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ベッド上の大切な人に駆け寄る前に知っておきたいこと

ベッドで横になっているとき、枕元にまっすぐに駈け寄られると、まあまあ怖い。いきなり耳元で話しかけられるも不快感があり、全力ではねのけたくなる。

そう知ったのは昨年5月。車椅子の友人と沖縄旅行に遊びに行くため、「起き上がり介助」と「車椅子の移乗」を習いに行ったときのことです。

教えてくれたのは訪問介護事業所リバーサイド・ヴィラの雨澤慎悟さん。以前、介護技術研修会を見学に行ったとき、雨澤さんに介助実演してもらったときの感動が忘れられず、どうしても短期間で介助を覚えたい事情を話し、相談したところ、特訓の指南役を快く引き受けてくれたのです。

特訓につぐ、特訓! その合間の休憩時間に「ちょと別のことをやってみましょうか」と雨澤さんに言われました。

「ちょっと横になってみてください」

言われるがままに、ベッドに横になると想像以上に視界が狭い。目の端にようやく雨澤さんが映るぐらい。

「じゃあ、島影さんは今から利用者さんです。わざと演技する必要はないので、いつも通りの島影さんでいてください。僕が訪問介護にやってきたところです。じゃあ、やってみましょう」

よくわからないまま、「はーい」と返事をすると、次の瞬間、雨澤さんがずかずかずかーっとベッドの横に近づいてきたかと思うと、耳元で「島影さーん、今日のご気分はいかがですか」。

はあ!?

ややドン引きしながら見上げると、雨澤さんは笑ってます。

🍎🍏🍎🍏

「じゃあ、別のパターンやってみましょうか」

雨澤さんはベッドから離れ、おそらくは入口をイメージしたあたりまで下がると、今度はそこから「島影さーん、こんにちは!」と呼びながら手を振ってます。このとき、私はさっきの耳元ショックもあって、やや不愛想に、雨澤さんの様子をうかがっていたと思います。

雨澤は今度はまっすぐには駆け寄ってはきませんでした。むしろ、ベッドに向かってゆっくりジグザグに歩きながら、「今日のご気分はいかがですか?」なんて話しかけてきます。なんだ、それ! おどけた仕草を見ているうちに、なんだか笑えてきます。

私がニヤニヤしていると、ベッドの近くに来た雨澤さんが、なぜかこちらに手を差し出します。なんとなくこちらも、差し出された手を握り返します。

そこで終了。その後、雨澤さんと感じたことを話し合いました。一度目はいきなり近寄られて、耳元で声がしたのがとっても怖かった。知ってる顔でも、なんかイヤ。二度目は最初は何が起きるのか警戒してたけど、途中で笑っちゃった。

「2回目のほうが、訪問時にいつもやっていることです。いちばん最初の声がけからベッドに近づくまでの間、どこまでの距離なら不快感がないか、パーソナルスペースに入っても構わないと思ってもらえるか確認しながら近づいてきます」

どこまで認識してもらえてるか、反応はあるのかないのか、身体はどこまで動きそうか。これらの情報を短時間で、同時に観察しているのだそう。最後の手を差し出したのも、観察材料のひとつ。私がとくに抵抗なく、自然と握り返したことで、「少なくとも手に触れるのはよし」程度に心を開いていることが確認できたのだとか。

同じ人なのに、ふるまいひとつでこちらが受け取る印象はぜーんぜん違う。

こちらは親近感のつもりで、あるいは一刻も早く会いたくて、はやる気持ちで駆け寄ったとしても、相手からすれば、恐怖以外に何ものでもない可能性がある。

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まずは十分に距離をとり、パーソナルスペースを侵害しないぐらい立ち位置から話しかけたり、合図を送ったりする(相手の視力や聴力などにもあわせて、受け取りやすいよう認識しやすいよう工夫してみる)。

その上で、相手が不快に思っていないかどうか観察しながら、少しずつ近づく。引き続き話しかけてもみる。「家族(友人)なのに、水くさい」ではなく、「家族(友人)だからこそ、できる気遣い」のひとつとして、取り入れてみたい。

実際、介護施設で暮らす義母との面会時に試してみたら、手ごたえあり! ベッドの上でうとうとしていた義母にドア付近から「あけましておめでとうございますー!」と声をかけ、こっちを認識したのと確認しながらゆっくり接近。いきなり枕元には行かず、足元の方から顔を見て話しかけ、「よかったらお散歩に行きませんか?」と提案すると、「それは名案ね!」とにっこり。手を差し出すと、しっかり握り返してくれました。よっしゃ🎵

ぜひみなさんも機会があったら、試してみてください。

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