盲導犬エルとの家族旅行in函館
12月2日、3日と初めての家族旅行で函館に行ってきました。エルと一緒の初めての遠出、私たち家族だけの初めての旅行です。旅行記を残したくて書き始めたのですが、6000文字を超えました。写真には画像説明を入れています。目次を作っているので興味のあるところから読んでいただければと思います。
旅行までのお話
9月の終わりころ、立て続けに5人以上から
「ラビスタ函館ベイっていうホテルがあるんだけど、海鮮盛り放題の海鮮丼がすごくおいしいんだよ」
と聞く機会がありました。行った人全員が
「すごいいいホテルだったよ」
とエピソードを教えてくれたのです。海鮮丼、温泉、部屋でのリフレッシュタイム、どれも魅力的なものばかり。公式サイトによると、ラビスタ函館ベイの朝食は、2012年から2019年まで7年連続、口コミで北海道一位だったとのこと。
その頃立て続けに気持ちが落ち込む出来事があった私は夫に
「一人でリフレッシュに行きたい」
と話したところ
「どうぞどうぞ」
と言ってくれたので、一人で行くつもりで調べ始めました。ですが、現地で誘導をサポートしてくれる人が見つからず、行くことを断念しました。じっくり探せば見つかったのかもしれませんが、そこまでエネルギーがなかったのが正直なところです。新幹線でも飛行機でも、駅や空港の方のサポートをお願いして函館まで行くことはできます。でも、そこから一人で知らない場所で買い物や観光をすることが難しいなと思ったのです。ナビを使ったり人に尋ねればできるかもしれませんが、ストレスなく楽しみたいと思っている旅行と言う非日常で、視覚障害者ということを突き付けられるのは気が重いのが正直なところです。そんな理由で一人で函館に行く話は一度白紙になりました。
それから数週間後。飲みながら何気ない夫との雑談で、12月2日の私の誕生日と15年目の結婚記念日が土曜日であることがわかりました。毎週土曜日は産業カウンセラーの学校があるのですが、その日はお休み。
「北海道行きますか?」
という夫の一言で今回の旅行が動き出しました!大学時代に一度行ったことがある函館、20年ぶり二度目です。
新幹線と飛行機での旅
夫は気圧が抜けにくい体質で、飛行機に乗ると半日ほど耳が聞こえにくくなり、頭痛にもなるとのこと。せっかく旅行に行っても体調不良で楽しめないのでは残念なので、行きは東京から新函館北斗まで新幹線で行き、そこから在来線で15分ほどの函館駅に向かうことにしました。帰りは長く函館にいた方がいいだろうと夫が言ってくれ、飛行機で函館から羽田に帰ってくることにしました。フライト時間は1時間10分ほど。
新幹線で出発
東京駅でコーヒーを買って、8時20分の「はやぶさ」で函館に向け出発。
車内での4時間を持て余すかなと思っていたのですが、あっという間でした。
録画しておいたテレビを何本もスマホに転送しておいたのでそれを見たり、XやFacebookにいただいたお誕生日コメントにお返事を書いていたら、4時間という時間を感じませんでした。停車駅のアナウンスを聞くのも新鮮で、今どこにいるかが分かって旅行している実感を持てました。青函トンネルに入る前に、社内アナウンスで距離や歴史を話してもらえたことも、気持ちを盛り上げてくれました。新幹線の中でのエルは私たち3人の足元に伏せていました。周りの方も優しくて嬉しくなりました。通路側に座っていた私に、通路を挟んで反対側に座っていた女性が声をかけてくれました。
何かと思っていたら
「わんちゃんの尻尾がちょっと通路にはみ出してるんです。踏まれたら危ないので」
と言ってくれました。触ってみると確かに少し通路にはみ出していたので、内側に動かしました。他にも
「賢いね」
「盲導犬だ、すごいね」
との声にいつものように誇らしい気持ちになりました。こういうちょっとした声掛けが嬉しいなと感じます。
函館に到着
