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【連作】運命を切り開く
先生が銃殺されたので、私は犯人探しをする。一部の日本国民を除いて、一般的には所有できない凶器を用いた殺人だ。ホシは直ぐにでも見つかるだろう。
ホシが誰とか、その他諸々の追求は警察の仕事なので。それよりも何故、先生は銃殺されたのか。私は、その点に着目して首を捻る。
拳銃=ヤクザ、とか暴力団などのイメージが湧くが……まさか、その手の輩と繋がりが? それとも実は、そういう組織の頭の娘だったとか? それはそれで問題だ。一概に否定出来ないのが尚更問題である。
先生は何処か普通と違う──よく言えばミステリアス、悪く言えば非常識の塊だったので。「××組の頭の一人娘なのよウフフのフ」と告白されても全然意外性がない。寧ろ納得。
納得だが、路傍の石ころの様な、取るに足らない一般ピーポーな私は、これからどう接すれば良いのだろう。腫れ物に触るみたいな接触をする気はないが、いつでも何処でもドタマにズドンな環境は精神衛生上宜しくない。心身の平穏を保ちたい。世界平和は望まないから、個人的なそれだけお願いカミサマ。
捜査の片手間に、今後の付き合い方を考えていると、先生を銃殺した犯人が自首してきた。
犯人の容姿は、先生と瓜二つだった。正確には『私の先生』よりも、やや髪の短い先生だった。先生が双子だったなんて話、聞いたことがない。私は酷く驚いた。そもそも、先生の口から親兄弟の話を聞いたことが無かった。此方からも尋ねたことがない。
セーラー服と白衣を纏う彼女が自白する。
「僕が殺したのは、僕とは異なる時間軸に生きる『僕』だ。この時間軸の『僕』は未来で天皇を仮死状態し、総理を有刺鉄線と五寸釘で磔にした後に時限モルヒネ注入装置でヤク漬けにする。ヤク漬けの体は意識がある状態で燃やす予定だ」
「……だからって、何故殺したんですか?」
面会室のアクリル板越しに問い掛ける私を真っ直ぐ見つめながら、先生のソックリさんは首を傾げる。その表情は余りにも無垢だった。真っ新な幼児が、初めて世界を目にした顔だった。
数秒後、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。どこか懐かしい笑みに、私の心が血を吹き出しそうなほどギリギリと締め付けられる。
「この世界軸に『僕』が存在しない限り、君に“疑い”は掛からない」
なるほど、と私は頷く。
未来の私は、何らかの疑いを掛けられるのか。全くの無実──もしかしたら限りなくグレーな無実の存在──なのに、如何しようもない疑いを掛けられて、とんでもない事態になるのかもしれない。それを阻止する為に、ソックリさんが現れて、先生を殺した。
『私の先生』は死んでしまった。でも、私は『彼女』に愛されている。運命を変えよう、良い方向に切り開こうと手を汚す程度には、愛されている。
その心意気を知って、如何しようもなく安心する自分がいた。
(了)
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