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【創作】隣に越して来たもの【守り猫マモル】

【前回のお話】
興味本位で事故現場を見に行った主人公のOLは、それがきっかけで怪現象と体調不良に悩まされるようになる。
続く怪現象と酷くなる体調不良にとうとう限界を感じた主人公。
何を思ったか「恐ろしい思いをしながら部屋に一人でいたくない」という一心で、ペットショップに駆け込む。
そこで「俺を飼えよ、追い払ってやるから」とテレパシーを伝えてくる一匹の猫と出会う。
何度も生まれ変わり霊格が高く、それ故に波長の合う人間(飼い主)と出会えず売れ残っていた猫は、見事主人公に取り憑く悪霊を除霊し、「マモル」と名付けられたのだった。


マモルと暮らすようになり、私は安定した日々を送っていた。
仕事も順調、人間関係も良好で、健康面にも問題は無い。宝くじが当たるなど大それた幸運は無いものの、充分と言える日々を送っていた。
マモルと暮らし始めて半年ほど過ぎた頃だろうか、空室だった隣部屋に人が越して来た。
動物好きだった私は、マモルと暮らし始める前からお散歩に行くワンちゃん見たさに、このペット可のマンションに住んでいたほどだ。
隣にやって来たのはどんな人なのか、どんなペットを連れているのかソワソワしていたが、あちらからやって来る前に押しかけるなどは流石に出来ず、早く挨拶に来てくれないだろうかと心待ちにしていた。
昨今では引越しをしても隣近所に挨拶しないケースが増えているが、私のマンションはペット可な物件ということもあり、住人たちは予めトラブルを避ける意味でも
「うちの子は大型犬ですが、大人しい子ですのでよろしくお願いします」
など前もって挨拶しあっていたからだ。

隣の部屋に荷物が搬入されたが、動物の鳴き声は聞こえないし、気配は引越し業者と新しい住人のものだけだ。
今はまだペットはいないが、これからペットを迎える予定の人が借りたのだろうか?
そんな事を考えていた数日後、隣の住人がマンションの駐車場に停めた車から犬と猫を降ろしている光景が窓から見えた。
おそらくは家具の配置や荷物の片付けがあらかた終わってから、預け先にペットを迎えに行ったのだろう。
荷物の出し入れが頻繁に行われている間にペットを連れて来て、うっかり怪我をさせたり、外に逃げてしまうことなどを懸念しての事だったのかもしれない。
その晩、新たに越して来た隣人が挨拶にやって来た。

「どれ、俺もツラ見といてやるか」

マモルはそう言うと、私に飛びついて来た。
飼い猫っぽく抱っこされて玄関に行くつもりらしい。

ドアを開けると、紙袋を持った男性がいた。
車に乗せて連れて来た犬と猫は家に置いて来たらしく、彼一人であった。

「初めまして。隣に越して来た者です。ご挨拶が遅れ失礼いたしました。家具の設置を終えてから、うちの犬と猫を迎えに行っていたもので……」

礼儀よくそう挨拶する隣人を一目見て、なんと

「ぶっはぁー!!(笑)」

とマモルが盛大に吹いたのである。
もちろん相手には猫の大鳴きであり笑い声とは聞こえていないはずだ、マモルの話し声は私にしかわからない。
が、マモルは盛大に吹いた後も、

「マジか…(笑)なんだよコイツ(笑)どう生きて来たらそうなるんだよ(笑)」

と私の腕の中で笑い転げている。
私は慌てたが、隣人の前でマモルに爆笑の理由を問うことも出来ず、隣人も

「にゃっ! ぬぁっ(笑)にゃにゅー!(笑)」

にしか聞こえないであろうマモルの笑い声を聞きながら、

「可愛い、元気の良い猫ちゃんですね〜」

とニコニコしている。
とうとうマモルが

「ぷぇ(笑)ぷひっ(笑)ぱぴゅ(笑)」

と息絶え絶えに吹き出し始めたので、隣人は

「猫ちゃん大丈夫ですか? 発作ですか」

と真剣にマモルを覗き込み、心配し始めてしまった。

「あ、うちの子、人が好きで! 特に初対面の人が好きで、いつも初対面の人と会うとテンション上がってこうなっちゃうんです! 大丈夫です、すみません!」

「そうですか……ご挨拶にこちらどうぞ。お嫌いでなければ召し上がって下さい」

「ありがとうございます! ちょっと落ち着かせて来ます! ワンちゃんネコちゃん今度ぜひ会わせてくださいね!」

まるで捲し立てるようにそう述べると、私は隣人からお菓子の入った紙袋を受け取り、ドアを閉め、ヒーヒー言うマモルを室内に連れ戻した。

「ちょっと、なんかこっちが不審人物みたいになっちゃったじゃない。失礼なことしちゃったよ! あの人、隣の女と猫ヤベーなって引越ししたこと後悔してるかも」

腹をよじらせて笑うマモルに、私はやや不満気に告げた。

「だ、大丈夫…(笑)ぷひゅ(笑)アイツは多分、どこ行っても大丈…ブハァ!(笑)」

「あの人の何がそんなにおかしかったの? 普通の、感じ良さそうな人だったのに」

私が問うとマモルは、ゼェゼェと息を整えながら答えた。

「アイツんちの猫と犬、やべえ」

「え?」

「犬は俺と同じくらい霊格が高い、むしろ神の犬に近い。んでもって猫は妖怪。なんでそんな犬と猫を飼う羽目になってんだアイツ(笑)」

マモルはやっとの思いでそう答えると、

「犬が神で猫が妖怪でペットって(笑)」

とまた笑い転げている。
マモルもたいがい、人のこと言えない猫だと思うけど。

「隣の人も、私が過去に困った事があってマモルに出会ったみたいに、同じように守ってくれる動物と縁があった人なのかな?」

私が呟くとマモルは、ふぅ〜と息を整えながら答えた。

「幽霊に追い詰められてペットショップの猫にすがりついたお前とは違うよ。ありゃ、ただの動物好きだな。でもそれが動物からたくさん感謝されて、位の高い神さんがアイツのそばにいる犬と猫に力を与えたんだな」

ポカンとする私。
マモルは思い出したかのようにまたプルプル震え出すと、続けた。

「でっ、でも、犬の方は神に成りたてで気が小せぇ(笑)猫は何でか知らんがただの無自覚な妖怪になってるし(笑)ププーッ(笑)!!」

そう言うとマモルは再度ゲラゲラと笑い始めた。
そして、「今度アイツんちの犬と猫を見に行きたいから隣に遊びに連れていけ」と私にせがんでいる。

お隣さんちに、「ワンちゃんとネコちゃんを見に来ました〜」などと突撃するのは難しい。
いくらペット可の物件で隣同士といえど、所詮他人である人物の家に訪問するなど中々にハードルが高いことをマモルはわかっているのだろうか。
もし何かの機会でお邪魔出来たり、お隣のペットに会うことがあっても、マモルがまた吹き出すかもと思うと私の方が心配だ。
突然発作を起こす猫だとマモルを本気で心配するかもしれないし、最悪の場合、マモルは私から虐待されていてストレスのあまり人を見るとパニックを起こしているのではと疑われないだろうか。

そんな新たな隣人だが、朝夕に犬を連れて散歩に出掛ける気配こそあるものの、スーツで出勤している姿などは見たこともなく、どうやら買い出しなどに出る時間も日によってまばらなようだ。
隣は何をする人ぞ。


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琥珀ベイビー
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