東京駅から連絡してもらっていたので、新函館北斗に到着すると駅員さんが出迎えてくれました。新幹線を降りて最初に感じたことは
「冷凍庫の中にいるみたい」
でした。それぐらい東京とは気温差が大きく、北海道に来たんだなと思いました。iPhoneで気温をチェックすると、体感温度はマイナス二度でした。誘導してくれていた駅員さんに
「すごい寒いですね!」
と言うと
「いえいえ、今日は暖かいですよ」
との答え。1・2月はどこまで気温が下がるのでしょうか。
在来線に乗り換えて、JR函館駅に13時頃到着しました。三両編成で手動でドアを開閉する電車も新鮮でした。
私たちの心配の種
到着して、まずはエルの排泄です。盲導犬の排泄は腰にベルトを付けて、ベルトに袋を通しています。夫の
「排泄していいよ」
という指示に寄って、排泄スタート。
排泄物は袋に入るので、それを持ち帰るという流れになっています。エルが慣れない場所で排泄してくれるか心配していました。
外の方が排泄しやすいこともあり、駅を出たところの植え込みを娘が見つけてくれてそこでスタート。
「ふんふん、ここが北海道か」
周囲を観察して、時々積もった雪を食べ、氷を舐めつつ排泄完了です。全員でめちゃくちゃ褒めました。
ラッキーピエロへ出発
函館と言えば有名なラッキーピエロ。函館にしかないファストフード店です。
駅員さんに教えてもらい、近くのお店に向かいました。顔には冷たい風、足元はところどころ積もった雪とあちこちの路面凍結。私と娘が前を歩き、夫とエルが後ろから来るというスタイルで歩いていました。娘としゃべりながら歩いていたときのこと。
あっと思ったときには見事に滑って後ろに転倒した私。
ツル、ドーン!という効果音がぴったりです。リュックがあったのでまともに背中を打つことはなかったこと、手袋をしていたので手をすりむくこともありませんでした。あまりの衝撃に爆笑する私。足元が滑って立ち上がるのもやっとです。そこへ
「大丈夫ですか?」
と声をかけてくれた男性。
「はい、大丈夫です」
と答えながら立ち上がりました。
「凍ってるから気を付けて」
と言ってくれた後に
「実は、僕の妻も視覚障害者で、これから視覚障害者の集まりに行くんですよ」
とのこと。こんな偶然があるなんて。旅行で東京から来たことを話しました。
お礼を言って少し歩いたところで、ラッキーピエロに到着。
一番人気のチャイニーズチキンバーガーセットを頼みました。
レジのところには盲導犬の募金箱もあり嬉しくなりました。
ホテルに向けて出発
お店を出て、ホテルに向かうことにしました。私と夫はこの凍結具合もあるし、娘が大変だろうと思い駅に戻ってタクシーで行こうと提案しました。タクシーだと3分で到着です。でも、ナビを見ていた娘が
「歩いて行けるよ!」
と言ったので
「じゃぁ歩こう!」
となりました。徒歩15分ほどです。ホテルに向かう道中でまたも私転倒。今度は右側にあったスロープに足をとられ、ズルズル・・・ドーン。これ、どうやって立ち上がればいいの、という感じでしたが、娘に引っ張ってもらってなんとか立ち上がりました。痛かった。三回転ぶのは嫌だと思い、ゆっくりゆっくり歩いてホテルに到着しました。
ホテルでのんびり
チェックインのときに、明日の朝食バイキングは私と夫、それぞれにスタッフの方が付いてくださることになりました。事前に電話でお願いしていた通りでほっとしました。以前ここに泊まった全盲夫婦の友人も、それぞれにスタッフの方が付いてくださったと教えてくれました。
「館内の移動はお手伝いさせていただきます。何か困ったことがあればいつでもフロントにご連絡ください」
と言ってくださったのが、本当に嬉しく心強かったです。部屋に入ってからは夕方までのんびり過ごしました。
夜の散歩へ
