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【感想】映画『PERFECT DAYS』
-『PERFECT DAYS』における、映像表現の到達点-
『PERFECT DAYS』という映画を鑑賞しました。
俳優の役所広司さんが主演を務めた映画であり、ここ最近見た映画の中では、断トツに素晴らしい作品でありました。
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監督は、ビム・ベンダース監督ということで、過去に『ベルリン・天使の詩』を見たこともあり、こちらも感慨深い名作だったので期待していた通りに想像以上に映画史に残るだろうと思わせるものでした。
物語としては、東京や渋谷を舞台にトイレ清掃員の平山という男の日常を描いた作品であり、誰もの日常の中にある普遍性が根底にあって、物語からは人間の本質が平山という人間を通して理解出来るものがありました。
清掃員としての平山の働きっぷりは実に真面目であり、彼自身はとても無口で劇中でしゃべるシーンは非常に少ないものでしたが、それは平山という人の個性として表れていると感じさせられました。
ルーティンとして、毎日同じ作業を繰り返していて、ストーリーもなかなか進展せずに、平穏な日常と時間だけが過ぎていく。
現実の自分と映画の中で描かれる平山の世界には、二つの時間が流れており、二つの時間軸に時間だけがゆっくりと流れていく。
ログラインとして映画を一文で示す表現として相応しい言葉は半面、隠者としての生き方とも捉えることが出来るものがありました。
平山は、社会的に見ても清掃員としての仕事を真っ当にこなしていますし、彼は職場に着くまでの間にカセットテープで古い音楽を聴いたり、休みの日には古本屋へ行って均一棚のところで物色して文庫本を買って、決まっては寝る前に本を読むことを楽しみにしていたりする。
そして、平山はお昼になると公園に行き、ベンチに座ってサンドイッチを食べながら、木の下から写真を撮る。
小さなフィルムカメラに撮られた写真は全て同じ木々の写真ではあるが、平山にとっては全ては同じではなく異なる写真のように思えました。
木漏れ日から射す光は、いつも平山を照らし出すものであり、光の存在は平山にとっては特別なものであって、時間や日常の普遍性こそが生きる糧でもあります。
劇中に流れる、ルーリードの「Perfect Day」は、彼に寄せた彼の為の曲であると思いました。
愛することをせずに、孤独に生きることを選んだ平山の生き方は寂しさも感じられますが、人間が人間らしく生きるということは本来では平山の生き方というのが幸せなのかもしれないのではないかと考えさせられました。
平山を演じる役所さんの演技力には驚きがあり、役所さんとしての自我と平山としての自我が同時に成り立っており、演技力における表裏性の到達点が見られて、この作品の役は役所さんでしか演じられないとも感じました。
役を演じることによって、映画に自分の演技を馴染ませていくことで、役所さんは平山という人間へと生まれ変わった。
『PERFECT DAYS』での彼のセリフはいらず、むしろ表情や行動だけで意図が伝わることで、次第に平山の個性が浮き彫りになっていく。
映画が求められるべきものとは何か、あるいは役者が演じることとは何かということ、根源としての生き方全てが本作で描かれていると思いました。
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