【感想】映画『敵』
『敵』という作品を見ました。
本作は、作家の筒井康隆先生の作品であり、同名小説を映画化したものとなっています。
物語の概要としましては、 渡辺儀助という元大学教授が妻に先立たれた後、古い家屋で静かに隠居生活をしているところから物語が始まります。
彼は、必ず自ら課したルーティンを守っており、自炊生活での食事や健康面に関してもこだわりを持っています。
財産と僅かな寿命を計算しつつ、穏やかに過ごしていましたが、ある日、彼のパソコン画面に‘‘敵’’というなメッセージが表示されます。
敵とは何か。
そして、敵が表れてから、儀助の日常は崩れ始め、現実と妄想の境目が曖昧になっていきます。
儀助は、敵と対峙する中で自らの老いと向き合うこととなります。
儀助の心の不安や終末に対する不安定さが絶妙に描かれており、なにしろモノクロに描かれているところがまた味わい深いなと感じさせられました。
捨てきれない煩悩や公演や執筆で僅かな人間関係の中での交流、遺言書も書いた後の平穏な生活、そして来るべきXデイとある日突然現れた敵、更なる日常の崩壊はまさに赴き深いものがありました。
『敵』にみられる儀助の隠居生活というものは非常に興味深いものがあると感じられました。
儀助という人は、隠居生活を楽しむ上で趣味や活動を心から楽しんでいると言えます。
隠居することで得られる時間というのは特別なものであるし、儀助の場合は家族はいないが、知人との関係を深める為に食事をご馳走したり、性を欲望のまま解放することによって、自らの死生観を象徴させたりします。
敵は儀助が作り出した妄想か、はたまた具現化させた特別な存在か、とても面白く見させて頂きました。
何よりも儀助が毎回食事する料理がとても美味しそうでありました。
そして『敵』で描かれるテーマとは何かということを考えた時、敵とは自分の内面性にみる自己認識や自己対立を暗示したものなのではないかと感じました。
アイデンティティの先にあるもの、私たちの中にも儀助同様に敵は存在するだろう、そう考えさせられました。