夕食は友人二人から勧めてもらっていた函館麦酒というお店に行く予定でした。でも、昼間のラッキーピエロのハンバーガーがかなり胃に残っていることもあり、全員何も食べられそうになくお店をキャンセルしました。前日から始まっていたクリスマスのイルミネーションが部屋から見え、18時から3分ほど上がった花火を9階の窓から見ることができました。しっかり音も聞こえ、空気が澄んだ冬の空に上がる花火もきれいなんだろうなと思いました。
少しホテルを出て娘と近くのお店を見て回りました。お土産を見たり、クリスマスツリーの写真を撮ったりして過ごしました。行きかう人の言葉が東京とは違うのを感じるのも旅の醍醐味です。少し小腹が空いてきたこともあり、ホテル近くのラーメン「あじさい」へ。
口コミでも評判が高く、行けたらなと思っていたお店でした。このお店は北海道を中心に7店舗あり、東京にお店はありません。
私と娘は同じ塩バターコーンラーメンを頼みました。味玉やチャーシューも入っていて、さっぱりとしたスープに細めの麺、とてもおいしかったです。身体も温まりました。
ホテルの温泉へ
部屋に戻って楽しみにしていた温泉へ。事前にお願いしていたこともあり、ホテルの方が大浴場まで一緒に行ってくれ、中の様子を説明してくれました。シャンプーもいくつか置いてあるものの中から好きなものを持って入っていいこと、化粧水や乳液やヘアオイルも自由に使えること、お風呂上りに飲めるようにりんご酢も置いてあることを教えてもらいました。考えてみると、娘と一緒に大浴場に入るのは初めてです。露天風呂にも入りました。外の寒い空気を感じながら、温かいお湯に入っている時間はとても幸せでした。
お風呂上がりのお楽しみ
大浴場を出たところにあるフリースペースではアイスが食べ放題とのこと。娘はこれをとても楽しみにしていました。色んな味のアイスキャンディーを食べながら、一日目の旅行を振り返りました。
アイスを食べている娘の写真を私が撮ることもできました。
朝二度目の露天風呂へ
二日目の朝。すっかり温泉が気に入った娘のリクエストで、朝もう一度お風呂に入りました。
露天風呂に入っていたときのこと。鴎の鳴き声が聞こえてきました。娘が
「朝日がすごくきれいだよ」
と教えてくれました。露天風呂に朝日に鴎の鳴き声、旅行満喫です。
楽しみにしていた朝食バイキング
私が一番楽しみにしていたのは、朝食バイキングです。夜ご飯が食べられなかった夫も復活し、3人でレストランに向かいました。私と夫それぞれにスタッフの方が付いてくれるということで、エルは部屋でお留守番させることにしました。持ってきたフワフワの敷物の上に伏せさせ、リードでつないでいきました。
バイキングのサポートをしてくださったスタッフの方はとても丁寧で、今目の前に何があるか、人が何人並んでいるか細かく教えてくれました。おかげでとてもおいしく食事をすることができました。私はお刺身の中でイカが一番好きなので、たくさん食べようと思っていました。
ホテルの方に作ってもらった海鮮丼にはイカとネギトロとサーモンをのせてもらいました。イカはもちろんおいしかったのですが、サーモンがこれまで人生で食べた中の一位でした。柔らかくて口の中に入れるととろけそうな味でした。他にも、イカのバター明太炙り焼き、さつまいものレモンに、グリル野菜、北海道かぼちゃのスープ、出し巻き卵、山芋のお漬物など少しずついろんなものを食べることができました。もちろんデザートには北海道のアイスクリームも食べました。夫も楽しみにしていた海鮮丼を満喫し、娘も好きなおかずやスイーツを楽しんでいました。改めて、サポートしてくださった方々に感謝しています。尋ねたところ、お二人とも視覚障害者のサポート経験はないとのことでしたが、素晴らしいサポートにお礼をお伝えしました。夫と娘が先に部屋に戻り、私はゆっくり食べていたこともあり一人残りました。コーヒーを飲んでいると隣のテーブルに座った男性二人組の話し声が聞こえてきました。たぶん20代であろう二人は
