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【山梨県立考古博物館】交流展「富士山をのぞむ人類の登場と縄文芸術」を見に行く

はじめに

 「山梨県立考古博物館」(以下、考古博物館)は、甲府市の南部、中央自動車道甲府南ICの前に所在します。この一帯は曽根丘陵と呼ばれ、旧石器時代からの遺跡が数多く分布している地域です。
 至近には丸山古墳と銚子塚古墳があり、銚子塚古墳の史跡整備に併せて一帯は「曽根丘陵公園」(甲斐風土記の丘)として整備されました。考古博物館の開館は1982年(昭57年)です。
 「曽根丘陵公園」の所在地は中道町でしたが、2006年(平18年)に中道町は上九一色村の北部とともに合併により甲府市の一部となっています。

「曽根丘陵公園」(甲斐風土記の丘)

 曽根丘陵公園の一帯は東山古墳群と呼ばれ16基の古墳があり、そのうち県内最大規模の銚子塚古墳(前方後円墳)と丸山塚古墳(円墳)が整備されています。その2基の古墳の隣接地に考古博物館があります。
 また、丘陵の上に移動すると、遊具広場があり、さらに考古博物館の付属施設として1989年(平元年)に開館した「風土記の丘研修センター」があります。こちらは、土器づくり教室、講演会などに利用されています。

マップ上部に2基の古墳、その下のに考古博物館、左側に風土記の丘研修センター


山梨県立考古博物館

 山梨は公共交通が脆弱で車でのアクセスが中心となるため、こちらにも大型バスのスペースも備える大きな駐車場があります。復元家屋を見ながら考古博物館の建物に沿って舗装道を進むとントランスが見えてきます。

縄文時代中期の住居を復元
少し場違いな、日本宝くじ協会寄贈のナウマンゾウ
考古博物館の入り口へ

 夏休みや観光シーズンには、親子連れや観光客の姿も見られますが、普段は見学者も少なく静かです。
 エントランスロビーを正面に進むと常設展の入口がありチケットカウンターがあります(消毒、チェックシートあり)。
 またエントランスロビーの右手奥にミュージアムショップがありますがそちらは、協力会のボランティアが携わっています。

常設展示

  常設展示は、旧石器時代から始まり近世の甲府城の出土品まで時代を追って紹介しています。特に縄文時代と古墳時代に関する資料が多いです。

進むとチケットカウンタと常設展入口

 一の沢遺跡(笛吹市境川町)と酒呑場遺跡(北杜市)の展示があります(いずれも重要文化財)。一の沢遺跡の土偶「いっちゃん」もここにあります。

奥にケースの一の沢遺跡と酒呑場遺跡

 旧石器時代の道具の展示の中に黒曜石の掻器の再現がありました。「製作武藤雄六氏」とあります。本年初めに亡くなられた井戸尻考古館初代館長の武藤氏です。ふと、井戸尻の縄文体験のとき黒曜石の矢じり作りをじっと見守っていた姿が思い起こされます。

武藤雄六氏製作の搔器

 さらに進むと土器が並びます。重要文化財の深鉢型土器(殿林遺跡・甲州市塩山)がケースに鎮座しています。さらにその先に土偶があります。

土器の並ぶ姿は圧巻
レプリカも多いですが県内の土偶を一堂に見られます

 弥生時代に進むと、農耕具や弥生土器が並びます。復元品の銅鐸を実際に鳴らすことができます。また、容器型土偶があります。

中央の奥がつい鳴らしてしまう銅鐸
県指定文化財、岡遺跡(笛吹市)の容器型土偶

 古墳時代の展示は隣接する甲斐銚子塚古墳の解説や、副葬品の展示、円墳のカット模型などがあります。

壁面展示ケースの2枚の写真パネルは甲斐銚子塚古墳の昔と今の姿

 甲斐国分寺、墨書土器、甲斐源氏関連など、奈良、平安、鎌倉の甲斐の国の出土品がが続きます。

甲斐国分寺に関する資料など

戦国時代から江戸時代については、甲府城の出土品や甲州金などがあります。甲府城については、明治政府によってワイン醸造所とされたことを示す出土品などもあります。

この先が常設展出口

山の州文化財交流展「富士山をのぞむ人類の登場と縄文芸術」

 今回の訪問の目的はこちらの見学です。
 長い展示会タイトルではありますが、静岡・長野・新潟・山梨の中部4県を「山の洲(くに)」としてとらえ、その中の「山の洲文化財交流事業」によるものです。
 静岡県からの交流展示で、山梨では、静岡の旧石器時代・縄文時代の出土品を展示するという内容です。
 もともと山梨と長野は中部高地の縄文として、さらには日本遺産「星降る中部高地の縄文世界」としてすでに連携しているのですが、それに比べ静岡との文化財の連携、交流は少なかったと思います。
 背景には中部横断自動車道が山梨と静岡の間で全通したことにより、両県がこれまでよりもぐっと近い存在になったことで観光はもちろんのこと、文化財の分野でも交流を盛んにしたいのだと思います。あと、中部4県なのになぜか新潟は今回対象ではありませんでした。

「静岡版水煙文土器」のチラシ
企画展示室、この展示だけの見学なら無料

 前置きが長くなりました。静岡県からの展示は旧石器時代と縄文時代の2本柱です。
 まず旧石器時代の展示です。山梨ではあまり旧石器時代の遺跡はないため
これだけの分量や違いに驚かされます。信州の黒曜石はもちろん、岐阜の下呂石など出土する石器の産地から広範囲のつながりがわかります。

神津島の黒曜石からは航海術をもっていたことが伺えます

 水晶製の石器もありました。しかし、加工が難しいため水晶の石器は少数派です。

水晶は山梨県産の可能性が高い

 ほかに、多数見つかった旧石器時代の陥穴(おとしあな)や、地層、旧石器時代の人骨の展示が続きます。

地層についての展示

 次に縄文時代の展示です。縄文時代の交流といえば、土器の形や文様からその様子が伺えます。中部高地で多数見らる水煙文土器は、静岡ではほとんど出ていません。わずかに出土してもどことなく違うのです。東北地方の土器の影響を受けていたりするそうです。ほかに、作り方は関東式なのに文様は関西式の土器や、どことなく異なる抽象文土器などもあります。

水煙文土器なのに東北の影響が

 また、山梨ではあまり見られない岩偶や軽石製品の展示があります。用途はわかっていないそうです。さらに極めつけは謎の大型の矢じりです。先端は丸くして刃を殺してあるので実用向けではありません。

通常の3倍?、もっと大きいです

 長野からの展示はミニ展示ですが、エントランスロビーにありました。黒曜石の原石と札沢遺跡(富士見町)から出土した香炉型土器(長野県歴史館所蔵)のレプリカです。

見逃してしまいそうです
パネルのほかにこれだけだと寂しいです

おわりに

 静岡は旧石器時代や登呂遺跡などの弥生時代の印象も強いため縄文時代の印象を薄く感じてしまうのですが、交流から見て取れる縄文土器はたいへん面白かったです。どことなくアンバランスで各地の影響をうけてコピー
してしまった縄文土器は、交流というテーマにふさわしい資料でした。
 ちなみに、考古博物館で行われる企画展は、ほぼ無料のため、有料の常設展をスルーして、企画展示室へ直行も可能です(検温、チェックシートは必要)。


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