【情けは人の為ならず(山エッセイ)】
過去に二回、スマホを落としたことがある。
一度目は2014年の2月14〜16日のどこか。はっきり覚えているのは「平成26年豪雪」と呼ばれる大雪のあった時だから。神奈川にも十年に一度あるかないかの、警報級の大雪が降っていた。
ちょうどその時期に出張が重なり、なんとか空港まで辿り着かなきゃいけないのにバスは当然来ない、タクシーを呼ぶか豪雪の中を歩くか迷っている時にスマホを落とした。
最後にバス停でスマホを確認してから5分しか歩いていない。歩いてきた道に落ちてるはずなのに見つからない。30分ほど道を探し続けたけど見つからず、雪はどんどん強くなる。結局、飛行機の時間に間に合わなくなるので諦めた。スマホは3年後に隣の市で見つかった。
拾った誰かが持ち帰り、3年経って引っ越しか何かで処分に困り捨てたのだろうと推測している。勝手にパスコードを解除しようとして何度も認証ミスしたのかiPhoneはロックされていた(当時のiPhoneはロック解除に何回も失敗するとパスコードが入力できなくなる仕様だった)。もし解除されていたらと思うとゾッとする。
警察に遺失物として届け出を出していたことすら忘れていたので、発見の連絡があった時は驚いた。スマホケースがお気に入りのバンドのLIVEグッズだったので、戻ってきただけで嬉しかった。
二度目は2019年11月30日。これも何故ハッキリ覚えているかと言うと写真が残っている。山登りをはじめて2ヶ月、初めて高尾山から陣馬山まで縦走しようと試みた日だった。
意気揚々と朝5時に家を出発し、7時過ぎには高尾山の山頂にいた。天気は祝福されたように雲ひとつない快晴で、これから歩く縦走路はさぞかし気持ちが良いだろうと感じていた。高尾山の山頂で写真を撮った。
いよいよ縦走を開始して30分、スマホが無いことに気付いた。引き返したがスマホはどこにもなかった。
一度目の経験があったので、もう見付からないだろうと諦めていた。縦走も諦めてトボトボと下山する。山道を歩いていてあんなにも気分の沈んだことは無い。
一応、八王子の駅で交番に行って遺失物届けを出そうとした。どうせ見つかりゃしないだろうと投げやりな気分で。ところがなんと、その交番に私のスマホが届けられていた。
山頂で拾ってくれた心優しい誰かが、帰り道で交番に届けてくれたらしい。世の中には親切な人もいるのだな、と私は見知らぬ誰かに感謝した。
なるべく人にはやさしくしたい。スマホを拾ってくれた見知らぬ誰かに恩を感じている。誰かが私を助けてくれたように、私も見知らぬ誰かに親切にする。
情けは人の為ならずと言うが、そうして見知らぬ誰か同士で親切が巡っていくのは良いことじゃないかと思う。