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「泥濘の食卓」感想:終わっている場所から抜け出す方法

キョコロヒーでよく見ている齊藤京子の初主演ドラマということで注目していましたが、ついに最終回を迎えたのでその感想をお伝えします。

泥濘の食卓最終話 TVerで公開中(期間限定)

原作は同名のコミックで、大ヒットではないもののマンガ好きからの支持があるというマニアックな作品です。

アイドルでタレントの齊藤京子、若手女優としてブレイク中の弱冠20歳原菜乃華、ミスチル桜井氏の息子の櫻井海音など、キャストもあまり見ない組み合わせで、正直あまりぱっとしなかったこの時間のテレ朝ドラマ枠をテコ入れしようという力の入れ具合が垣間見えます。

私はコミックは読まずにこのドラマだけを見ましたが、何よりこの作品のテーマ設定がとても気になりました。

それは、「終わっている場所から抜け出す方法」とでもいうものです。


何もかも終わっている話


※以下ネタバレあり

主人公の深愛(みあ:齊藤京子)は、とある地方に毒親である母(筒井真理子)と二人暮らしをしていて、スーパーのアルバイト店員として働いていますが、その店長(吉沢悠)と不倫をして舞い上がってしまいます。

店長は過去に若い女性バイトと不倫を繰り返しそれが妻(戸田菜穂)にバレ、妻は精神を病み家庭は崩壊寸前、しかしその息子ハルキ(櫻井海音)はひょんなことから深愛に惚れてしまいます。

ハルキには幼馴染で地元の大地主の孫ちふゆ(原菜乃華)がいて、恋心を抱くハルキに相手にされずストーカーをしていますが、ある時深愛の存在を知りブチ切れてしまいます。

という感じの深夜ドラマ的ストーリーで、誰もがおかしい状態のまま話は進んでいきますが、私は何よりそのすべての人の終わり具合に驚きました。

・地方の街と人の終わり具合
・自己中心的な夫婦の終わり具合
・毒親とその子供の終わり具合
・お金はあるが無関心な家庭の終わり具合

地方都市の地味なスーパー、その中では勝ち組の店長、そして負け組のパート・アルバイト達。
店長はアルバイトの若い女性を辞めさせないために、負け組女性に情けをかけ不倫しますがもちろん愛情などありません。

そして不倫により妻を裏切り精神を病ませますが、結局不倫から足を洗い、しれっと妻とよりを戻します。
結局この夫婦は自身の不安を負け組の若者で解消し、気が済んだら元さやに戻るという共犯者でした。


深愛の母は典型的な毒親で、子の独立を阻止し自由を奪い続けてきました。
しかし深愛はだんだんとそのおかしさに気づき、そんな毒親の元から離れようとします。

でも毒親にずっと育てられたためその狭い価値観しか知らず、独り立ちしようにも方法も分からないため、努力もせずに都合の良い嘘をつきまくり、言い寄られた男に安易に依存するしかできませんでした。


ちふゆの両親はその親の資産に完全に依存していてまったく自立できておらず、そのせいでちふゆに基本的な社会のルールも教えることができません。

そのためちふゆは自分の思いを相手に伝えることができず、困ったら虚言・脅し・暴力を繰り返し、最後には刃物を持ちだす暴挙へとエスカレートしてもだれも止められませんでした。

唯一ハルキだけは、父親の不倫相手に近づくという意味では決して正常ではありませんが、気持ちと行動はいたって普通の高校生で、相手の心を踏みにじる行為だけはしなかったと思います。


このドラマが持つ意味


すべてが終わっている世界でどうやったらそこから抜け出せるか。

作者の伊奈子氏は、深愛とちふゆに対して生まれたときからの罪深い十字架を背負わせています。

それは彼女らの親や家庭がもう救いようがないほど壊れているため、本人の努力や行動だけではまともな道に行くことはできず、そもそも努力の仕方さえ分からない状況にあることを示しています。

そんな中、作者はちふゆには破滅を、深愛には孤独を選ばせました。

ちふゆは、ある意味最も勝ち組でありながら誰も正しい教育をしてあげられず、完全に間違えた大人になってしまいました。
恐ろしいことに彼女はそれでもお金があるので生きていくことができます。

そして深愛が最後にバスの中でハルキに親の元に戻るよう言ったのは、深愛が自分の歪んだ育ちに起因する問題を自覚しせめてまともなハルキには同じ道を歩ませたくないという気持ちからで、毒親からの離脱という大きな代償を払ってようやく普通の人の思いやりと愛情を獲得できたと感じました。


演技については、齊藤京子は初めての大役の硬さもあったのかもしれませんが、最後には何かを悟ったかのような、静かなのに迫力さえ感じられる演技を見せ、素晴らしい結末を迎えられました。

また原菜乃華は今回の悪役を経て間違いなく来年主役級の活躍をしそうで、個人的には筒井真理子の毒親のリアリティが凄すぎて恐怖を感じました。


最後に、この原作をこのキャストでこの時間に流すと決めたテレ朝は非常に勇気があったと思います。

このドラマは一見アイドルと若手女優のテレビ映えする演技が目立ちましたが、内容的には本当に救いようがない現実が9割9分を占める陰鬱さで、よくこれで行くと決められたなと感じます。

齊藤京子つながりで見始めて久しぶりに連ドラを完走しましたが、重すぎるテーマをぎりぎりエンタメに見せることができた製作の方々の手腕は素晴らしく、視聴率等の数字は分かりませんが、見た人に深い爪痕を残したドラマだったということだけは間違いありません。



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