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【感想】映画『Chime』

黒沢清監督の最新作である『Chime』という映画を見ました。
『蛇の道』から数ヶ月、黒沢監督の新しい作品を見れるということで胸が高鳴る気持ちで見に行き、本作を見た感想としてましてはこれまで見てきたどのホラー映画よりも恐ろしい作品であり、余韻がいつまでも続いていき、体の芯が震え上がってしまうほどの感覚は初めてでありました。
作品自体は、45分という短めな中編映像作品なのですが、短い時間におさめられた濃度が濃いものであり、完全にロジックが崩壊している世界観が特に良かったと思いました。
物語の概要については、料理教室の講師である松岡の生徒の田代の異様な言動から物語が歪み始めます。
‘‘チャイムのような音’’から派生される誰かからのメッセージ、脳の半分が機械なんだというわけが分からない発言、異様さは異常へと変わり、松岡の冷めきった言動すらも見る人たちにとっては違和感を覚えるようになります。
松岡の無機質な表情と噛み合わない会話は家族や女生徒の菱田からも伝染し、世界は異常さへと包み込まれていきます。
何気ない家族との食卓での息子の突発的な笑い声、妻が捨てる謎の空き缶が入った大量の袋、独断専行する松岡のちぐはぐな会話、全てが異常で狂気性が窺えられ、見る人は心理的に恐怖感を覚えさせるように仕向けた黒沢監督独自の恐怖表現によるエッジが本作では効いてるなと感じさせられました。
何度か不気味な音だけが聞こえるフレームアウトし対象物を見せるカメラワーク、長尺のワンカット、不気味過ぎる音響、これらを掛け合わせることで見る人たちの恐怖感が一気に倍増する。
本作で描かれるチャイムとは何なのだろうか。
現実で起こっていることなのか、被害妄想としての幻想なのかと全てが謎のままであります。
主演の松岡を演じる吉岡さんの目に光が宿っていない瞳から向けられた視線というのは本当に恐ろしいもので特に印象に残っています。
劇中で説明しない、語らないことで謎が謎を生み、松岡には世界がどのように見えているのかを探りたくなったし、未だかつて見たことのない新しい恐怖表現に脱帽しましたし『Chime』ではそれが思う存分に盛り込まれているなと思いました。
私が『Chime』から窺えたテーマというのは以下の通りになります。

・非日常による恐怖の伝染
・不条理
・人間の奥底に眠る真の狂気性
・ジャンルにとらわれない新たなジャンル
・独特なカメラアングルの怖さ、長いワンカット
・言語化出来ないほどの日常の恐怖
・ホラー表現、文法を打ち破る新しい表現形式

これらを踏まえての『Chime』は間違いなく、黒沢監督の新たな新境地、代表作になるものだと確信させられました。

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