コクサイカの在り方
さて、ここ数年、持ち出せる状況ではなかったので、引き出しの片隅に追いやっていた話題だが、やっといろいろが戻ってきた。
そう、海の向こうを意識した話だ。〝グローバル〟なんていうと大げさな感じがするので、少し古くて控えめな感じのする〝コクサイカ〟という言葉にしておこうか。僕は昭和の人間なので「国際化」という言葉に憧れてきたわけだけど、平成終盤から令和の時代に向かう中で、この言葉から思い浮かぶイメージはずいぶん変わってきたと思う。
自分が経験してきたビールに関わる仕事で言えばこんな感じ。
1990年代は、海外の商品の輸入が主流。アメリカやヨーロッパのビールブランドを日本で販売する。バドワイザーやハイネケン、ギネスなんかが代表格だろうか。その中で僕らは海外の会社から製造技術やマーケティングなど諸々を勉強させてもらった。
2000年代は海外の会社を買収して日本の会社が海外企業のオーナーになった。僕は買収したオーストラリアの食品会社に出向したが、現地にいて日本側の対応がもどかしくてたまらなかった覚えがある。国際化に積極的なのは、本社のトップと一部の人間だけで、他の日本にいる日本人社員がいつまでも国境にこだわったような態度で、コトが遅々として進まなかったからだ。こういう状況は10年くらいかかって解消されていったと思うが、そんなこともあり、買収した海外事業はほとんどうまくいかなかった。
そのうちにクールジャパンという言葉とともに、今度は日本の商品を文化とともに海外に売り込もうという気運が出てきた。僕は日本に戻り、日本のビールブランドを海外展開する仕事をもらい、中国、韓国、東南アジアを中心に飛び回った。2年ほど携わっていたが、日本人としてプライドを持って取り組める、やりがいのある役割だった。
それから少し経って、キリンビールを退社することを決めた時期だが、2014年に、当時やっていたブログでこんなことを書いた。『世界に伝えたい日本のクラフトビール』というイベントに参加して、若い経営者たちの話を聞いての感想だ。
「イベントのタイトルはやや勇み足気味な感じはするものの、それぞれの会社が醸造や販売に関してそれぞれの形で海外とボーダレスにつながっていることが印象的だった。酒類、ビール類の消費量が減ってはいるものの、クラフトビールにとって日本の市場はまだまだ大きい。これまでの感覚なら、日本市場の開拓でさえ途上の小規模な地ビール会社が海外市場にまで手を出すというのは拙速ということになるが、「日本より海外で売る方がやさしい」という言葉も出た。クールジャパンの追い風もあるだろうし、完成度の高い商品は外国でも十二分に魅力的。若い経営者にとって国境はハードルにならず、むしろビジネスチャンスと捉えている。」
クールジャパンと、世界的なクラフトビールブームの流れがあり、大手メーカーのブランドよりもチャンスがありそうだな、と思った。設備投資が少し大きく大丈夫かな?と不安な会社もあったが、この流れはしばらく続くんだろうと思った。
さて、最初に言った、景色が変わってきたというのはここから。
コロナの影響で3年間すっかり止まっていた状況がまた動きだした。それは、 日本の商品を海外に売り込むのではなく、日本にある商品・サービスを日本にあるがままに日本で楽しんでもらう、ということが一気に注目を浴びるようになったことだ。わざわざここで書くまでもない様々な事象が起こっている。戻ってきた海外からの観光客が日本で時間、空間、文化を楽しんでいる。以前は爆買い専門だった中国人もモノより体験を楽しむ人が増えてきている。
日本の飲食店でしか展開していないガージェリーはこれまで国際化という言葉は全く縁遠いと思っていた。キリンビールで海外事業に携わってきた自分だから、当然ガージェリーの海外展開というのは頭に浮かぶわけだが、この際立った商品コンセプトを守りながら、というのは相当難しい話だし、コンセプトを妥協して海外展開しても意味はないと思っている。そんな中、日本のガージェリー取扱店に外国人観光客が訪れて、「いったいこのビールはどこのビールだ?すごく美味しい!クールなグラスだ!」と驚いているという話が入って来る。
そうそう、これでいいんだろうな、と思っている。日本の外食をもっと魅力的にしよう。日本に来た外国人をびっくりさせよう。ガージェリーは日本の飲食店でしか飲めないスーパークールなビールってことでいいじゃないか。輸出なんてしなくても良い。日本には愛すべき飲食店がたくさんあって、まだまだ僕らはやるべきことが山ほどある。
そう思っている次第。
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