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DSDsの話.8-「中性漫画家A」に関する問題点-

はじめに

DSDs当事者としてのお話もいくつか記事を書けたらいいな、と思っています。本記事は全文無料にて公開しておりますが、何かしら参考になりましたらご支援頂けると助かります。

中性漫画家のAとは

インターセックス漫画家、中性漫画家、半陰陽の漫画家などとしてドキュメンタリー映画も製作している、性的マイノリティ当事者として日本では有名なAという人物が居る。この人物は過去の著書において、半陰陽の根拠は私の疾患であるターナー症候群であると言っているのだ。現在の著書では積極的に公にはしていないようであるが、Wikipediaには未だに記載があり、国立市が主催したセミナーでは未だに「男性化するターナー症候群」を主張していた。この人物について「調査不足」と指摘されたため、改めて振り返り「勉強」させて頂く。

「半陰陽」とは何を指すものだったのか

そもそも「半陰陽」とは何か。現在では差別用語であるため使用されないことには注意すべきだが、かつては46XYで精巣を持つ個体に起こる生得的男性の尿道下裂などの男性化不全や、AIS女性など男性化せず生得的女性となる疾患について「男性仮性半陰陽」と呼んでおり、21-OHD(CAHの一種)など46XXで卵巣を持つ個体に過剰なアンドロゲンの作用が生じる生得的女性の疾患について「女性仮性半陰陽」と呼んでいた。卵精巣性性分化疾患については「真性半陰陽」と呼んでいた。つまりターナー症候群はかつての「半陰陽」の概念には含まれておらず、ターナー症候群を根拠に「自分は半陰陽だ」というのは完全に間違っているのだ。全てのDSDsが「半陰陽」だったわけではないことは知っておかねばならないだろう。

ターナー症候群はDSDs/IS当事者か

 では、単にDSDs/IS当事者としてはどうか。一般的にターナー症候群は非典型的な性染色体を持つ先天性疾患であるため「DSDs」「性分化疾患」あるいは広義の「インターセックス」として認知されていることだろう。ターナー症候群=DSDs=(広義の)インターセックス、という認識については定義上誤りではなく、事実ターナー症候群も一部のアライによって「男でも女でもない核型」として利用されている現実もある(実際は女性の核型のバリエーションに過ぎないのだが)。しかし国立成育医療センターの堀川玲子医師によると、ターナー症候群は「ただの女性に起こる内分泌疾患」であるためDSDs/ISから除外されつつあるとのことである。

実際に小児慢性特定疾病の大分類では「内分泌疾患を伴うその他の症候群」であり、そもそも「性分化疾患」には分類されない疾患なのだ。したがってこのターナー症候群を理由に「インターセックス漫画家」を看板として活動すること自体、本来は不適切ではないだろうかと私は考える。ターナー症候群の本質や分類はただの、女性に起こる内分泌疾患だからである。
 ただしこの分類について「性分化疾患」に分類される他のDSDsが「男女どちらでもない」「男女どちらでもある」「グラデーションである」ことを意味するわけではなく、ヒトの生物学的な性別が雌雄以外に存在しないことは揺るぎない事実であることには留意されたい。繰り返すが、ヒトの性決定においては雄にならない個体は全て雌である。反証として馬鹿の一つ覚えのように用いられるNatureダイジェストの記事「揺れる性別の境界」は、Claire Ainsworthというフリーライターが書いた「読んでいると賢そうに見える、面白い科学読み物」でしかなく、権威のある査読論文ではない。記事の中でも終始「男女の中にある多様性」の話しかされておらず、実際に生物学的な性別がスペクトラムであることは全く示されていない。また「連続的」という言葉に関しての意図は様々な意見が出そうではあるが、実は著者であるフリーライター本人も「男女のバリエーションである」とは回答しており、少なくとも生物学的な性別が男女二元に基づくことは明確に回答しているようである。

ただ、この記事はDSDs人口の多くを占め、医学的知見が豊富なターナー症候群についての説明すら典型症例を無視した偏ったものになっており、当該箇所の参考文献は全く別の疾患のものであるため、全く参考にならない雑な記事だということに違いはないだろう。

そのため「中性漫画家」が「性自認がノンバイナリー」だけではなく「身体についてターナー症候群であることを含めて指し示している」のであれば、これは事実とは全く異なる看板であると言える(性自認であれば本人の内心の話であるため、他人が決められるものでもないだろう)。私の見解としては「ターナー症候群は性分化疾患から除外されつつあるため「インターセックス漫画家」の看板自体が不適当である」という結論であるが、これでは言い分の正当性について検討ができず、一言で終わってしまう。したがって以降は「ターナー症候群は性染色体の違いによりDSDs、あるいは広義のインターセックスに含める」という前提に基づいて話を進める。

