそっ)」
何か言った! ジョンが何か言った!
くる! これは来るぞ!
身構えろ俺、影響されるな俺!
「マラソンとは紀元前四九〇年にギリシャのアテネ軍がペルシアを撃破した際、兵士が戦場であるマラトンからアテネまで約四十キロ走って勝利を報告したことに基づく……」
豆知識の披露ーー!!!
ためになる! ためになるよ?
でもそれ絶対ググったヤツだよな?
前もって知ってたわけじゃねえだろ絶対ww
「へえ~ジョンは物知りだねえ~(*‘ω‘ *)」
幽霊、お前フツーに走りながら感心してるんじゃねえよ!!
「なんのこれしき……。書道四段ならば当然の作法……」
なんのこれしき、の使い方も作法の用い方もおかしくない?
作法なのそれ? 書道家にとってマストな作法なのそれ?
てか単なる豆知識であって作法ではなくね?
「うっ……、駄目だ、今すぐ書きたい!!」
ジョンはそういうと走行を止め急に地面に座り込み、硯と筆を持った。
何なのコイツは!? 刺客じゃなかったの?
もしかしてただのバカ?
先ほど参加記入用紙に書かれたジョンの見事な書を知っている参加者たちが、ついつい足を止める。
おいおいおい、走れお前らーー!!
なに急にストリートアート的なこと始めてんの!
そんでお前らも何で足を止めてんだよ!
ジョンは涼しい顔で筆を持つと、地面にスッと文字を書いていく。
「紀元前四九〇年に存在した、一人の兵士に捧げよう……」
そして書かれた文字は。
勝訴
ちがーう!
戦の勝ちを報告しに走ったんだろ兵士は!
せめて勝利と書いてくれ!!
ギャラリー、拍手すんなーー!!
これマラソン大会なの。マラソン大会なの。
ねえわかってる? 皆さん。
結局その後ジョンはギャラリー達と
「うちの猫の名前、このシャツに入れてくれないかな?」
「……いいとも……」
などのやり取りをしつつ、すっかりストリートアーティストと化していた。
仕舞には大会関係者までもが、
「ここの看板の文字剥げかかってるんで、書き直してもらえます?」
など言い出す始末。
恐るべし書道四段。
俺の走行を邪魔するのではなく、大会そのものを打ち壊すとは。
しかし俺は走る。
俺は、この日のために鍛えてきたんだ(空耳動画で)。
隣では幽霊が走っている。
ジョンのこと置いてきていいの?
「浩平、君との一騎打ち、真剣勝負だ! ハアハア(*‘ω‘ *)」
「望むところだ、幽霊!」
ゴールまであとわずか二キロ。
俺は絶対に、今年こそ負けな……あっ!!
何てことだ! 靴底が剝がれかけている!
勝負ジャージに金を掛け過ぎて高校時代のランニングシューズしか用意できなかったのが災いしたか……!!
「勝負あったな、浩平(*‘ω‘ *)」
幽霊は颯爽と俺を追い抜いていく。
くそう! こんな事で……!!
その時だ。
「……よかったら……」
ジョンがいつの間にか後ろに立って、俺に何かを手渡そうとした。
そうか、こいつら集中すれば物体を出せるんだったな。
俺に代わりの靴をくれるとでもいうのか?
敵に塩を送る、それも書道家の心意気ってやつなのか。
硯いーーー!!!
よかったら、じゃねーよ!!
どうしろってんだよこれを!
靴底にでもしろっていうのかよ!
重いわ! 余計走りにくいわ!
ジョンがクール系書道家アホ幽霊だとわかったその時、遠くでゴールを祝う歓声が聞こえた。
ああ……俺は今年もまた……負けた……。
「今年の供物は汁物じゃ無かったねえ~(*'ω'*)でもおでんもいいよねえ~(*‘ω‘ *)ホクホク感がたまらないよねえ~(*‘ω‘ *)」
大会出場者に毎年振舞われる椀の中身は、おでんだった。
幽霊はそれをコンクリートブロックの上に置き、嬉しそうに眺めている。
俺は納得できないまま、黙って椀の中身を見つめていた。
走りの実力で負けたのならともかく、靴の破損で負けるとは……。
いや、それも勝負の内か。
大事な勝負にあたり装備を怠ったその時すでに、俺の敗北は決定していたのだろう。
ジョンがアホとかそういうのは関係なく。
「あ、このおでん、もしかして気合入れたら食べられるんじゃないかなあ(*‘ω‘ *)気合入れたら物体に触れるってことは、口にもできるってことなんじゃないかなあ~(*‘ω‘ *)」
幽霊が呑気に言う。
……確かに。
気合さえ入れれば触れるなら、その応用でおでんを食することも出来そうに思えるけどな。
幽霊の言葉を聞いて、ジョンが箸を持った。
俺と幽霊はじっと成り行きを見つめる。
食えるのか!?
とうとうお前らも、見つめて満足するだけでなく実在するものを食えちゃうのか!?
ジョンの箸が玉子を掴む。
ゆっくり箸が持ち上がり、玉子がジョンの口元へ運ばれていく。
ジョンが口を開ける。
ゆっくりと、ゆっくりとジョンの口内へ吸い込まれていく玉子を、俺と幽霊は固唾を飲んで見守った。
「あっち!! あっっちいい!!」
玉子はジョンの口に収まった次の瞬間、勢いよく吐き出された。
俺と幽霊は唖然としてそれを見ていた。
え……猫舌? 猫舌なの、ジョン?
てか緊急時はクールじゃなくなるんだな。
「そんなに熱いの~?(*'ω'*)僕も食べてみよう☆彡」
幽霊が箸を持ち、はんぺんをパクっと口に入れた。
んー、そんな熱々おでんじゃないけどなあ。
屋外だから冷めるのも早いし。
俺が見つめていると、幽霊は今までに見たことのないほど真っ青な(すでに血まみれだが)顔をしている。
え・どうしたコイツ。
「ぶきゃあああ!!(゚Д゚;)」
勢いよく幽霊の口から吐き出される、はんぺん。
もしかしてこいつら……実在する食物が食えないの?
「無理っ!(゚Д゚;)無理!!(゚Д゚;)死ぬかと思った!(゚Д゚;)」
死んでますけどね、あなた方。
ツッコむのもアホらしいけど、あなた方一応幽霊ですよね……。
「多分死んでるからだと思う!(゚Д゚;)食べ物って、生きるためのものじゃあん!?(゚Д゚;)だから僕ら死人は食べたら死ぬのかも!(゚Д゚;)」
パニクってる幽霊は「死人が食べたら死ぬ」という、ちょっとよくわからんがどことなく真理っぽい事を口走ったが、言いたい事は大体わかった。
死んじゃってるから、この世のものが食べられないんだろうな。
ちょっと可哀相だな。
毎年、椀の中の振舞いものを微笑みながら見つめるしかないんだな……。
俺が少し感傷に浸っていると、トントンと肩を叩かれた。
横を向くと、ジョンが半紙に書いた書をスッと差し出してきた。
「来年に期待」
いや来年になったら食えるとかそういうレベルアップはないと思うぞ!?
せめて生まれ変わって食えるように「来世に期待」とか書けよ!!
【END】
⭐ジョンが走行中に話したマラソンの由来は、goo辞書を参考にしたよお(*'ω'*)
⭐前回までのお話(第一話~第三話)までは下記マガジンにあるよお(*'ω'*)
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