【ぶどうの国文化館】勝沼ワインの歴史を伝える資料館
はじめに
甲州市勝沼は古くからぶどうにゆかりが深く、明治以降はワインの醸造が進められワイナリーが多く点在します。そんな勝沼のぶどうとワイン醸造の歴史を伝える施設として「宮光園」「ワイン資料館」「ぶどうの国文化館」があります。
そのうち今回はぶどうの国文化館を紹介します。宮光園の宮崎光太郎とは違う先人たちによる勝沼のワイン醸造の資料が展示されています。そして何より特徴的なのは等身大の蝋人形を使ってシーンを再現をしているというところです。
なお、宮光園、ワイン資料館については拙稿をご覧ください。
ぶどうの国文化館
ぶどうの国文化館(以下、文化館)は、宮光園から徒歩3分ほどで勝沼図書館と同じ敷地内にあるレンガ風の建物です。旧勝沼町により1995年(平成7年)に開館しました。2005年(平成17年)に勝沼町は合併し甲州市の一部となり、現在は甲州市の運営です。
入館者はお世辞にも多いとは言えません。当初は入館料100円の施設でしたが、現在は無料になっています。受付の職員がいて入館名簿に名前を記します(消毒、チェックシートあり)。職員からリーフレット配布や施設や展示に関する説明や解説は一切ありません。
等身大の蝋人形による展示ということで、B級スポットの風情ですが、資料は貴重なものです。というのも、宮光園、ワイン資料館は宮崎光太郎に関連する業績や宮崎のワイン醸造を紹介しているのに対して、こちらは勝沼のワイン醸造全般の説明資料になっています。また、ぶどうの起源の諸説を紹介したり江戸時代の甲州街道についても触れています。
ぶどうについての諸説
まず展示室は薄暗くなっています。いきなり老僧のリアルな蝋人形が鎮座していてすこし怖くなりました。蝋人形のジオラマとともに勝沼のぶどうに関する諸説を簡単に触れておきます。
行基伝説
かの名僧行基が718年(養老2年)甲斐へやってきて、夢枕に立った右手にぶどうを持つ薬師如来の姿を木彫りにして柏尾山大善寺(甲州市勝沼町)に安置しました。またぶどう園を作り、薬草として育てたのち村人にも広まったとされています。
雨宮勘解由伝説
1186年(文治2年)雨宮勘解由(かげゆ)という人物が、自生の山ぶどうと異なる蔓植物を発見。自宅に持ち帰り改良を重ねたとみろ現在の甲州ぶどうになったといわれています。
藤切祭り
伝説の紹介ではありません。藤切祭りという奇祭が、行基伝説で登場した柏尾山大善寺で行われています。神木に大蛇に見立てた藤弦を巻き、それを切り落とすと下では信者たちが奪い合うという祭です。
甲州街道の勝沼宿
かつては甲州街道の宿場の勝沼について紹介しています。
難所である笹子峠を控える地域で物流の拠点でした。宿場の規模は甲府に次いでいました。旅籠やぶどうを外で売る商人の光景なとが再現されています。
ワインの歴史
宮光園やワイン資料館の後からこちらを見ると、また高野正誠と土屋龍憲かと思ってしまいます。筆者の第一印象もそうでした。
勝沼のワイン醸造は明治10年(1877年)の地主や豪農たちによる国内初の民間ワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」の設立から始まります。彼らは高野正誠(1852年~1923年・嘉永5年~大正12年)と土屋龍憲(1858年~1940年・安政6年~昭和15年)の二人を技術習得のため2年間フランスへ留学させました。明治12年、二人の帰国により本格的なワイン醸造が始まります。二人のシルクハットは明治天皇から拝領したもので、それだけ二人の留学に対する期待が伺えるのです。
そうした、渡仏誓約書や写真や、その後高野正誠が著した『葡萄三説』の原稿など資料がケースにあります。
実は、宮光園創業者の宮崎光太郎こそが、フランスへ行きたかったのですが、年齢的に二人よりも年少だったため選に漏れています。その後、宮崎は土屋とともワイン事業を行うも、別れていいるのは宮光園の記事でふれたとおりです。
こちらには、宮光園には無い資料などがあるのです。
奥のほうでは、明治時代のワインの醸造の工程をを紹介しています。ワイン資料館に展示されていた道具を実際に使っているところでしょうか。
作業員の法被に大黒葡萄酒とありますので、これは宮光園の醸造所のイメージだと思います。
古い資料がいろいろあります。宮崎光太郎の写真もありました。
高野正誠の醸造所に関する資料もありました。
ワイン情報コーナー
展示室から出るとワインに関する情報コーナーがあります。勝沼のワイナリーのリストやマップ、ワインのボトルが紹介されています。また、過去の講演会の模様や、現存する最古のワイナリー(土屋龍憲のワイナリー)である「まるき葡萄酒」のインタビュー記事なども貼りだして紹介しています。
おわりに
甲州市は宮光園に注力していて、この建物は維持管理だけしているように感じられます。
宮光園だけではない先人たちの資料や、現在勝沼にあるワイナリーなど、勝沼のワイン全般について歴史に触れているだけにもったいないです。
宮光園、ワイン資料館、ぶどうの国文化館と3館を紹介してまいりましたが、それぞれ、展示する内容は重ならないようになっていますので、単館で見るも、見比べるのも面白いと思います。