Aの染色体異常について

 Aはターナー症候群の診断書を持たないが、染色体検査の結果は持っていると過去の書籍で述べている。Aが主張する性染色体異常とは、XかYかが不明な片方の性染色体の下半分が、ない!ということであるらしい。核型は46X,del(X)(q??)あるいは46X,del(Y)(q??)で、これは性染色体の長腕(=下半分)の部位不明な部分欠失であることを意味している。ターナー症候群で典型的な45Xのモノソミーではないが、諸症状を引き起こす「責任遺伝子」が存在する短腕(=上半分)の部分欠失であれば、ターナー症候群の診断は十分妥当と言える。しかし性染色体の「長腕欠失」であるAは、そもそもターナー症候群の診断基準を満たしていないことになる。X染色体の長腕欠失の多くは無月経以外の症状が出ないため、ターナー症候群との診断名は避けるべきとされているのだ。例外的に長腕の欠失で診断される場合は何らかの症状が出ていることは必須であるが、Aは高アンドロゲンによる男性化以外の症状を特に訴えておらず、これはターナー症候群の症状ではない
 XかYかが不明だと主張している性染色体について、Y染色体の短腕だった場合はSRY遺伝子が発現すると考えられる。その場合性腺は精巣となり、Aは基本的に男性として産まれるはずであるが、Aの出生時の性別は女性である。「Y染色体と停留精巣を持つ高アンドロゲンの女性」で思い浮かぶ疾患は主にAISということになるが、Aのアンドロゲン受容体が正常であることは現在の容貌から周知の事実である。大半を占める完全型の場合は全くアンドロゲンの影響を受けないため、男性ホルモン注射で「通常の女性よりも劇的に変化する」どころか全く効かないのが疾患の特徴であり、それこそが46XYであるAIS女性が生物学的にも女性と言える理由である。本人曰く、著書で示唆されている停留精巣も結局は婦人科の医師から否定されているそうだ。そこまで判明しているのであれば「性腺が形成不全で索状になっている」という指摘も特に無かったのだろう。やはりAについては、X染色体の短腕であると考えるのが妥当ではないだろうか。

