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渡瀬草一郎「源氏 物の怪語り」の感想~「物の怪」と紫式部~

 皆さんこんにちは、梓川いずみです。
 ぐだぐだしているうちに、いよいよ大晦日になってしまいました。来年はもっとバリバリ文章を書いていきたいものです。
 さて、先日最終回を迎えた今年の大河ドラマ「光る君へ」の主人公は、紫式部でしたね。放送開始前は「紫式部が主人公なんて地味じゃない?」「絶対コケそう」なんて思っていたのに、気づけば両親と共に夢中で見ていました。大河ドラマで泣いたのは、「光る君へ」が初めてだったので、終わってしまったのが寂しいです。

 さて、今回紹介する本は、「光る君へ」と同じく紫式部が主人公の物語です。年が変わって新しい大河ドラマが始まらないうちに、紹介しておこうと思います。
 タイトルは「源氏 物の怪語り」といいます。作者は、渡瀬草一郎先生です。

 古い本なので、リンクはkindle版に繋がっていますが、単行本もAmazonで購入可能です。
 では、内容の紹介に移りましょう。

1.どんな本なの?

 作者の渡瀬先生は、主にライトノベルを書いている作家さんで、「小説家になろう」では、「猫神信仰研究会」という名義で活動されています。
 だからこの本も、ラノベに近い雰囲気の作品です。
 主人公は、平安時代、中宮彰子の下で宮仕えをしていた頃の紫式部……もとい藤式部
 毎日を忙しく過ごす彼女には、ある秘密がありました。
 それは、幼い頃に亡くなったはずの姉が、自分の娘・賢子に憑依しているということです。
 姉はたまに賢子の身体を介して藤式部とコミュニケーションを取っていますが、他の人……賢子すらも姉の存在に気づいていません。
 姉は時に藤式部を揶揄ったり煙に巻いたりしますが、頼れる存在です。
 さて、姉の存在という大きな秘密を抱えた藤式部のもとに、ひょんなことから「物の怪」絡みの不思議な相談事が舞い込んできます。
 藤式部は姉の手助けを受けながら、伊勢大輔和泉式部中宮彰子赤染衛門といった宮中の人々と物の怪にまつわる事件に関わっていきます。

2.どうしてこの本を選んだの?

 この本は、もともと私の父が古本屋で購入したものでした。それで、「光る君へ」を見ていた私にも、読むことを勧めてくれました。
 大河ドラマでよく聴いている名前なのに、キャラクター造形はこの本とドラマで全く違っていて(当然ですが)、その違いが面白かったです。
 また、「光る君へ」ではカットされていた「紫式部の姉」の存在を取り上げているのにも感心しました。

3.心に響いた箇所はある?

 この本には、歴史に名を残す女流歌人が多く登場し、彼女らの詠んだ歌も物語を彩ります。やはり、そういう歌が心に響きましたね。流石、千年の時を超えて現代に伝わっているだけあります。きっと多くの人が、私と同じように、歌に心を動かされたのでしょう。
 ここでは、物語に登場する歌の中で、一番のお気に入りを紹介しようと思います。

いにしへの 奈良の都の 八重櫻 けふ 九重に にほひぬるかな

伊勢大輔

 この歌を詠んだのは、伊勢大輔という女流歌人です。彼女は伊勢神宮の神官の家系に生まれた女性で、この物語では、一番最初の章に登場します。
 物語の中の彼女はまだ年若い女官で、他の女官と馴染めずに自信を無くしている状態です。そんな中、物の怪絡みのトラブルに巻き込まれ、藤式部とその姉の力を借りることとなります。
 この歌が出るのは、自身を失っていた伊勢大輔が大きな成長を見せるシーンのため、読んでいて心が温まるようでした。
 また、当然ながら歌自体も素晴らしいものです。美しい八重桜や、華やかだった時代の奈良の都が目に浮かんできます。
 この物語流の解釈で描かれる、歌の登場シーンを、ぜひ楽しんでほしいです。

4.本について何を感じたの?

 ここで断っておきますが、この物語に出てくる「物の怪」は、天狗や鵺というような派手なものではありません
 人の心を映す鏡のような存在の「物の怪」を通して、藤式部は、関わる人々の心の在り方を目の当たりにすることになります。

 メジャーな妖怪がたくさん出てくるのを期待する方が読むと肩透かしを食らうかもしれませんが、私としては、「案外、ここに出てくるような『物の怪』の姿が、古来より恐れられてきた妖怪や幽霊の正体なのかもしれない」と思いました。
 誰しもが心にマイナスの感情を抱えていて、それは時に、何よりも怖いものに転じる……なんていう風に言えば、説得力があるのでしょうか。

 妖怪などとのド派手なバトルより、登場人物の心の動きなどに重きを置く人におすすめしたい小説です。

5.最後に一言!

 さて、前回よりかなり短い記事になってしまいましたが、読んでくださってありがとうございました。
 前回と同じように、この小説について感じたことの総括で終わろうと思います。

 大河ドラマとは全く違う、「紫式部のいた世界」を楽しめる作品です。「光る君へ」を楽しんだ方々なら、ドラマと比較してみるのも面白いでしょう。
 また、当時の女流歌人が遺した歌に触れられるのも、この物語の良い所だと思います。
 この物語ならではの「物の怪」の解釈とともに、歌の登場シーンも楽しんで欲しいです。

 もし読んでみたいという方がいらっしゃれば、こちらのリンクから詳細が見れますので、ぜひ見てみてください!


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