「うまっ!やばっ!これやばっ!」
を繰り返していました。海鮮丼を食べているのかなと思いつつ、一人ゆっくり時間を過ごしました。
早く食べ終わった夫と娘はエルが気になっていたようです。
部屋に戻ると出たときと同じ場所でしっかり伏せて待っていたとのこと。褒めまくったことは言うまでもありません。私も食事を終え、部屋に戻りました。
ホテルの方への感謝
ホテルの方にお礼をお伝えし、夫が盲導犬のパンフレットとステッカーを渡しました。実はこのホテルにこれまで盲導犬とユーザーが宿泊したことはありませんでした。何事もなく盲導犬第一号として宿泊を終えられてほっとしました。
今回誘導してくださった何人ものスタッフの方、丁寧に食事を説明してくださった方、おかげで本当にすてきな旅行になりました。エルにも
「かわいいね」
「お利口だね」
と声をかけてもらえて嬉しかったです。ラビスタ函館ベイ、また家族で訪れたいと思います。
お土産選び
ホテルからすぐのところに大きなお土産屋さんがあると教えてもらいました。私がナビで調べても数十メートル先と出ました。夫とエルはホテルのロビーで待っているとのことで、娘と二人で出かけました。
ある程度事前に調べておいたお土産もありましたが、娘とじっくり店内を見ながら発見したものもたくさんありました。これは誰に渡そう、こっちは誰に渡そうと話しながらたくさんお土産を買うことができました。
タクシーで空港へ
車窓から海を見ながら函館空港に向かいました。空港では娘とお土産を見て少し時間をつぶしてから搭乗です。
エルは初めての飛行機です。航空券を予約したときに盲導犬がいると伝えると、一番前の座席にしてもらうことができました。事前に訓練士さんに機内での過ごし方をうかがっていたのですが、新幹線や電車と変わりないとのこと。気圧の関係で小さな声が出る子もいるかもしれないとのことでした。ANAのカウンターで盲導犬使用者証を見せて搭乗手続きをしました。
機内では娘と夫が隣に座り、その前にエルを伏せさせました。私は通路を挟んで反対側に座りました。
離陸してしばらくしてから夫にエルの様子を聞くと、変わりなく伏せているとのこと。とくに鳴き声を出すこともなく、無事羽田空港に着陸しました。出迎えてくださった空港スタッフの方の誘導で、自宅方面に帰るリムジンバスまで誘導してもらうことができました。あっという間の函館旅行、みんな元気に自宅に帰りつくことができました。
感じた見守りの目と温かい声掛け
今回の旅行が初めてのエルとの遠出だった私と娘。たくさんの人から
「かわいいね」
「すごいね」
と声をかけていただきました。中には好意的でない言葉も聞かれましたが、明らかに「温かい声掛け」の方が多かったのを感じています。こうして見守りの目を向けてもらうことが、盲導犬とそのユーザー家族にまで温かい気持ちを運んでくれていることを改めて感じた旅行になりました。
盲導犬ユーザーのホテル宿泊のハードル
補助犬法によって盲導犬はどこにでも宿泊でき、どの飲食店にでも入ることができるようになっています。ですが、実際は盲導犬がいることで宿泊や入店を断られることが少なくありません。エルが来てまだ1年と少しですが、私たちも何度か経験があります。
いつでもユーザーと盲導犬がどこにでも宿泊できるようになればと思います。
まとめ
今回初めての家族3人とエルの旅行でした。
「今度は滑らないように靴を買おう」
「次はもっとサーモンを食べたい」
「アイスとラーメンが食べられなかったのが残念」
など3人それぞれに話しています。今回出かけられたことで、エルと一緒に遠出ができるんだと自信になりました。
年に一度はみんなでどこかに出かけたいなと思います。最期まで読んでくださった方、ありがとうございました。
最後に今回の旅行の様子をYouTubeで配信しています。こちらも合わせて見ていただけると嬉しいです。