Aの疾患にまつわる経緯について

 Aという人物は1971年に女性として生を受け、女性名については後年に改名したものの戸籍は現在も女性であり、2020年に男性と法律婚をしている。公称160cmのAは幼少期から体格がよく、思春期早発症のため8歳で二次性徴が起きたことを著書に記している。この二次性徴とは当たり前ではあるが、女性としての二次性徴のことである。つまり子宮を持ち卵巣も正常に機能しており、初経があったということだ。160cmという高身長は、X染色体の短腕があることで身長の伸びに関係するSHOX遺伝子が保持されているためだろう。また、X染色体の長腕には卵胞を維持するための遺伝子が含まれている。このためターナー症候群の諸症状のうち、原発性無月経については長腕部の欠失に起因しているとされるが、その長腕に欠失がありながらAに何の問題もなく初経が起こった理由は不明である。著書の記述通り無排卵であったとしても、それは一般的な女性にもよく見られる現象であろう。少なくともAの卵巣やその機能は維持されており、ターナー症候群のように卵胞が早期に失われることによる原発性無月経、早発閉経とは明確に異なる現象だと言える。
 高校生の頃に男性化し始めた身体は20代では風俗勤務の影響で女性に戻り、30代になると再び急速に男性化したのだそうだ。内分泌科で調べた結果「男性ホルモンの値が女性の10倍」だったため染色体検査を行うに至り、結果を待つ間に男性ホルモン注射を軽い気持ちで打ったが「通常の女性よりも劇的に変化し」後戻りができない外見となり、乳房についても縮胸手術を行ったそうだ。その後、染色体検査の結果でターナー症候群が発覚したとのことである。告知の際に「ターナー症候群は男性化しない」ということは医師もきちんと伝えたようであり、男性化の原因として別途浮上したのが過去の著書に書かれている停留精巣や副腎異常の可能性、という話なのだろう。しかし停留精巣の存在は本人によると後年に医師が否定しており、副腎の異常も30歳まで放置すれば致命的な結果を招くだろう。恐らく医師の正確な見解としては「男性化の原因は不明」ということであり、そのためY染色体の可能性が「Y染色体なのかもしれませんね」程度の話として苦し紛れに出てきたのではないか。しかしこのようなケースでは卵巣の形成自体も難しいそうで、Aに思春期早発症の既往があることとは完全に矛盾する。45X/46XYモザイクのケースで精巣の異形成がなく「ターナー症候群」と診断される場合の両側索状性腺について、一度形成された卵巣から卵胞が早期に消失したものではなく、性腺形成不全によるものと考えることは慶応義塾大学病院DSDセンターの長谷川奉延医師が示唆していた。
 そもそも染色体検査は外部の機関が行っており、主にG分染法を用いる。これは理科の実験と同じようにギムザ染色液(酢酸カーミンでも酢酸オルセインでもない)を用いて目視により観察を行うもので、転座などの構造異常も確認できる。外部の機関が請け負う以上「核型不明」で結果を返せば、まず間違いなく病院側は「どういうことだ」と杜撰な仕事に怒りを覚えながら再依頼などすることだろう。染色体の種類すら判別できないようであれば、細かな構造異常がG分染法で見つかるはずもない。それでもG分染法による性染色体の特定が難しかった場合、FISH法という標的とする遺伝子専用に作られた目印を用いて、染色体の状態をより詳細に観察する方法も存在している。もしAが言う通りの状態なのであれば、SRY遺伝子を標的にFISH法を行えばX染色体であるかY染色体であるかは容易に判明するだろう。医師が本気でY染色体を疑ったのであれば、この検査を行うはずである。また上端からX染色体のXp22.33の一部、Y染色体のYp11.31までに存在する性染色体のPAR1領域はX-Y間で相同であるため、例えY染色体だった場合もX染色体の場合と変わらないと考えられる。要するに上部のごく僅かな部分だけが残っていた場合、特定する意味はないのだ。それよりも下の部分が残っていれば、SRY遺伝子が発現するだろう。
 Aは他の医師が診断について「ターナー症候群はそのような病気ではない」と支持していないこと、また患者会から嫌がられがちであることについて明かしており、そのことに対して「日本の医師は杓子定規で例外を学ばない」「男女どちらかとして生きたい人以外を受け入れてくれない」と、あたかも排除された被害者であるかのように不満を漏らしている。トランスジェンダーのアライが支持しているようなポーザーインクルーシブなインターセックス団体は、このような「自称」当事者を「男女二元論のせいで排除されたマイノリティ」として捉え、「男女二元論でないために患者会に入りづらい人達」の受け皿になろうとしているのだろう。逆にポーザーを警戒する真っ当なDSDs/IS当事者に対しては「診断名に固執している」「医師でもないのに勝手なことを言う失礼な人」と判断し、排除したがるのだ(特に入りたくはないが)。しかし「Y陽性のケースで男性化している場合はターナー症候群ではない」という医師の見解は、ターナー症候群の患者家族会が自由閲覧用に提供していた古い書籍にすら既に記載されている事実である。ただしA本人もターナー症候群の概要や責任遺伝子の所在と典型症例について、一応知らないわけではないようである。

Aが男性化した原因について

では何故Aは「通常の女性の10倍の男性ホルモン量で男性化」したのだろうか。それはやはり、自ら男性ホルモンを打っているためではないだろうか。「ホルモン検査時には打っていなかったはずだ」という反論が考えられるが、男性ホルモン注射が検査後になっているのは現在の著書での話である。実は過去の著書では、ホルモン量を検査する前に男性ホルモンの注射を受けた記述も存在するのだ。このタイミングについては諸説あるとするのが一番正確であり(本人の著書にも関わらず「諸説あり」というのも変な話だが)、もしも検査前に自分で打っていたのであれば、男性ホルモン量が多いのは当然のことであろう。ターナー症候群では男性ホルモンが過多になるということはなく、患者会の自由閲覧書籍には「卵巣が機能しないケースではアンドロゲンの量はむしろ少ない」とすら書かれているのだ。これはエストロゲンの材料がアンドロゲンであることが関係すると考えられる。「ターナー症候群は男性化する」と言われていたのが昔の話であり、「ターナー症候群は男性化しない」というのが現在の新しい知見なのだ。

