【港へ行って山へ登る(山エッセイ)】
一時期、沼津に住んでいた。その頃は山に興味も無かったので調べたこともなかったが沼津にも山はある。
香貫山(かぬきやま)
横山(よこやま)
徳倉山(とくらやま)
志下山(しげやま)
小鷲頭山(こわしずやま)
鷲頭山(わしずやま)
大平山(おおひらやま)。
静浦山地の7つの山を結ぶ縦走路を、地元の愛好会が道を整備して「沼津アルプス」と名付けたのだとか。地元の里山を繋げて○○アルプスとするご当地アルプスは様々な地方にあり、沼津アルプスもそのひとつ。道中では駿河湾の景色と富士山の眺めが美しく、ご当地アルプスの中では知名度も高いようでわざわざ遠方から訪れる人も多いのだとか。
夏の暑さと曖昧な天気でどこの山に行くのもパッとしないので、縁のある土地の沼津アルプスを歩くことにした。沼津と言えば港町。港に行って海にも行かずわざわざ山へ行く。この夏の暑い時期に。
夏は山のシーズンではあるものの低山は別。熱中症への厳重警戒が必要な猛暑の中、低山を歩くのは暑さと汗で体力をひどく消耗する。縦走は山から山へ歩くのでアップダウンも多く疲労もその分、増す。とはいえ沼津アルプスの最高峰は鷲頭山の392メートルで高尾山よりも低い。それほど疲れもしないだろう。
なんて考えたのが間違いだった。
沼津アルプスはとにかくひたすら山頂へ向かって真っ直ぐに登山道が続く。山腹を迂回しない。ひたすら真っ直ぐ。胸を突くほどの直登に次ぐ直登。かと思えばせっかく稼いだ標高を同じような急勾配で下る。そしてまた登る。直登と直降を延々と繰り返す。
今日の沼津の最高気温は32℃。標高の低い沼津アルプスの山々の気温もほぼ30℃近い。猛暑の中とにかく登る。とにかく降りる。せめて風があれば良かったのに今日は無風。汗が滝のように流れて頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れで歩く。蚊の猛襲。耳元をブンブン飛び回るアブ。どう考えても夏に登るところじゃない。熱中症にならないように塩タブレットをがりがり噛み砕きながら猛烈に歩いた。
人生でこんなに汗を流したのは初めてじゃないかと思えるほどに汗をかいた。縦走路の後半はヘトヘトに疲れ果てて集中力も判断力も低下した。看板にハッキリ【→】と矢印が描いてあるのを確認してから「よし左だ」と矢印の反対に向かって歩く。急坂を足を滑らせないように10分ほど下ってから「待てよ、看板の矢印
→ って描いてあったな」と気が付いた。地図を確認してみたら道を間違えている。【→】と描いてあるところを左に曲がったのだから、当然。疲れとは恐ろしい。なんで左に曲がったのかわからない。また急坂を登り返す羽目になった。
人気の山道とはいえわざわざ夏に登るようは物好きは少ないようで、今日は最初から最後までただのひとりともすれ違わない。おかげで静かな山歩きを楽しめた。反面、唯一の獲物だからかずっと耳元を蚊とアブが飛び回っていた。とにかくキツイ山道だった。
久々に沼津の海を眺められたので、とても充実した山歩きではあったけど。