【感想】映画『海の沈黙』
芸術とは何か、美とは何か。
永遠のテーマであり、答え自体あるのかも分からないものであります。
ただ『海の沈黙』という映画は間違いなく、エンタメとしての映画ではなく、芸術的な映画であることは間違いありません。
何故、私たちは絵を見て芸術に浸るのか。
絵画は私たちに美を語るほどの力があるのか。
『海の沈黙』を見てそう感じました。
物語の概要としましては、世界的な画家として地位を確立した、田村の展覧会で展示作品の一つから贋作が混じっていたことが分かってしまうところから物語が始まります。
贋作事件から並行して、刺青の入った女性の死体が発見される事件も起き、二つの事件から浮かび上がったのは、かつて人々の前から姿を消してしまった孤高の天才画家、津山の存在だった。
そして、過去に津山の恋人で今は田村の妻である安奈は北海道の小樽にて津山と再会する。
津山が絵を描く理由、美と芸術から彼の求める至高の美とは何か。
彼の抱えた壮絶な過去から現在に至るまで、絵を描きながら自らを模索する美への執念と深遠の愛も混じり合う。
津山が追い求めた先にある美とは。
究極の美を求める津山だが、次第に病が彼の身体を蝕んでいた。
限られた時間の中で、津山は何を思い、何を感じるのか。
彼の描きたかった先にあるものを我々が作品を見ることによって彼の思念を理解することができる。
彼がこれまで秘めてきた画欲と愛欲が生死の間から溢れだすものこそ美だと感じた。
心をかき乱し、哀愁漂う大人の恋愛観に感銘を受けて、津山を演じる本木さんをはじめ、小泉さん、中井さんといった豪華なキャスト人の演技力は素晴らしいものでありました。
美という抽象概念を示すことを映画の中で描こうとする演出は大変良かったです。
美しいもの、それは絶対だ。
美とはそれ以上でもそれ以下でもない。
重厚的で抽象的なレベルの高い映画だったことは間違いありません。
映画を見てる時は、エンタメとしての面白さはもちろん大事な要素だと思いますが演者がこれまで自分の作品では見せてこなかった新しい演技をして、想像を越えた先の違う一面を見せた時はとても感動させられるものがあります。
まさに『海の沈黙』がそのような作品でありました。