Aはターナー症候群と診断されたのか

 結論から言うと「Yes」である。A本人も染色体検査の結果はあると言っているため、実際に性染色体に何らかの異常があったかもしれない。ただしこれは実際にターナー症候群の例外的な症例であるという意味ではなく、「診断だけは持っている可能性がある」という話に過ぎない。Aの主張によると、医師の診断は「違う形だけど、ターナー症(候群)のくくりに入れるしかないのかな(原文ママ)」という非常に雑なものだったらしい。Aの場合は前述の通り検査前に自ら男性ホルモンを打っている可能性が高いが、そうとは知らない医師には男性化の原因が分からない。そのため昔の「男性化するターナー症候群」という偏見的なイメージから導き出した、苦し紛れの発言だった可能性がある。あるいはAはDSDs/ISの診断をフレキシブルにすべきだと憤っているため、「おっさんになっているのに診断名が、ない!というのは困る」と何らかのDSDs/ISに該当する診断名が付くよう、医師に強請った可能性がある。その結果、「そこまで言うなら、強いて言えばターナー症候群にしておくしかなさそうだけど…」と半ば強引に疾患名を引き出したか、忖度させたという可能性も大いにあるのだ。このような事情であるなら、停留精巣の疑いを示唆されたと著書にあるにも関わらず本人曰く「検査は不要」と判断されたという医師の対応も頷ける。Aの発言がどれだけ当時の医師の発言を反映しているのかは判断しかねるが、そのままなのであれば医師は「ターナー症候群と診断」する意図で発言したわけではなく、診断書が無いのもそのためかもしれない。疾患がアイデンティティになっているワナビーは融通が利かない医師に対して強く憤り、望む診断結果を得られるまで執念深くドクターショッピングを繰り返す場合もあるのだ。あるいは医療不信と称して、医師の診断を得ないままポーザーと化する場合もあるだろう。ターナー症候群であれば知見も豊富であるため、大学病院なら何処でも診てもらえるだろう。
 またターナー症候群については極めて雑な診断がされていた過去もある。そのためAのケースのように「性染色体異常のごみ箱」のような扱いをされたり、別の疾患が「ターナー症候群」に化けている可能性は否定できないのだ。こちらは毎日新聞社の「境界を生きる」という本で取り上げられた「睾丸のあるターナー症候群」の話が該当する。前述の通り45X/46XYモザイクのケースは異形成の精巣の有無で区別するとのことなので「睾丸のあるターナー症候群」は実態としては存在しないのだ。

おわりに

 私は自身の疾患についてあのような話が出回っていることなど、2021年頃までは全く知らなかった。「男性化する」という誤った情報には非常に驚かされ、ターナー症候群を看板にしている作品が低身長や不妊、合併症という当事者が抱える問題にフォーカスしたものではなく、何故か「中性漫画家」による性的に奔放な姿を強調した内容になっており、同じ疾患を持つ当事者としてはそのことに深くショックを受けた。疾患に塗りつぶされた私の思春期を愚弄され、Aのおもちゃにされていることがひたすら悲しかった。Twitter上には実際に誤った言説が多数存在しており、海外ではあからさまに「男女以外」と定義されている。

これは当事者自ら正しい情報を積極的に発信することから始めなければならないのだな、と思い至るものの「トランスヘイター」「"DSDsの症例"は人それぞれ」「あなたは医者ではない」「言論統制だ」「糾弾されて恐い」などと、実にありとあらゆる属性の人々から怒られ、時には一部のDSDs当事者からも「インターセックスをアイデンティティにしたい人も居るから、主語を小さくして個人の一意見として発信すべき」と苦情を出され(DSDsに含まれる全ての疾患が「生殖器関連(≠性別関連)の疾患」や「染色体異常」「内分泌疾患」など身体の病気でしかないことや、ヒトの生物学的な性別に雌雄しかないことは単なる事実であり、別に私の「意見」ではない)、張りぼての
「多様性」が謳われる風潮の中では疑惑の人こそが積極的に擁護され、私のような者は「差別者」として糾弾あるいは排除され、「黙れ」という圧を受けるのだな、と虚しくなった。
 あるいは「あなたは明らかにAよりも若いので時代の問題」「A本人も執筆当初から状況は変わったと言っている」と反論があるかもしれないが、決して時代の問題ではない。12歳である2003年に検査を受けた私と、30歳である2001年に検査を受けたとされるAは同時期に疾患が発覚しているにも関わらず、私の知らない「ターナー症候群」がそこにあったことは伝えておきたい。出生時に判明するDSDsに関する性別判定など、ここ数年で進歩したと言われるものは確かにあるだろう。しかしDSDsの大手疾患とも言うべきターナー症候群についてはAが診断された当時から、既にある程度の知見はあったと考えられる。それは地方の大学病院で、私自身が主治医から適切な説明を受けられたことがある程度証明しているだろう。最後に付け加えておくならば、私はAの人間性については特に嫌いではない。最低限「半陰陽の漫画家」「中性漫画家」というのはやめて、自身をきちんと「FtXの漫画家」「ノンバイナリーの漫画家」だと説明してくれさえすればいいのだ。ターナー症候群についてはあれだけ広まっているので診断書と、内分泌科の医師から診断に至った経緯の説明が欲しい。あるいは本当に「男性化するターナー症候群」という新症例(雑な診断ではなくて?)であるのなら、きちんと研究されてほしい。望むことはそれだけなのである。配偶者の件とか色々あったけど頑張れA、負けるなA。ただし疾患についてはちゃんとクリアにして下さい。

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