花がさく つま先がころがる レエスの袖はうたう 季節のとけいは動きだして 私はいまちゃんとここにいたのだ 指は世界の感触を 生まれた初めからなぞりなおす とけてゆくものたち うつくしさに根負けして とけてゆくものたち キスマークのような朝の色よ
うとうと音楽をききながら ベッドに仰向けに寝ころんでいると 記憶の底に沈んでいく なにかを思い出しそうになる 深淵にふれてしまいそうなこわさもある それであわてて飛び起きたりする とにかく眠たい朝なんです
想いが溢れるといいわね。 わたしはいつも想いの溢れることを心待ちにしているのよ。 手を差し伸べに、きょうも。
めがねを両手で乱暴にぐいぐいと調整する 子供がそれをじゃまにするしぐさで すると目のまわりに昆虫を飼っている気持ちになる 生きためがねなんてきもちわるいな こいつできのう草色のスカートをほしいと見つけたのだな
真夜中は心がひとりきりになれていい もっと心を孤独にして もっと人に会いたい つよいお酒が飲めなくなったから コーラを毒にする 身の毒にする 室内はまるで過不足のない完璧さ 毒を喉に流しこんでお腹はいっぱいになってしまう コーラを買いに行ったとき 夜道に人影が跳ねていたことをおもう
きょうは煎茶しかないのでそれをのむ くすりもそれでのむ まっ白な紙袋みたいな空をみかけて 日輪のくらく光る漂白された空をみかけて 23回目の歯みがきをする 腐ったおしろいまみれ 三面鏡は顔だらけ まぶたの重い顔だらけ (ねえ永久にねむけがやってこないような気持ちよ) 手をかざしてみる 手のひらは熱をさますにも花に水を遣るのにもちょうどいい
足先を腿であたためて 金色の小鳥をとばす 会えなかった青空に 楽の音を散らかすようにして 顔を洗うこと 凝視すること 身のまわりがぽっと色づくこと 素肌へ帰ろうとするもの思い
ほろほろ剥がれていく、役立たずたちが排水溝に吸い込まれていく。 (きっとあなたは死ぬことに精一杯だから、汚なく笑うことだってできる。) 指爪の微細な光、浴びて、浴びて、守って、塗りつぶして、 洗われた身体を所在のない場所に押し込む。 身をこごめて風と光にたえる。 やぶにらみに覗けばいい眺めの窓だ。 行かない、どこにも行かない、行きたくない、…………においがいい。 視線がけむりに酔ってくると、 爪を寿ぐ。 ドーナツ屋さん、クレープ屋さん、アイスクリーム屋さん、
空の青みを呼吸して 雲の歩みを思案して 音の往き来に眠気をこらえて ほどちかい未来にいやいやしながら すくすく育つよ未分化のたましいよ ねえくだものの種を蒔くようなおもしろいゲームをしよう それからとおい昔にボールを投げて返ってきたレターをじっくりよもう ま
こんな空模様の憂愁には、ビール色した夏の微笑と、シャンパン酒に口づけした乙女の膚を羽織るのがいいだろう。 やがて梵音が夜空を描くから、小部屋はひっそり静かになって、かたすみには薔薇のかげがくつくつあそび咲くだろう。
狂い咲くことに意味なんてなかった。 わたしの中心には歌い踊る黒い女と、赤いベベ着た影法師が住まう空白があるだけなのだから。 哀しみの表現にはこと足りていた。
ひかりを感じるの あしをばたつかせるの かかとでおしりを叩くの ビスケットサンドをたべるの 風の音をきく
わたしはいつでも くすりを 南無三、 というかんじでのむ 花まわし、という名のついたグラスは
鳥たちは木々にざわめいて 季節は流れることをはじめた わたしの青い椅子と橙火(ともしび) 一人きりの時間の拠り所 帰っていくお家はこのやわらかい巣箱 鳥たちがいきを潜めると 青い椅子は光りをうけて温もりはじめる
てんでばらばらに わたしたちは住まい狂う てんでばらばらに やることが同一ではない 奇妙に一致されるがごとく わたしたち、生きてる 趣味だとか、境涯だとか、 まったくつまらぬもののように てんでばらばらに 住まい狂うわたしたちは いたって狂人沙汰である
座布団に手をついて 視線をうろつかせることを 義務のようにやっているので 逆上がりにあこがれたりするのである 指のつめを泣き顔でみつめれば シルクハットを被った老女が
