DSDsの話.4-国連によるファクトシートの問題点-
はじめに
DSDs当事者としてのお話もいくつか記事を書けたらいいな、と思っています。本記事は全文無料にて公開しておりますが、何かしら参考になりましたらご支援頂けると助かります。
インターセックスファクトシートとは
国連が出している"インターセックスファクトシート"なるものが存在するらしい。当事者であるにも関わらずその存在を全く知らなかったが、以下のリンクがそれであるらしい。
さすがに「インターセックスとは男女どちらでもない性別である」などとあからさまな内容でこそないものの、やはりおかしな点は見受けられた。
男性・女性という二元的概念に当てはまらない性特性
まず第一に、こちらの冒頭の文章をご覧頂きたい。
翻訳の影響もあるかもしれないが、”男性・女性という二元的概念に当てはまらない”という部分は、やはり第3の性別という誤ったニュアンスを強く感じさせるのではないか。正しく言えばDSDs/ISとは「疾患の影響で通常とは一部異なる身体特徴を持つ男性、女性」のことである。多指症や内臓逆位などはヒトという概念に当てはまらない身体なのだろうか?そんなことはない、指が6本でも8本でも当然ヒトの身体である。そのことは疑いようもなく、特に承諾を得ずにヒトとして扱うことは失礼でも人権侵害でも何でもないのではないか。むしろ「あなたをヒトとして認識しても大丈夫ですか?」などと聞く方がよっぽど失礼なことである(失礼)。内臓の配置が真逆になっていたところで「ヒトであると決めつけないでほしい」などと内臓逆位の人が思っているだろうか?私自身もX染色体がどうこうの前に、通常46本であるべき染色体が45本しかない、あるいは47本もある細胞しか持っていない身体であるわけだが、こちらに関しては何故か「ヒトの概念に当てはまらない身体だから、ヒトという固定観念に囚われなくてよい」などと言われることは全くないのだ。ダウン症も常染色体である21番染色体のトリソミーであるが、ヒトとして扱うべきか否か(失礼)なんて議論の余地がないことは当然である。そんなものは話し合わなくても、100%ヒトである。X染色体=女性、Y染色体=男性、卵巣=女性、精巣=男性といった先入観こそが取り払われるべきなのであり、それこそが正しい多様性のあり方ではないか。なおこの一文においても私はDSDsの話にしか触れておらず、トランスジェンダー女性をめぐる論争については一切言及していないことは再度注記しておきたい。例えばXXYを身体両性として、X0を身体中性、あるいは身体無性として、男女二元論に囚われることなくその身体は尊重されるべき、などという考え方は多様性でも何でもないのだ。XX=女、XY=男という先入観のせいでXXY=両性、X0=中性、無性などという事実を無視した等式が成り立つのだから、XXYも男性であり、X0も女性であると学ぶことこそが真に多様性を考慮することであると言えよう。
インターセックスの人々の性的指向や性自認について決めつけないこと
次にこちらをご覧頂きたい。
一番引っかかった内容はこれである。これについては翻訳を通していることを抜きにしても、何故DSDs/ISに限定されているのかが全く理解できなかった。これは誰に対してもそうあるべきではないのだろうか?何故"インターセックスの人々"といちいち書かれているのか、その正当性について納得のいく説明が欲しいところである。はっきり言って、これはかなり迷惑だ。「インターセックスのファクトシートなのだから、その前置きは当然だし問題ない」と答える人が居るかもしれない。そうであるならばそもそも何故、万人に適用されるべき内容を、インターセックスのファクトシートにわざわざ、あたかもDSDs/ISであることが性的指向や性自認に影響しているかのように載せているのか。インターセックスのファクトシートだから全てに"インターセックスの人々は"を冠する必要がある、というのであれば、いっそ載せないでもらいたい一文である。DSDs/ISが性自認や性的指向に影響している、DSDs/ISの性別、あるいはDSDs/ISであることそのものが自認によるものである、またはそのような特殊性別であるといった具合に曲解されかねず、それこそが真にDSDs/ISが直面している差別や偏見、誤解だからである。繰り返しになるがDSDs/ISにおける性別違和は、非DSDs/ISと変わらないか少ないのである。
その通りだと感じた部分について
これについては国連の言う通りであり、キャスター・セメンヤはそのような問題に直面しているDSDs女性の代表であろう。これでパフォーマンスの向上云々について議論する必要があるかと言われると、あまり必要ない気もする。また、セメンヤさんを見てDSDs女性=中性的な容姿と捉えてしまう方も居るようなのだが、彼女のようなケースはDSDs女性の中でもそれほど多いものではないことは伝えておきたい。
全体を通して感じたこと
終始手術や性別修正手続きの話ばかりが執拗に取り上げられていることが気になった。国連は少なくとも、インターセックスである私の身体に必要な情報はあまり書いてくれていないようである。私の場合は手術が不要であるため、手術の実態について事細かに知っているわけではない。ただDSDs/ISが受ける手術で真っ先に思い浮かぶのは、性腺を摘出する必要があるケースである。これについては索状性腺や停留精巣などガンになる恐れが高いものを取り除いている、というだけの話である。前の記事で述べた通り、使われなかったテストステロンはエストロゲンに変換される。そのためAIS女性など、二次性徴発来のために停留精巣をしばらく残置しておくケースもあるようである。また、その他の手術においても非人道的な話は特に聞いたことがない。過去にはジョン・マネーの件などがあったようだが、現在では当然そのようなことは行われていない。特に手術を必要としないDSDsも多く存在するにも関わらず、手術=人権侵害という話ばかりが繰り返されているのは何故なのか。全体を通して甚だ疑問であった。
性別修正手続きについても現在では性別判定がより緻密に、正確に行われるようになったと聞く。これについても私自身性別判定が不要であった(身体を見るだけで女児と判断できた)ため、実態の詳細を知る立場ではない。性別の修正とは全く無縁であるDSDsは、やはり多く存在する。そのような立場から明言できるのは、円滑に性別を修正できること以上に重要なのは、性別判定の検査を要する症例において、そもそも正確に性別が判定できることではないか、ということである。何故「より正確な性別判定に努めること」という文言を抜きにして「性別表示の修正手続きを円滑に行うこと」が書かれているのだろうか。全く理解に苦しむ。
当事者として国連のインターセックスファクトシートに一通り目を通してみたが、このようにDSDs/ISにとって真に大切なことが見落とされており、誰かの見たがるものしか見えていない気がしてならない、と強く感じた。DSDs/ISであることを理由に差別されてはならないという話は全体を通して書かれており、それはもちろん当然であると感じるが、我々の感じている差別とは何か違うものを見ているのではないか?との懸念を抱かせるような内容であった。
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