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能動的拷問こと快適な空の旅ロングフライト。圧倒的旅の逆醍醐味

ロングフライトは辛い。

10時間以上も狭い席に閉じ込められ、現代人の必需品である電波からも遮断される。勝手に消灯され、勝手に起こされ、出てくるさほど美味しくもない食事をひたすら食べる。たとえ夜中でも。ブロイラーかよ。自由を奪われるその時間を少しでも快適にするため、準備が肝心になる。

本を買い、動画やマンガをダウンロードする。私は映画を2時間見る集中力がないため、散らす雑念を持てないロングフライトの場は、逆に良い映画鑑賞の機会ともなる。ノイズキャンセリングのイヤホン、アイマスク、ハンドクリームにリップクリーム。着圧ソックスも。暇つぶしや快適快眠グッズで準備を万端にするのだ。

とはいえ、13時間はさすがに持て余す。試行錯誤の上の辛い体勢で束の間寝たとて、折り返し地点にも満たない時間に食事で起こされる。準備していたYouTubeの動画を見ても、20分ほどしか潰すことができない。どんなに有意義を心がけても、時間を捨てているように感じる。

移動ほど無駄な時間はない。せっかちな私はずっとそう思ってきた。時間も交通費もかかり、疲労が重なる。休息になったり、目的地までの期待というスパイスを得られるのは、せいぜい1時間ではないだろうか。それ以上の移動は、ないにこしたことがない。ないにこしたことがなさすぎるくらいになくしたい。

などと考えながら、残り時間を指折り数えていたら、やっと突入した後半戦に、妙に仕事が捗ったり、突然見たい映画が見つかったりする。残り時間を鑑みるとこの映画は最後まで観られるかわからない。そんな状況に陥る。圧倒的形勢逆転だ。時間が足りない。オープニングを飛ばそうと早送りを試みるが、飛行機備え付けのタブレットがそこまで精密にできていない。物語の開始まで微調整していると、結局早送りしないほうが早かったのではという事態になる。タトゥーを彫る機会があれば、「急がば回れ」にしたい。と何度思っても同じ過ちを犯し早送りをし続ける。

残り時間と格闘しながら物語に集中していると、着陸が近づく機内アナウンスが流れたりする。自前のタブレットではなく、飛行機備え付けの映画を観るデメリットはここだ。思わぬ物語に出会えることもあるが、強制機内アナウンスに邪魔を余儀なくされる。

それでも、この映画を選んでしまったのだから仕様がない。無我夢中で物語と悪戦苦闘していると、なんということでしょう。あっという間に13時間が過ぎようとしています。意外とやることやりたいことは多く、あんなにも時間を持て余していたのに最後には時間が足りなくなる。準備した動画も本も、観終わってはいない。そうやって、あっという間と言い聞かせたいロングフライト13時間。

テクノロジーの進化はすさまじいのに、フライトや空港の体験はなぜ一向に変わらないのか。何らかの赤外線的なものをくぐることで、勝手に荷物検査が終わったりしないのか。

パスポートを御朱印帳のように提出し。スタンプをもらうために「サイトシーイング…へへへッ…」と述べるあの儀式はなくならないのか。そもそも瞬間移動はできないのか。もっともっと便利になる余地があると思うのだが。いつかの改善を期待。そうすればもっと世界が近くなり、私のタトゥーも旅の素晴らしさを解くものになるだろう。

しかも恐ろしいことにトランジットを経て、再度10時間乗るんだ。気が遠くなる。トランジット込み込みで28時間格納されるくらいであれば、残り寿命を48時間捧げるから瞬間移動できるシステムはどうだろう、などと無駄なことを考える程にはまだまだ時間がある。あるのである。

旅をするためには、この能動的な拷問に耐えねばならぬ。テクノロジーの進化が進むまでは、覚悟を決めて狭い席に閉じ込められに行こう。どんなに膝下がむくもうとも、イミグレーションでどれだけ並ばされようとも、空港でどれだけ歩かされようとも、私は旅に出る。また旅に出てしまうんだよなぁ。

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